撃たれたのはこの映画のJoel Souza(ジョエル・ソウザ)監督と女性のHalyna Hutchins(ハリーナ・ハッチンズ)撮影監督でした。撮影監督のほうが亡くなりました。
亡くなったハリーナ・ハッチンズ撮影監督は、「主演女優さん?」と間違ってしまうほどのウクライナご出身の美しい方です。
撮影中に、アレック・ボールドウィンが使ったプロップガン(撮影用に用意された銃)に実弾が紛れ込んでおり、そのうち1発の銃弾が、撮影監督の上半身(腹部上部)を貫通した後、監督の鎖骨付近に当たって止まった模様です。監督の肩からは実弾の弾頭とみられる鉛が摘出されました。
この着弾位置から、演技するアレック・ボールドウィンの、正面から撮影監督は立った状態でカメラを向けており、その背後に監督が腰をかがめるか、椅子に座った状態で撮影に臨んでいたことがうかがえます。
映画「RUST」の撮影現場
- Bonanza Creek Ranch(ボナンザ・クリーク・ランチ)
- Bonanza Creek Lane, Santa Fe, NM 87508 U.S.A.
- https://bonanzacreekranch.com/
- 現場「教会」の座標:35.54339518476884, -106.09785900839512
映画「RUST」の撮影は西部劇のセットが組まれている撮影所、ニューメキシコ州サンタフェにある Bonanza Creek Ranch(ボナンザ・クリーク・ランチ)で行われていました。サンタフェは、日本人にとっては、宮沢りえの写真集『Santa Fe』で有名な場所です。
事故現場はそのセットの北西側へ、少し離れた場所にある建物「教会」(上の座標がピンポイントの位置)で起きました。地元警察による黄色の規制線が、この「教会」の建物を取り囲むように四角形に張られていることからもこの場所が現場であることがわかります。
この「ボナンザ・クリーク・ランチ」では、ダニエル・クレイグとハリソン・フォードが共演した『カウボーイ & エイリアン』(Cowboys & Aliens)など、数々の西部劇(西部劇風なものも含む)作品が撮影されています。
映画「RUST」の銃誤射の背景
映画「RUST」は西部劇
映画「RUST」は現代を舞台にした西部劇風の映画、ではなく、完全なる西部劇です。一言でいうと、クリント・イーストウッドが監督・主演した1992年の映画『許されざる者』(Unforgiven)のような映画を作ろうとしていたようです。アレック・ボールドウィンが製作段階から加わり、クリント・イーストウッドの『許されざる者』の脚本と、別の実話に大きく影響を受け、この「RUST」を製作にとりかかった、とのこと。
西部劇という点が今回の事故のポイントになるのかもしれません(後述)。
「RUST」のタイトルの由来
ちなみに「RUST」というのは、アレック・ボールドウィンが演じる、この映画の Harland Rust(ハーランド・ラスト)という主人公の名前から来ていますが、rust(錆びついた老人)という意味も掛けられているようです。あらすじ
あらすじは、アウトローである主人公ハーランド・ラストが、事故で殺人を犯してしまい絞首刑を宣告された13歳の孫ルーカスを救い出したことから、保安官や賞金稼ぎと戦うことになる・・・というお話で、『許されざる者』に似ています。西部劇用の古い銃
この映画「RUST」は西部劇なので、もちろん、グロックとかベレッタとか、今時の銃の形態ではありません。使われた銃は西部劇用の古い銃です。アレック・ボールドウィンがカメラリハーサル中に、ホルスターから銃を抜く練習をしていた時に発生したことから、銃はライフルではなく拳銃で、リボルバー(回転式銃)です。当初、44マグナムと報道されていましたが、後の警察の発表によると、コルト社製の45口径リボルバーとのことです。リボルバーといっても、さらにひと昔前の西部劇タイプの、扱いがめんどくさい形状のものです。弾のリロード(排莢/使用済み薬莢の排出→再装填)も手間がかかり、特にシリンダーが開放できないタイプは特定の穴から1発ずつ排莢しないといけないので、使用済み薬莢や不発弾がそのまま残ってしまうことがあります。
最近は西部劇はほとんどなくなってしまったので、それに使われる小道具などの回転率も低くなり、今時の銃と形状も違えば、扱い方も弾も異なる西部劇用の古い銃(もはや骨董品)の管理・チェックが、おざなりになっていたことも考えられます。
西部劇製作経験がある現役世代が高齢化でいなくなり、若いスタッフへの技術の伝承がうまくなされていなければ、今後もハリウッド映画の西部劇では、同じような事故が多発する可能性があります。今回も銃(小道具)担当は若い女性スタッフだったようです。
プロップガン(撮影用の銃)といっても、アメリカでは銃本体は ほぼ本物で、弾だけ空砲ということが多く、誤って実弾が紛れ込んでいたりすると、こうした悲劇が起きてしまいます。
撮影中の銃の事故例
今回のこの誤射事故に一番近い例として、1993年にブルース・リーの息子であるブランドン・リーが、映画『クロウ』の撮影中に、実弾が当たり命を落とした事故が挙げられます。この時は、44口径のスラッグ弾でした。また、TVシリーズ「カバーアップ」主演のジョン=エリック・ヘクサムが、1984年に、撮影中にふざけてロシアンルーレットで自分の頭にプロップガンを当てていたところ、空砲を誤射。実弾ではないものの、銃口から噴き出す火薬燃焼のガス圧による頭部損傷で亡くなる事故もありました。空砲ですが至近距離だったため、屠殺用のガスボンベと同じ原理が働いたものと見られます。この時も44口径の銃でした。
事故当日
今回の事故当日(2021年10月21日 現地時間)は、このセッションの「21日間の撮影スケジュール」の、20日目ということで撮影もいよいよ終盤、教会での銃撃戦(クライマックス)というシーンでした。撮影も巻きが入っていたようです。火薬が入ったプロップガンを使っている(実際に銃の音を鳴らす)ことからも、本番または本番直前の最終リハーサルだったことがわかります。
このシーン撮影時は、アレック・ボールドウィンはスタッフ(助監督)が用意した3丁のプロップガンから1丁を受け取り、撮影に臨んでいました。事故発生直後、アレック・ボールドウィンは、
Why was I handed a hot gun?!'と周囲に漏らし、取り乱していたようです。
(なぜ本物の銃を渡されたんだ?)
この事故をふまえ、現在は撮影は中止(中断)となっていますが、映画の完成を一番望んでいるのは、亡くなったハリーナ・ハッチンズ撮影監督だと思うので、アレック・ボールドウィンやスタッフの心のケアおよび監督のケガが回復したら、撮影を再開し、無事に完成することを願っています。
追記
【銃誤射】映画の撮影現場で撮影監督が死亡 俳優を過失致死罪で起訴 アメリカ(2023/01/20)
2021年、アメリカの俳優アレック・ボールドウィン氏が誤って実弾入りの銃を撃ち撮影監督が死亡した事故で、検察当局は19日、ボールドウィン氏を過失致死罪で起訴すると発表しました。
https://www.youtube.com/watch?v=RAtpaTgWOOo