ランス・ヘンリクセンがターミネーター役のままだったら?

ターミネーター

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ランス・ヘンリクセンのターミネーター

映画『ターミネーター』(The Terminator、T1、1984年)のターミネーター役は、当初、シュワちゃんことアーノルド・シュワルツェネッガーではなく、ランス・ヘンリクセンがキャスティングされていたのは有名な話です。

その後、ランス・ヘンリクセンは刑事役に変わりました。


ネット上にも、以下のような質問が見られます。

ターミネーターは最初ランス・ヘンリクセンさんがターミネーターの役をやる予定でしたがもしランスさんがやっていたらこれほどの大作になったと思いますか?
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10259474945

では、ランス・ヘンリクセンがターミネーターT-800をやっていたら、どんなターミネーターになっていたのでしょうか?

幻のターミネーターの実際のイメージ画像

実は、ランス・ヘンリクセン版ターミネーターのイメージ画像は存在します。

それがこちら→https://www.imfdb.org/wiki/File:T1proto3.jpg

An earlier concept-art by James Cameron depicts Lance Henriksen as The Terminator (the director's original intention for the film was to have the Terminator be more of an infiltrator, hence the more "common man" appearance).

ランス・ヘンリクセンをターミネーターとしてジェームス・キャメロンが描いた初期のコンセプト・アート(絵コンテ)。キャメロン監督のオリジナルな構想は、ターミネーターはもっとインフィルトレイター(潜入潜伏者)であり、もっと「ふつうの男」の外見だった。
https://www.imfdb.org/wiki/Terminator,_The_(1984)

とのことです。

ターミネーターに限らず、シュワちゃんが演じる役は、どれも現実離れした漫画チックなキャラクターになってしまいがちですが(それゆえカリスマ性やインパクトはある)、ランス・ヘンリクセンが演じた場合、かなり一般市民と見分けがつかないような感じのターミネーターT-800になっていたはずです。それはそれで怖いものがあります。

ちなみにランス・ヘンリクセンの身長は178cm、アーノルド・シュワルツェネッガーの身長は(諸説ありますが)186-188cmくらいなので、約10cmの差があり、観客が受けるインパクトもだいぶ異なってくるはずです。

ちなみにランス・ヘンリクセンは、ジェームズ・キャメロンのT1の前の作品『殺人魚フライングキラー』(Piranha II: The Spawning、1981年)にて主役を演じており、その後もジェームズ・キャメロン監督作品の常連さんとなり、いわゆる「キャメロン・ファミリー」の一員と言われています。

実はT2を見れば分かる

実際のイメージ画像は前述リンク先の通りですが、では全体の雰囲気としては、ランス・ヘンリクセンがT-800を演じていたら、どんなターミネーター映画になっていたでしょうか。

それは『ターミネーター2』(Terminator 2: Judgment Day、T2、1991年)を見ると分かるようになっています。

なぜなら、T2は、T1でやり残したことを実現させた映画だからです。

T2で実現させた「サイバーダイン社爆破計画」

T2の主要なお題は、「サイバーダイン社を爆破させて未来を変える(No Fate)」でした。
→関連記事:No Fate(運命未定)ターミネーター名言集

実はそのT2の「サイバーダイン社爆破計画」というのは、T1の段階ですでに出ていたのですが、カットされてしまいました。カイル・リースがTIKIモーテルでダイナマイトを自作していましたが、あれは元々はサイバーダイン社を爆破するために作ったものです。
→詳細:ターミネーター2発祥の地T1【フォールズ・カフェ】

そのT1で実現できず、やり残していたネタを膨らませて映画化したのがT2だったのです。
そのため、T2のサラ・コナーは、T1のカイル・リースへの想いが詰まった衣装を着用しているのです。
→詳細:T2サラも愛用のカイル・リースのコートの怪

細マッチョな男にしつこく追われる

そして、前述のコンセプト・アートの説明にもあるように、元々はジェームズ・キャメロンは、ターミネーターT-800は、ランス・ヘンリクセンのような、平均的な身長で、平均的な肉付きの細マッチョなイメージを持っていました。

その「キャメロンの本来のターミネーター像」を実現させたのが、T2の液体金属T-1000ターミネーター(ロバート・パトリック)だったのです。ですので、T2のT-1000のような外観が、本来T1でのターミネーターのイメージだったのです。そのため、ロバート・パトリックとランス・ヘンリクセンは、少し雰囲気が似ているところがあります。

変幻自在な潜伏者が人間社会に潜入し、しつこく追い掛け回す・・・というのが元々のT1のコンセプトだったので、それを実現したのがT2でした。

ですので、ランス・ヘンリクセン版ターミネーターはどんな雰囲気だったのか?というとT2のT-1000みたいなイメージである、ということになります。

ちなみにT-1000を演じたロバート・パトリックは、このショッピングモールにてジョン・コナーのバイクを駐車場で追いかけるシーンのリハーサルで、ジョン・コナーのバイクに追いついてしまい、背中にタッチしてしまった・・・という逸話が残っており、スピーディーでキレキレでした。

パワフルで動きがゆったりと大きいシュワちゃんターミネーターと違って、ランス・ヘンリクセンが演じた場合、T-1000のように外見は平均的ながらもキレキレで、より粘着質でサイコなターミネーターになっていたことがT2からうかがうことができます。

あの「日付の間違い」の原因にも

以上のように、当初T1はランス・ヘンリクセンがターミネーター役として、1983年を舞台に展開するはずでした。ところが、アーノルド・シュワルツェネッガーに変わることになり、1984年にズレこむことになりました。

そのため、T1において、カイル・リースが警官に日付を尋ねた際、

12, May, Thursday. (5月12日。木曜日だ。)

という間違ったセリフになってしまったのです。ここは本来は1984年なので「5月12日。土曜日だ。」でなければなりません。

5月12日が木曜日なのは、1983年です。T1の舞台の1984年は5月12日は土曜日です。脚本の1983年の設定を修正し忘れてしまったため、1984年なのに1983年の月日と曜日を発してしまった、というT1のミスの背景は、このターミネーター役のキャスティングの変更も関係していたのです。

1983年当時のターミネーターの脚本は、タイムトラベルの到着地点が学校だったり、カイル・リースと一緒にもう一人兵士が到着していたり、と様々な違いが存在しています。
→関連記事:カイル・リースと来た別の兵士(ターミネーター1脚本)

「エイリアン2」で実現する

T1で実現できなかった(やり残した)ことをT2で実現したように、ジェームズ・キャメロンは当初やり残したことを持ち越して、別の作品で実現する傾向があります。

どうしてもランス・ヘンリクセンにロボット(サイボーグ)をやらせたかったジェームズ・キャメロンは、映画『エイリアン2』(Aliens、1986年)にて、ついにランス・ヘンリクセンにアンドロイドという非人間役をやらせます。

『エイリアン2』では、ランス・ヘンリクセン演じるビショップは、ナイフのシーンのようにキレキレの動きをする一方、腹に何か一物を持っているようなミステリアスな表情を見せることもあり、総じて終始、静的で無表情です。『エイリアン2』を見れば、さらにランスヘンリクセンがターミネーターを演じていたらどうなっていたか?の答えを補うことができます。

リンク性があるキャメロン作品

『ターミネーター』の当初のイメージを『エイリアン2』で補う、というのは何も行き過ぎた想像力でもなんでもなく、ジェームズ・キャメロンの作品というのは、違うシリーズであってもリンク性があるのが特徴です。

例えば、ジェームズ・キャメロンが関わった以下の3つの作品・・・

  • 1984年「ターミネーター1」(監督・脚本)
  • 1985年「ランボー2」(脚本)
  • 1986年「エイリアン2」(監督・脚本)

は共通しています。これら3作品はベトナム戦争がモチーフになっており、いずれも「ベトナム戦争のPTSD」を反映させたキャラクター創造となっています。
→詳細:ターミネーターがT2で完結した理由

また、『エイリアン2』でのヒックス伍長(マイケル・ビーン)がT1のカイル・リースと同じショットガン(イサカ37)を持ちながら言うセリフ、

I like to keep this handy...for close encounters.
接近戦にはこれが一番だ

も、ベトナム戦争帰還兵をモチーフにしたT1のカイル・リースと、エイリアン2のヒックス伍長でつながりを感じさせるようなセリフになっています。
→詳細:接近戦にはこれが一番だ【エイリアン2】の意味

その他、キャメロン作品には、以下のような「間接的な互換性」があります。

  • ビル・パクストン・・・『ターミネーター』1984年→『エイリアン2』1986年
  • ジェニット・ゴールドスタイン・・・『エイリアン2』1986年(女兵士ヴァスクェス)→『ターミネーター2』1991年(養母)

ちなみにランス・ヘンリクセン、ジェニット・ゴールドスタイン、ビル・パクストンの3人は『ニア・ダーク/月夜の出来事』(Near Dark、1987年)という映画で共演しています。

大作・シリーズ化はしたか?

最後に、「もしランスさんがやっていたらこれほどの大作になったと思いますか?」については、ブラッド・ピット主演の映画『セブン(Se7en)』のように、独特で不気味な映画として語り継がれるような、知る人ぞ知るSFスリラーの名作にはなったかもしれません。
『エイリアン2』では、上図のように、ランス・ヘンリクセン(ビショップ)のフィギュアも作られていることから、彼がターミネーターを演じても、フィギュアが作られるほどに人気を得た可能性はあります。

しかし、3~6が作られるような商業主義的シリーズにはならなかったことでしょう。
なぜなら、ターミネーターが2以降~6まで作られた背景には、シュワちゃんが出演にノリノリだったことが大きく影響しているためです。

Nothing less than $30 million.
T3は出演料(3000万ドル)以外に何も得るものはないよ。

・・・ジェームズ・キャメロンがシュワちゃんからT3への出演相談を受けての回答。
→詳細:T2で完結,スープに小便【ジェームズ・キャメロン語録】

また、間違いなくT3やT5(ジェニシス)のように、ギャグ路線に走ることもなかったでしょう。

そしてシュワちゃんを出演させるために、T5やT6(ニューフェイト)などは、ターミネーターの無理やりな老人設定などがなされて、老人設定を可能にするために全体のストーリーが捻じ曲げられて作られています。

そのことからも明らかなように、ランス・ヘンリクセンがT1でT-800を演じていたら、ターミネーターも全く違う時間軸(運命)を歩んでいたことは明らかです。

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