- 2015年の「ターミネーター・ジェニシス」は不評で黒歴史化決定。リブート三部作は消滅。
- 2019年の「ターミネーター・ニューフェイト」はターミネーター史上最大の赤字で大コケ・大失敗で爆死、こちらも新三部作は消滅しました。
この2作品は、ターミネーター・シリーズの中でも、最も情けない、軽蔑に値する映画です。
大失敗の要因は複数ありますが、その中でもかなり大きな要素を占めるのが「中国の検閲への忖度」です。
これにより、ターミネーターの特色であるエッジが効いた魅力が失われ(=「表現の自由の喪失」)、物足りない作品に仕上がり、ファンの失望(というより怒り)を買い、大失敗に終わりました。
なぜ中国?
中国は「世界第2の映画市場」になった
これはターミネーター作品に限ったことではありませんが、中国が隆盛してきた2010年代に入って、中国は「世界第2の映画市場」となり、チャイナ・マネーを期待したハリウッド映画の多くに中国媚び(媚び中/コビチュー)が顕著になりました。中国の検閲にそった映画作りが最重要に
「いかに中国サマで公開していただいて、中国サマでヒットさせていただけるか」が映画作りの最重要課題となり、中国の「外国映画公開制限数」の枠をかいくぐって、中国サマの政治的ご意向にそった映画作りに注力するようになりました。中国の外国映画公開制限数の枠内に入るためには、中国の特殊な政治事情・思想に基づいた検閲の諸条件をクリアしなければなりません。要は中国の政治思想に沿った映画の内容でなければならないのです。
中国では毎年、基本的に外国映画は34作品しか興行できない決まりがある。その枠に入るには、もちろん中国政府に批判的であればアウトで、中国政府のさまざまな「主張」を無視することもできない。
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1912/05/news032_2.html
ハリウッドの失われた10年
結果として、個性のない同じような作品ばかりが量産されるようになったのが、2010年代の「ハリウッドの失われた10年」でした。2010年代になってからのターミネーター作品といえば、
- 2015年の「ターミネーター・ジェニシス」(Terminator Genisys)
- 2019年の「ターミネーター・ニューフェイト」(Terminator Dark Fate)
の2作品です。この2つは同じ権利者(アンナプルナ社/スカイダンス社のエリソン氏)の下で作られた実は「姉妹作品」で、「媚び中」の基本構造もそっくりです(後述)。
それ以前の作品(T1,T2,T3,T4,サラ・コナー・クロニクルズ)は自由に伸び伸びと作られていました。
中国の検閲
こんな映画はダメ
中国の検閲については、どういった映画が上映禁止になったかを見ていくとわかりやすいです。映画の公開にあたっては必須事項あるいは禁止事項といった厳格なガイドラインが設けらている。政府から許可が得られない場合は、中国全土で上映が禁止される。
「中国で上映公開禁止となった10の映画とその理由」
https://karapaia.com/archives/52245207.html
上の記事から抜粋してまとめると、以下のような要素を持った映画は上映禁止となるので、逆に言えば、以下の要素を取り除いた映画作りをしないと、中国サマでは公開していただけないことになります。
- (中国)政府の検閲ガイドラインでは、「カルトあるいは迷信を流布」する映画は禁止となっている。
- 「歴史に対する不敬な描写」が原因で禁止・・・タイムトラベル物・・・中国の検閲委員会はこのテーマを扱うエンターテイメントを一切発禁処分にしている。
- 禁止理由は、流血のある暴力、ヌード、過激な用語だ。
- 政治的な含意と革命をテーマとしていることから発禁となった。鑑賞者に立ち退きを想起させ、暴力を誘発するおそれがあること
- 「バットマンがギャングを捕らえる場面など、香港で撮影されたシーンが引っかかることを懸念」
- テーマが宗教的なものであり、「徹底して世俗的」な同国における公開が違法であったことから発禁となった。
こんな絵本でさえもダメ
ちなみに映画に限らず、以下のような絵本ですら中国では禁止です。「おおかみから村を守るために羊たちが団結する姿などを描いた3冊の絵本」
絵本が「反政府的」だとして発行の5人に有罪判決 香港
https://www.bbc.com/japanese/62829931
香港”絵本で扇動”として出版の5人に禁錮1年7か月の実刑判決
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220910/k10013812681000.html
これでは「スカイネットから人類を守るためにジョン・コナーたちが団結する姿などを描いた映画」(=ターミネーター本来のテーマ)は当然、論外・・・ということになります。
ターミネーター映画が腰抜けになった理由
上の中国の検閲ポイントを、コケたターミネーター映画2作品(ジェニシスとニューフェイト)に当てはめると、見事に合致します。これがこの2010年代に入ってからの2作品が魅力を失い、コケた致命的な原因です。1.天網なので「スカイネット」名が使えない
嘘のようなホントの話ですが、「中華人民共和国本土(大陸地区)において実施されているAIを用いた監視カメラを中心とするコンピュータネットワーク(監視網)」を天網(てんもう、中国語: 天网工程、英語: Sky Net, スカイネット)と言います。→https://ja.wikipedia.org/wiki/天網ですので、当然のことながら、中国での人民監視の肝である「スカイネット」を「悪」とすることはできません。
そのため、「ターミネーター・ジェニシス」では、スカイネットではなく「ジェニシス」というA.I.に名称の移行が試みられ、「ターミネーター・ニューフェイト」に至っては、スカイネットではなく「リージョン」なるよくわからない曖昧なものに唐突に名称と存在がすり替えられていました。
ターミネーターにおいて、スカイネットというのは「中核」なのに、これが使えない(使わないと妥協する)のは致命的です。
ターミネーター作品でも、一番前衛的で試行錯誤的挑戦がいろいろなされていた「ターミネーター・サラ・コナー・クロニクルズ」では、スカイネットがロサンゼルスの交通管理網を牛耳ろうとしていたエピソード→キャメロンがLA交通管理網に侵入した信号機や、街の住人全体をずっと監視下においていたエピソード→地下室で住民を監視カメラで管理していた家などがありましたが、こうした作品は中国ではご法度、ということになります。
2.ジョン・コナーは存在したら絶対にダメ
スカイネットという「体制」に反発し、人民を蜂起させて抵抗させる、という人類抵抗軍のリーダー、ジョン・コナーなる存在は、中国の検閲上、絶対に存在してはなりません。ターミネーターにおける人類抵抗軍のこの構図は、香港や某自治区における状態とまったく同じです。
例え映画とはいえ、ジョンコナーというキャラクターに触発されて、民主的思想が活気づくようなことは、間違ってもあってはならないので、そのような描写は中国の意向で禁止となり、芽は摘まれます。
まだ中国媚びではなかった2009年の「ターミネーター4(サルベーション)」 のような、ジョン・コナーが人類に蜂起を呼びかけるようなシーンは、中国に忖度している限り、もうターミネーター作品では二度と見られないでしょう。今となっては貴重なシーンとなりました。
そのため、中国で上映してもらうためにも、「ジェニシス」でも「ニューフェイト」でも人類抵抗軍のリーダー・ジョンコナーを消すことに躍起になっているわけです。
「ジェニシス」や「ニューフェイト」で、ジョン・コナーの扱いに、不自然さを感じた人も多いようですが、原因はここにありました。
尚、余談ですが、ジョン・コナーは John Connor = J.C. = Jesus Christ(イエス・キリスト)とも揶揄されており、「キリストの復活」のように人類の「救世主(メシア)」となるジョン・コナーは、前述の「カルト的迷信」「革命」「宗教的」に該当するので、その意味でも、ジョン・コナーは(中国で公開していただくには)存在してもらってはいけなかったわけです。
3.宗教的なものはダメ
これもターミネーターという作品の根幹を揺るがすものですが、前述のように中国では「宗教的なもの」や「革命」的なものは禁止なので、「審判の日」「終末思想」「救世主」的な宗教的なものや「人類抵抗軍」といった革命的な名称や事象が使えません。「審判の日」はダメ
そのため、「審判の日(ジャッジメント・デー)」は、「ジェニシス」では時空の中で曖昧模糊にされ、「ニューフェイト」では「ある日それは突然はじまった」という、これまたはっきりしない事象へとぼやかされてしまっていました。「ターミネーター1」(T1)と「ターミネーター2」(T2)は「審判の日」を前提とした「終末論(終末思想)」に基づいていましたが、もちろん「ジェニシス」や「ニューフェイト」では全人類を巻き込んだ「終末思想」的な雰囲気も排除され、単なる身内のもめ事のような小さな関係性の中だけの出来事として処理されています。
特に「ニューフェイト」では「審判の日」を止めるような動きは微塵も見せません。
結果として、事の重大さが観客に伝わらず、どこか「どーでもいい世界での出来事」のような、まったく臨場感がない作品に帰結してしまいました。
「救世主」もダメ
もちろん「救世主」(メシア)であるジョン・コナーも使えないのは前述の通りです。そのため、「ジェニシス」ではジョン・コナーは生まれることなくスキップされ、未来のジョンコナーは悪役にされた挙句、消されました。(自分の身内が消されたのに、まったく悲しまずポップスに抱き着いて大喜びしてエンディング・・・という変なサラコナーがジェニシスでは登場します。エミリア・クラークが早々に降板宣言したのもうなずけるものがあります。→ターミネーター・ジェニシスの続編は絶対ない理由)「ニューフェイト」でもジョンコナーは消され、新キャラクター「ダニー」からは人類抵抗軍のリーダー的要素は削がれ、単に仲間内のもめ事を解決し、2人の女性関係の仲だけのような小さな扱いに押し込まれてしまっていました。結果として、この新キャラクターの印象が薄く、観客の記憶に残らなかったのも当然の結果と言えます。その証拠に、一般の方々の少なくとも90%以上のレビューで、ダニーに言及しているものがありません。
「創世記」もダメ(Genesis→Genisys)
「審判の日」からもわかるように、ターミネーターは元々「旧約聖書」の要素が散りばめられており、「ターミネーター・サラ・コナー・クロニクルズ」も創世記ベースでストーリーが展開していました。またT4はタイトルからしてサルベーション(Salvation/救い)という宗教的用語です。要は2010年頃までのターミネーター作品にはクリエイターの「表現の自由」は存在しており、作り手が作りたいように伸び伸びと作っていた、ということです。サラコナークロニクルズに酷似点が多すぎるターミネーター・ジェニシスも、ジェニシスをリブート第一作とする創世記ベースの三部作を展開したかったようで、その第一作がGenesis(ジェネシス=創世記)というタイトルになるはずでした。
しかし、2010年代も中盤になり雲行きは変わり、宗教色が強いタイトルだと中国では公開してもらえないので、Genesis(ジェネシス)→Genisys(ジェニシス)という造語に変え、「創世記じゃないですよ」アピールに出るという苦肉の策に転じたのでした。
4.歴史の改変は許されない
中国では「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985年)が「歴史に対する不敬な描写」で禁止されているように、「歴史の改変」はご法度で、さらには「体制への反発」はもちろんのこと、「自分たちで未来を作り出す」「体制に対して反発できる」という民主的なイメージを持つことさえもあってはならないことです。そのため、「ジェニシス」「ニューフェイト」においても、基本的には「未来は変えられない」という主旨にさせられています。
- 「ジェニシス」では、結局、破壊したようで中枢A.I.は破壊されておらず、サラコナーらは、"A straight line. You just go, and you don't look back."「(よくわからないけど)とにかく振り返らず前だけ向いて進め。(=過去・歴史の改変はダメ。前だけ見て。)」というセリフを繰り返し唱えなければならないほどの迷路に突入してしまい、破綻しました。
- 「ニューフェイト」に至ってはあからさまに「運命は変えられない」とのグレースのセリフまで登場する始末で、これまでの"No Fate but What We Make."のテーマと根本的に矛盾し、T1、T2のすべてが台無しにされてしまいました。
両作品とも、未来においては「体制」は圧倒的な力を誇示し続ける内容となっており、抗っても無駄。民主主義な人類抵抗軍側は負け続けるか、曖昧な描写に置き換えられています。
5.グロ控えめ
中国の検閲では「流血のある暴力、ヌード、過激な用語」とのことで、「ジェニシス」「ニューフェイト」においては、これまでのターミネーター作品にあったような過激なシーン、グロ・シーンはすべてそぎ落とされ、生ぬるい仕上りになっています。「ジェニシス」については、「人間の」流血シーンはほぼゼロ。「ニューフェイト」でも、ジョン・コナーの流血はとても控えめ(ふつう、あの至近距離でショットガンを撃たれたら、とんでもないことになっているはずです)。Rev-9の国境警備隊に取り囲まれたシーンも、血はほとんど映らないような描写になっています。
T1のような目や腕をメンテナンスするようなグロ・シーンはありません(もちろんラブ・シーンもありません)。T2のような液体金属の腕や指先が「貫通」する直接的なシーンもありませんし、サラコナーが燃えてしまうような核の恐怖シーンもありません。
結果として、T-3000やRev-9の恐怖も強さ感も失われてしまい、結局T2のT-1000のほうが恐怖感は上。物語も緊迫感も臨場感も喪失。「ターミネーター」が「ターミネーター」たらしめる特徴を失えば、コケてしまうのは当然です。
「ジェニシス」「ニューフェイト」より、TVドラマの「ターミネーター・サラ・コナー・クロニクルズ」のほうがグロいシーンは多かったぐらいです。
ターミネーター映画の中国化
以上は映画の内容的な改変についてですが、ターミネーター映画の外堀も中国化してしまっています。「ジェニシス」から中国媚び激化
「ジェニシス」ではエンディング主題歌には中国人歌手(ジェーン・チャン)を起用し、プレミアではその中国人歌手があたかも主役のような扱いでレッドカーペットを練り歩き、「ジェニシス」は中国とハリウッドの合作映画?中国映画か?と思わせるような大宣伝が展開されました。その錯覚効果に加え、外国映画上映制限で約2ヶ月ぶりのハリウッド・メジャー作品という中国国内での「おあずけ」効果もあって、ジェニシスは中国でのみ興行収入は良かったのですが、必ずしも映画の内容が中国人にウケてヒットしたわけではありませんでした。姉妹作品の「ニューフェイト」が中国でもコケたことからも、決して「ジェニシス」の内容が中国の人々に評価されていた、というわけではなかったことがうかがえます。
「ニューフェイト」制作会社株主は「腾讯影业」
「ニューフェイト」に至っては、権利及び制作会社スカイダンス自体が、中国企業「腾讯影业」(テンセント・ピクチャーズ/Tencent)に買われてしまい、事実上、中国企業によって捻出されたターミネーター作品となってしまいました。近年、"A US Company with a Chinese Heart"(アメリカの顔をした中国企業)というのが問題になっていますが、「ニューフェイト」に至っては、事実上、「アメリカ映画の顔をした中国映画」と言えるでしょう。
「ジェニシス」にしても「ニューフェイト」にしても、大金はたいて買ったターミネーター権利の元を取ろうとして、「スカイダンス」と「腾讯影业」(テンセント・ピクチャーズ)が2019年までに駆け込みで焦って無理やり作り出したものであり(→ターミネーター【2019年問題】)、脚本の杜撰さなど拙速感が否めない内容はおろか、そもそも「作る必要性はあったのか?」「蛇足」との声が挙がっている点も、コケた理由の1つと言えます。
まとめ
以上のように、近年のターミネーター映画が魅力を失った理由に、媚び中(中国検閲への忖度)による「表現の自由」の喪失(放棄)があります。中国の検閲に忖度し続ける限り、おもしろいターミネーター作品は今後二度と作られることはないでしょう。
逆に言えば、中国市場を気にしないチャレンジャーな権利者と製作者が現れれば、また面白いターミネーター作品を見ることができる可能性は出てくる、ということになりますが、そんな気骨あるクリエイターが、ジェームズ・キャメロン含めているのか?というとかなり疑問です。