ターミネーター2発祥の地T1【フォールズ・カフェ】

ターミネーター ロケ地

t f B! P L
映画『ターミネーター1』(The Terminator/ T1 /1984年)に登場した、ほぼ誰も知らない山の中のロケ地「フォールズ・カフェ」。

サラ・コナーがNo Fateに覚醒し、カイル・リースが泣いたこの場所は、「ターミネーター2」の起源の場所「T2発祥の地」と言えます。
ターミネーター・フォールズ・カフェ
(文字センスが独特なThe FALLS CAFE/フォールズ・カフェの看板)

T1のロケ地としてこの場所に言及している日本語サイトはゼロ。海外に1つあるかないかレベルです。そのロケ地はこちら。

The FALLS Cafe(ザ・フォールズ・カフェ)

Film Location

カイルリースとサラコナー
サンタ・クラリタの山奥の渓流沿いにあったこのカフェの建物は、2003年に取り壊され、すでに消滅しています。建物の土台(基礎部分)と、サラ・コナー(リンダ・ハミルトン)が使っていた公衆電話のさらに奥にある離れの小屋(おそらく滝訪問者用のトイレ)だけ、かろうじて残っている状況です。

カイル・リース(マイケル・ビーン)とサラ・コナーが駆け降りていった、渓流への下り道は、当時のままの様子で今も残っています。

ちなみに、このFALLS CAFEのFALLS(フォールズ=滝)とは、近くの、
  • Bouquet Falls(ボウケイ・フォールズ/ボウケイの滝)
  • 35191 Bouquet Canyon Rd, Santa Clarita, CA 91390 U.S.A.
を指しています。

そこの滝を訪れた観光客や、このボウケイ・キャニオン・ロードの通行者をお目当てに作られたのが、このThe FALLS Cafe(ザ・フォールズ・カフェ)です。

この建物(カフェ)自体の情報がほとんど見当たらないのですが、1件だけ、以下のような記事がありました。
My grandfather, George, an immigrant from Armenia who escaped genocide under Turkish rule in the late teens or early 1920s, bought the place from Abe Biederman sometime in the late 1940s. George had sold his Glendale liquor store and moved to Bouquet Canyon in the early 1940s. He and his family ran The Falls café for a while. It was torn down a few years ago.
https://scvhistory.com/scvhistory/jefflogian20180812.htm
オスマン帝国時代のアルメニア人ジェノサイド(アルメニア人虐殺)から避難してアメリカに移民した人々がここの土地を買って、1940年代からThe Falls cafeを営んでいたようですが、建物は2003年頃に取り壊されたようです。

「13日の金曜日 PART3」のHarold & Edna's store

このFallsカフェですが、T1より2年前に公開された映画『13日の金曜日 PART3』(Friday the 13th Part III: 3D)の序盤のシーンにて、惨劇の主戦場クリスタル・レイク近くの Harold & Edna's store(ハロルドとエドナの店/雑貨屋/よろず屋) のロケ地としても使われています。
13日の金曜日のハロルドとエドナの店
(13日の金曜日 Part3の事件現場として)

当時はホラー映画と3D映画が大ブームで、この『13日の金曜日 PART3』(1982年)も3D、『ジョーズ3』(1983年)も3Dでした。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)にも3Dメガネをずっと掛けている謎のキャラクターが登場しています。 この当時のホラー映画ブームにあやかろうと、「ターミネーター1」もホラー映画として作られたので、「13金」とのロケ地の重複は因縁を感じます。製作陣が委託したロケ地・コーディネーターが同じ人(会社)なのかもしれません。 ジェームズ・キャメロンは前作のホラー映画『殺人魚フライングキラー(Piranha II)』(1981年)で大失敗し、そのリベンジとしてターミネーターに監督生命をかけていました(→関連:ターミネーター新作の鍵を握るゲイル・アン・ハード)。倒れても倒れても襲ってくるターミネーターは「13日の金曜日」のジェイソンなど、1980年代前後のホラー映画の有名キャラクター群を踏襲しています。

The FALLS Cafeのシーンの見所・解説

『ターミネーター1』において、このThe FALLS Cafe(ザ・フォールズ・カフェ)の場面は、劇場公開版では未公開シーンとなっていますが、未公開にするにはもったいないほどの重要なシーンとなっています。
ターミネーター1のフォールズ・カフェ

スカイネットが恐れたサラ・コナーの特性がわかる重要なシーン

その理由は、なぜサラ・コナーがスカイネットにとってそんなに脅威なのか?が分かるシーンだからです。

時系列のおさらい

このFALLS Cafeのシーンの時系列は、

  1. T-800による警察署襲撃からサラ・コナーとカイル・リースが車で脱出し、
  2. 山の中の道路でガス欠、車を乗り捨て、
  3. 道路下のトンネルのような所で一晩を過ごした(カイル・リースが未来のジョンからのメッセージをサラに伝えた)

の後の朝のシーンとなります。

この山の中のフォールズ・カフェで、カイル・リースはポンコツ車を見つけて、修理して拝借しようとしています。一方、サラ・コナーはおそらくトイレに行ったついでなのでしょう。カイル・リースに隠れて、サラは建物の脇にある公衆電話から母親に「心配しないように」電話します。その際、電話帳でサイバーダイン社の住所を調べ、そのページを引きちぎって、カイル・リースに見せます。

サラとカイルの会話

その際のサラ・コナーとカイル・リースで交わされた会話は以下の通りです。
SARAH:Look what I found.
[これ(電話帳から引きちぎったページ)見つけたの、見て。]

KYLE:What's that?[何?]

SARAH:Cyberdyne Systems. Isn't that it?
[サイバーダイン・システムズ社よ。これがそうでしょ。]

KYLE:What about it? [それがどうした?]

SARAH:Listen to this. They develop this revolutionary new thing, this m...
[聞いて。その会社が新しいやつを開発したのよね、その分子・・・]

KYLE:Molecular memory. [分子メモリ。]

SARAH:Right. So they become hotshot computer guys and develop this thing for the government, right?
[そう、それ。その会社が政府の要請で開発した。]

KYLE:Right. That's the way it was told to me. [そう、そのように聞いてる。]

SARAH:So we can eighty-six the bastard. We can blow it up. It'll never happen.
[そうなら今、爆破してしまえば、開発を阻止できるわ。]

KYLE:It's tactically dangerous. We lay low. [それは危険すぎる。身を隠すべきだ。]

SARAH:No, Reese. Think it through. We can prevent the war. There's nobody else.If we go to somebody official, we end up in jail again and he's got us again.We've got to do it ourselves.
[いいえ、リース、よく考えて。私たちは戦争を阻止できるのよ。他に誰もいないわ。私たちが捕まれば、刑務所に入れられて、ヤツ(ターミネーター)がやってきてやられるわ。自分たちでやるしかない。]

KYLE:That's not my mission. [それは僕の任務じゃない。]

SARAH:Listen. Understand. I am not a military objective. I'm a person, and you don't own me.
[聞いて。分かって。私は兵士じゃないし、ただの人よ、あなたの所有物じゃないわ。]

KYLE:Let's go. [行こう。] →サラが渓流の方へ駆け出す。カイルが追いかける。

SARAH:Fuck you! Let me go! [(カイルが追いつき腕をつかんだので)バカ、離して!]

KYLE:Sarah!

SARAH: Let go! (サラがカイルの顔を手で殴る。)

KYLE:Sarah!(カイルはサラに銃を向ける。)

SARAH:That's real brilliant. Go ahead, shoot. That's smart. [いい案よ、撃てばいいわ。]

SARAH:Jesus Christ, Reese. Don't you see that I am scared? I don't wanna spend my whole life waiting for that thing to catch me. Always looking over my shoulder, wondering if I left some tiny clue behind.
[リース、怖くて仕方ないの、わからない?一生捕まるのに怯えながら、いつ殺されるのかわからない生活なんて嫌よ。]

KYLE:・・・・(沈黙。呆然としている。)

SARAH:Reese!....Reese?

KYLE:I don't belong here. I wasn't meant to see this. It's like a dream.This. And this.And you. It's so beautiful...it hurts, Sarah. It hurts so bad. You can't understand. It's gone. All gone. All of it, it's gone.
[ここは別世界だ。こんなはずじゃなかった。夢みたいだ。これ(緑/自然)も・・・花も・・・君も・・・とても美しい。サラ、とてもつらいんだ。君にわかるかい?すべて消えたんだ。すべてが無くなってしまった(涙)。]

SARAH:Well, we can change it, Kyle. We have to at least try. There is no fate but what we make for ourselves, right? Come on, kiddo. What do you say?
[変えることはできるわ、カイル。少なくともやってみなきゃ。「運命は決まっていない、自ら作るもの」でしょ。ねぇ、そうでしょ、答えて。]

KYLE:OK. [わかったよ。]

サラ・コナーのすごいところ

この会話では「サラ・コナーのすごいところ」・・・「スカイネットがなぜサラコナーを最も恐れたのか?」がわかります。ポイントは、以下の2点です。

  • So we can eighty-six the bastard. We can blow it up. It'll never happen. We can prevent the war.(サイバーダイン社を爆破すれば戦争を阻止できる。)
  • We can change it, We have to at least try. There is no fate but what we make for ourselves, right?(運命は変えられる。少なくとも挑戦せねば。)

数時間前に未来の話を「聞いただけ」なのに、そこから一気に(自分をねらってくる一体のターミネーターの心配でなく)その根源となる親元まで根絶してしまおうという超攻撃的な発想がサラ・コナーのすごいところで、自分だけでなく「核戦争を阻止」という人類全体の心配まで至っています。この点こそが、スカイネットがサラコナーを特に恐れた理由なのでしょう。

ターミネーターのタイムラインを考察するに、時間軸の矛盾を解消するには、少なくとも1回はジョンコナーの父親がカイル・リースではないタイムラインが存在しないと成立しません。
→関連記事:カイル・リースと来た別の兵士(ターミネーター1脚本)

上の会話のサラ・コナーからうかがえることは、例えカイルリースではない、別の人物が現代にやってきてサラに話をしただけでも、また、例えジョンコナーという人物が未来に存在しなかったとしても、未来の話を聞いただけで、いずれにしてもスカイネットを根絶しようという発想がサラコナーに生じることが十分にうかがえる描写です。

よって、スカイネットはジョン・コナーや他の誰よりも、とにもかくにもサラ・コナーを最重要危険人物とみなし、刺客を送ったのでしょう。

「ニューフェイト」のダニーとの比較

このあたり、「ターミネーター・ニューフェイト」のダニーと比較してみると、サラ・コナーの特性が より際立っていることがわかります。

「ニューフェイト」のダニーは、「襲ってくる一体に対処する(ここで迎え討つ)」という発想しか出てきませんでした。
しかしサラ・コナーはその一体だけでなく、「総元の根源が誕生する前に根絶しよう」という発想が最初から出てくる点が異なっています。「専守防衛」でなく「攻撃は最大の防御なり」という本質を持つサラコナーのような人間は他におらず、だからこそスカイネットが最も恐れ、標的としたことがわかります。とにかくサラ・コナーにスカイネットのことが知られたらヤバイわけです。

なぜこのシーンはカットされたか?

以上のようにとても重要なシーンですが、重要すぎるからこそ、このシーンは劇場公開版ではカットされたと言えます。カットされた理由は以下のように複数考えられます。

  1. 映画なので時間に限りがありテンポも悪くなるから
  2. 結局、何もやっていないから
  3. 重要過ぎて1作では収めきれないから

1.については、映画は1時間半~2時間程度しか枠がないので、そこそこ重要なシーンでもカットしなければならない箇所は必ず出てきます。このフォールズ・カフェのシーンは、それなりの尺があるヒューマン・ドラマなので、時間があるTVドラマならまだしも、映画館での上映回転率が求められるホラー兼アクション映画として1時間半で収めるにはテンポが悪くなってしまいます。テーマを「対スカイネット」よりも「対ターミネーター1体」に絞ったほうが、ターミネーターの怒涛の襲撃感をうまく表現することができます。

2.については、ここでカイル・リースを「No Fate」で納得させはしましたが、結局のところ、「No Fate」の行為をする前に(サイバーダイン社を爆破する前に)、T-800の襲撃を受けて計画がとん挫してしまいます。つまりT1においては「No Fate」な行為は何もできていないので、このシーンを挿入する必要がなかった、ということになります。
このTIKIモーテルで、なぜカイル・リースがダイナマイトを作っていたのかというと、それはサラの「No Fate」の願いに従って、サイバーダイン社を爆破するためだったのですが、結局 爆破未遂に終わりました。

3.については、カットはしたものの、かなり重要なシーンかつ「No Fate」という重要なテーマだったので、それを描くにはT1という一作品では収めきれない、と感じたものの思われます。そのため、この「No Fate」のテーマとサイバーダイン社を爆破するという行為は「ターミネーター2」という続編に形を変えて、さらに掘り下げて展開されることになります。T2の原形(起源)はこのフォールズ・カフェのシーンにあった、ということです。

T2発祥の地

前述3の通り、このシーンをカットする一方で、エンディングでサラ・コナーが救急車で運ばれた後に、「実はここがサイバーダイン社でした」という「Fate(運命は変えられない)」なシーンもカットされました。このことから、ジェームズ・キャメロンは、T1も「No Fate」というテーマで作っていたことがわかります。そしてそのやり残しを片づけるために、ジェームズ・キャメロンは今度は「No Fate」を徹底的に掘り下げた作品「ターミネーター2」(T2)を作りあげます。
その意味では、サラ・コナーが「No Fate」に覚醒したこの場所は、「T2の発祥の地」と言えるでしょう。このフォールズ・カフェの場所で考えついた「サイバーダイン社を爆破する」というアイデアをついに実行したのがT2となります。

ジェームズ・キャメロン「ベトナム戦争三部作」の始まり

この渓谷のシーンでのカイル・リースの、
I don't belong here. (この世界に自分は属していないようだ/ここは別世界だ。)
以下のセリフもそうですが、カイル・リースの設定には、ベトナム戦争帰還兵のPTSDなどが色濃く反映されています。また、カイル・リースが着ているコートはベトナム戦争時代の米軍のトレンチコートで、カイル・リースが使用していたショットガン(イサカ37)も、ベトナム戦争にて「トレンチガン」として重宝されていた銃で、「ターミネーター1」は、ベトナム戦争をモチーフにしていることがわかります。

  • 1984年「ターミネーター1」(監督・脚本)
  • 1985年「ランボー2」(脚本)
  • 1986年「エイリアン2」(監督・脚本)

この時代のジェームズ・キャメロンが関わったこれら3作品は、キャメロンの「ベトナム戦争三部作」と言えるでしょう。
→詳細:接近戦にはこれが一番だ【エイリアン2】の意味

兄デレク・リースが語るカイル・リース

このフォールズ・カフェの渓流脇のシーンでは、カイル・リースが自然の美しさに涙します。

実は「ターミネーター・サラ・コナー・クロニクルズ」でも、そんなカイル・リースの特性に言及したシーンがありました。

デレク・リースが弟カイル・リースとの思い出を、カイルの息子であるジョン・コナーに語る、シーズン2第5話Presidio Alto Military Academy【軍士官学校】の敷地内にあるターミネーターをバレットM82で倒した森林での「ちょっといい話」のシーンです。

DEREK REESE:You know, it's funny, I saw a deer the other day, made me think of him. We were together the last time I saw one.
(以前、鹿を見たんだ。カイルのことを思い出させたよ。最後に鹿を見た時、カイルと俺は一緒にいたんだ。)

JOHN CONNOR: Before Judgment Day? (審判の日の前?)

DEREK REESE:No, after. We were up in Griffith Park hunting for food. It was a big bastard too. Your dad had never seen one before. I mean, not like that. After I killed it, and we got close...your dad started crying. But more than I'd ever heard or seen him. I didn't know how to make him stop. I buried the deer.We went hungry. He was just a boy.
(いや、審判の日が起きた後だ。食料を求めてグリフィス・パークに狩りに出たんだが、デカい鹿がいた。カイルはそんな大きな鹿をそれまで見たことなかったんだ。俺がその鹿を仕留めた後、近づいたら、カイルは泣き出したんだ、これまでないくらいに。どうやって泣き止ませればいいか困ったよ。だから俺はその鹿を埋めた。そして俺らは空腹のまま帰った。カイルは子どもだったんだな。)

「サラ・コナー・クロニクルズ」でのカイル・リースの無垢な優しさを描いたこの場面は、T1のこのフォールズ・カフェでのカイル・リースの描写につながっているように感じますし、そもそもこのフォールズ・カフェのシーン全体が、TVドラマ「サラ・コナー・クロニクルズ」のキャラクター間のやりとりっぽいものがあります。

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