2つの映画・・・
- 『グレムリン』の町「キングストン・フォールズ」と、
- 『バックトゥザフューチャー』の町「ヒル・バレー」
- 上『グレムリン』(Gremlins、1984年)の町「Kingston Falls(キングストン・フォールズ)」
- 下『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(Back to the Future、1985年)の町「Hill Valley(ヒル・バレー)」
どちらも多くのシーンがユニバーサル・スタジオ・ハリウッドのバックロット(セット)で撮影されています。グレムリンはクリスマス・ムービーなので雪化粧が施されていますが、どちらも全景シーンに同じ建物が映っています。
上図の広場は、『グレムリン』ではクリスマス・ツリーが売られていた広場ですが、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』ではこの広場をぐるぐるまわるようにスケボー・チェイスが繰り広げられ、未来(『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』)では池になっていました。
さらによく観てみると、この2つの映画はまるでデジャブ、姉妹作品のようにも見えてきます。
銀行とカフェが同じ
「グレムリン」で主人公ビリーとケイトが勤めていた銀行と、「バックトゥザフューチャー」でマーティが立ち寄ったカフェ(Lou's Cafe)が同じです。- 「グレムリン」では主人公ビリーとケイトが働いている銀行カウンターに、憎まれ役ディーグル婦人がクレームを言いにやってきて騒ぎが起きます。
- 「バックトゥザフューチャー」では、主人公マーティとマーティのお父さんがいるカフェ・カウンターに、憎まれ役ビフ一味がやってきて騒ぎが起きます。
「グレムリン」のオープニングで、インディ・ジョーンズのパロディ調の「Rockin' Ricky Rialto(ロッキン・リッキー・リアルト)」の看板が掲げられていたのが、この銀行(カフェ)の建物です。
銀行=カフェの場所(焼失)
- 場所:Universal Studios Hollywood Backlot - Courthouse Square
- 座標:34.141566097287196, -118.35007143594305
この建物はユニバーサル・スタジオ・ハリウッドの一丁目一番地である「コートハウス・スクエア」という広場の一角にある名所でしたが、残念ながら2008年のスタジオの大火災で焼失。この広場の西側と南側のセットが完全に焼失する大火事でした。その後一帯が大規模リノベーションされ、現在ではその場所には別のガソリンスタンドのようなセットが建立されており、今では面影もありません。
ブラックな未公開シーン
ちなみに「グレムリン」では、この銀行の建物内はグレムリンによって破壊され、コーベン頭取が死亡。ビリーとケイトの同僚の銀行員ジェラルド(ジャッジ・ラインホールド)は、グレムリン襲撃によりPTSDを発症、銀行奥の金庫室に引き籠って出てこなくなる・・・というブラックな未公開シーンがあります。コーベン頭取を演じたエドワード・アンドリュース(Edward Andrews)は、「グレムリン」公開の翌年に本当に亡くなってしまい、「グレムリン」が遺作となりました。
映画館も同じ
- 「グレムリン」で「白雪姫」を見ていたグレムリンの大群を一網打尽するために、ビリーとケイトによって爆破された映画館と、
- 「バックトゥザフューチャー」で、現代にもどってきたデロリアンが突っ込んで破壊された映画館
- 場所:Universal Studios Hollywood Backlot - East End of Phoenix Place
- 座標:34.1415240140251, -118.34895622993713
この映画館のセットがあった一角は、大幅にリノベーションされ、消滅。代わりに今では大きなスタジオの建物(Stage 25)が建てられ、こちらも今では面影はありません。
おそらくですが、現在では遠景はCG(VFX)によって簡単に作れるようになったので、遠景であるスタジオの端々までわざわざ「ハリボテのセット」を作っておく必要がなくなったことが影響しているものと思われます。
現在では天気や騒音などの影響を受けない、体育館のような大きな建物(ステージ)の中で「外のシーン」も撮影(風景はすべてVFX合成)することが主流になっているためです。
道路も同じ
- 「グレムリン」ではグレムリンが暴れまくり、ブレーキに悪戯し、保安官が乗ったパトカーが横転した道路と、
- 「バックトゥザフューチャー」ではデロリアンが雷を受けるために疾走した道路
道路の突き当りには、前述の映画館があります。この道路はユニバーサルスタジオ・ハリウッドのPhoenix Place(フェニックス・プレイス)という名前の道路です。
- 場所:Universal Studios Hollywood Backlot - Phoenix Place
- 座標:34.1416201702588, -118.34988869150716
猛スピードなのに進んでいないデロリアン
実はこの道路、スタジオ内なので直線部分は160mほどしか長さがありません。160mといえば徒歩で1分半~2分程ですが、映画の中では、デロリアンはこの一本道を時速120km超から時速140kmを目指して加速しながら1分45秒以上も走り続けています。つまり走行距離は160mをはるかに超えているはずですが、デロリアンはまだこの道を走り続けています。デロリアンがこの道の尺内で疾走するのは、事実上、不可能です。そのため、映画の中では、その不可能を可能にするために同じ場所を通過し続けるというシーンの「カサ増し」がされています。よく見ると、デロリアンが同じ建物の前を通過し続けており、猛スピードで数秒経過したにもかかわらず、実際は2,3mも進んでいないことに気づきます。
(例:後述の「グレムリンのケイトのバー」(バックトゥザフューチャーのTRAVEL SERVICE)の建物前をずっと通過し続けています。)
未来へバックする、まさに「バックトゥザフューチャー」なこの名シーンは、実は進んでいるけど進んでいない。まるでムーンウォークなデロリアンの迷シーンにもなっています。
ちなみにこのシーン、スタジオが狭いということもあり、デロリアンのスタート地点は、別の場所で撮影されたものをつなげています。
→詳細:タイムトラベル発着の名所グリフィスパーク
ナイトライダーのナイト2000(K.I.T.T./キット)も走行
その「バックトゥザフューチャー」でデロリアンが疾走した道路(Phoenix Place/フェニックス・プレイス)ですが、実は特撮TVドラマ「ナイトライダー」でナイト2000こと「K.I.T.T.(キット)」も疾走しました。 Knight Rider Season4 Fright Knight(邦題:ナイトライダー・シーズン4「死を呼ぶ映画・28番ステージの怪」1986年)にて、KITTの背景には、「バックトゥザフューチャー」のカフェ(前述のLou's Cafe)がしっかり映り込んでいます。つまり、この道路は、
- グレムリンが大暴れして大群で映画館に向かって練り歩いた上、
- マーティがスケボーやホバーボードで駆け抜け、
- そしてデロリアンとキットも疾走した道路、
ケイトのバー
このPhoenix Place(フェニックス・プレイス)の道路沿いには、「グレムリン」のケイト(フィービー・ケイツ)が夜にお手伝いをしていたバー「Dorry's Tavern/ドリーのタバーン(ドリーの酒場)」が面しています。「キングストン・フォールズのカップルはこの店でプロポーズして結婚する」・・・という都市伝説があるバーです。このバーでケイトはグレムリンと格闘し、グレムリンが「火や光を嫌う」という弱点を発見します。 このケイトのバーは「バックトゥザフューチャー」では旅行代理店となって登場し、
TIME TO TRAVEL?
Ask Mr. Foster
TRAVEL SERVICE
という「タイム・トラベル」に引っ掛けたようなキャッチコピーの看板と店構えが「バックトゥザフューチャー」の劇中、スケボー・チェイスやデロリアンが雷に打たれる場面など、冒頭の全景シーン含め何度も画面に登場します。
- 場所:Universal Studios Hollywood Backlot - Phoenix Place
- 座標:34.14170235467663, -118.34986144841774
前述の銀行&カフェや映画館の建物は現在では消えてしまいましたが、ケイトのバーの建物は、スタジオ大火を免れ、少し外観を変えつつも2022年の現在でもかろうじて残っています。
お母さんも同じ
- 「グレムリン」の主人公ビリーのお母さんリン・ペルツァーを演じたのはフランシス・リー・マッケイン(Frances Lee McCain)。
- 「バックトゥザフューチャー」でロレインのお母さんステラ・ベインズを演じたのもフランシス・リー・マッケイン(Frances Lee McCain)。
どちらも温かみのあるお母さんを演じていましたが、特に「グレムリン」のほうでは、キッチンで出くわしたグレムリン3匹を、機転を利かせてミキサーや包丁、電子レンジなどで退治するなど、「ターミネーター」のサラ・コナーや「エイリアン」のリプリー顔負けの女戦士ぶりを発揮し、グレムリンの名シーンの1つとなりました。
「犬がアクセント」も同じ
スピルバーグが関わる映画には、「E.T.」をはじめ、犬がアクセントとして登場することが多いです。- 「グレムリン」では主人公ビリーがBarney(バーニー)という名前のBorder Terrier mix(ボーダーテリアミックス)を飼っており、ギズモと戯れたり、憎まれ役ディーグル婦人にはむかったりしていました。
- 「バックトゥザフューチャー」では、ドクがEinstein(アインシュタイン)という名前のBearded Collie(ビアデッド・コリー)を飼っており、最初のタイムトラベルの実験でデロリアンに乗せられ、Fist Time Traveller(世界初のタイムトラベラー/時空旅行者)となりました。
まとめ
地図にまとめると・・・
以上のことをユニバーサル・スタジオ・ハリウッドの1つの図に簡単にまとめると以下のようになります。BTTFのマーティのスケボー・チェイスは、とても狭い範囲をクルクルまわっていたことが分かります。なぜならそれ以上移動すると、他のテーマの町並み(セット)が画面に映り込んでしまうからです。例えば路地1本入ると、そこはニューヨークの街並みをモチーフにした「ニューヨーク・ストリート」になってしまいます。
尚、上図はスタジオ大火災でのセット消失前の2007年当時のものです。
その他の類似点
- ちょっとドジだが憎めないお父さんの存在(発明家や小説家などクリエイティブな個人事業主)
- 因果応報を受ける「憎まれ役」の存在
- 主人公はマンガ家やミュージシャンなどクリエイティブ職志望
- 主人公には「よくできた美人な彼女」が存在する
- ホームドラマ調
- 異生物や異次元がもたらず非日常の中でのSFアドベンチャー
など、全体の構成を含め、「グレムリン」と「バックトゥザフューチャー」には数々の共通点があります。ある意味、「ドラえもん」調ともいえます。
スタジオのセットを多用することのメリットとしては、撮影の経済性・効率性などが挙げられますが、この両作品がかもしだしている「どこか懐かしい温かみがある雰囲気」の秘密は、ユニバーサル・スタジオ・ハリウッドの小ぢんまりとしたバックロッド(スタジオ・セット)ならではの魔法(効果)と言えるでしょう。
ツアーでも行けるけれど・・・
ちなみにこの映画で使われた町(広場)や「サイコの家」は、ユニバーサルスタジオ・ハリウッドのツアー- The world-famous Studio Tour
- https://www.universalstudioshollywood.com/web/en/us/things-to-do/rides-and-attractions/the-world-famous-studio-tour
に参加すれば訪れることはできます(撮影中など立入禁止時を除く)。
但し、ユニバーサルスタジオ・ハリウッドのこのツアーは、セット訪問が主目的ではなく、どちらかというとバックドラフトの火災を体験したり、キングコングやジョーズが襲ってきたり・・・と子供向け「アトラクション体験型」のほうがメインです。実際に使われたバックロット見学はオマケ程度なのが、ご近所のワーナーブラザーズ(バーバンク)のスタジオツアーと大きく違う点です。
競合他社が共存する「グレムリン」はとても珍しい映画
ちなみに、「グレムリン」の残りのロケ地はワーナーブラザーズ・スタジオで、それらは「ターミネーター・サラ・コナー・クロニクルズ」でほぼコンプリート(完遂)されています。つまり、- 「グレムリン」のロケ地=「バックトゥザフューチャー」+「ターミネーター・サラ・コナー・クロニクルズ」の各ロケ地
でほぼ網羅されます。
映画「グレムリン」は、競合他社である、ユニバーサル・スタジオとワーナーブラザーズ・スタジオの両方で撮影されたという、非常に珍しい映画だったのでした。
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