ボーン・アイデンティティーの怪(謎)

ロケ地 洋画

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ボーンアイデンティティの謎

映画『ボーン・アイデンティティー』(The Bourne Identity、2002年)といえば、マット・デイモンが演じるジェイソン・ボーンという寸分の隙が無いキャラクターが見所ですが、映画自体は、よく見ると映画作りの大変さがうかがえる「うっかり」シーンがちらほら散見されます。

そんな映画作りの苦労がうかがえる『ボーン・アイデンティティー』の「怪」(不思議・謎)シーンをまとめました。

ジェイソン・ボーンの消え方

映画ジェイソン・ボーン・シリーズと言えば、街中を歩くジェイソン・ボーンが「一瞬で消える」シーンが1つの名物となっています。

『ボーン・アイデンティティー』でも冒頭のほうで港に着いて歩き出したジェイソン・ボーンの背後を、三輪車が通貨した瞬間、ジェイソン・ボーンの姿が消えるシーンがあります。

しかしよく見ると、三輪車の荷台のところにチラリとジェイソン・ボーンの上半身(茶色の上着部分)が映り込んでいます。
ジェイソンボーンのミス

車の脇に飛び乗れるような足場を作って、そこに三輪車のすれ違いざまジェイソン・ボーンが飛び乗って、あたかも「消えた」ような演出がなされてました。CGか何かで消したのかと思いきや、超アナログな手法が取られていたのでした。

白い帽子

「スイスのアメリカ領事館」にて、ジェイソン・ボーンの左背後にいた制服を着た警備がボーンを取り押さえようとするシーン。

その制服を着た警備は白い制帽を被っているのですが、最初にジェイソン・ボーンが反応した瞬間、白い制帽が一度、脱げます

次のシーンに切り替わった瞬間、なぜか白い制帽は頭の上に載っており、そしてそれがまた脱げます。

しかし、また画面が切り替わった瞬間、白い制帽をまだ被っており、また脱げ・・・を繰り返す・・・

と、ジェイソンボーンを取り押さえる際中に、計3回、白い制帽が脱げる・・・という怪奇現象が発生しています。

何度もこのシーンを撮り直したことがうかがえます。

壁の穴

続いて「スイスのアメリカ領事館」の最上階の非常階段からジェイソンボーンが逃げようとするシーン。

ボーンが非常口から出て、柵に乗って屋上に上がろうとした瞬間、柵の固定が壁から抜け、壁に穴が開きます。

しかし、次のシーンでは、固定されていたはずの柵の付け根には穴がなく、最初から固定されていない宙に浮いた状態であったことがわかります。
ボーンアイデンティティの撮影ミス

このことから、少なくともこのシーンは2か所以上で撮影されたことが分かります(この現場で撮影したものと、セットなど別の場所で撮ったものの組み合わせ)。

実はこのシーンはスイスではなく、チェコにあるホテルの建物を「スイスのアメリカ領事館」と見立てて撮影しているのですが、実際のこの建物のこの場所には非常扉が存在しません

「スイスのアメリカ領事館」のロケ地

  • Carlo IV Hotel(カルロIV ザ デディカ アンソロジー オートグラフ コレクション)
  • Senovážné nám. 13, 110 00 Nové Město, チェコ
  • 50.08641127774509, 14.433399171871974
ボーンアイデンティティのアメリカ領事館

そのため、(ホテルの壁にドアの穴を作るわけにもいかず)非常扉が開閉するシーンだけ、別のセットで撮影し、実際の現場で撮影した映像と組み合わせてこのシーンを作ったため、セットには穴が開いたが、実際の現場で撮影したものには壁には穴は開けていない・・・というズレが生じたために発生したミスショットとなっています。

積雪の瞬間芸

『ボーン・アイデンティティー』には、消えたはずの雪が突然現れたり・・・といったことがよく起こります。

1.ジェイソン・ボーンとシリーズ存続を救った積雪

前述の「スイスのアメリカ領事館」の外の非常口のシーンでは、非常口の踊り場に積もっていた雪が、ジェイソンボーンが踏み荒らしたことによって、無くなってしまいます(上画像)。

しかし、領事館の警備兵が非常口の踊り場を確認した瞬間、足跡もないたっぷりの積雪が復活しています(上画像)。

これにより、下にジェイソンボーンがいることがばれずに見過ごされ、ボーンは無事に下まで降り、逃亡に成功します。

本来なら積雪に残された足跡などによって、ボーンの存在がバレて捕まり、そこでジェイソン・ボーン・シリーズは終わっていたはずですが、ボーンを救った重要な積雪の怪奇現象でした。

2.マリーの車のルーフ上の積雪も

「スイスのアメリカ領事館」から脱出したジェイソン・ボーンは、「足」が必要なため、マリーにお金を投げて、車に乗せるように交渉します。

その時、最初にマリーにお金を投げる際には、車の屋根の上では、雪がほどほどに乱れています。

しかしマリーがお金を受け取る瞬間は、車の屋根の積雪は、ふっくらまっさらに積もっています。またもや新雪の復活です。

これはおそらくリハーサルで何度かお金を投げるシーンをおこなったことで、1.屋根の上にお金を投げるシーン、2.マリーに直接お金を投げるシーン の2パターンがシャッフルしたことにより、積雪の怪が発生したと思われます。

マリーの車窓にスタッフが映っている

前述のマリーの車の怪といえば、「スタッフ乱入の怪」もあります。

パリに着いたマリーとジェイソン・ボーン。周囲に誰もいないセーヌ川のほとりで停車中の車内で寝ているボーンを、マリーが車外から起こします。
ボーンアイデンティティのミニクーパー
その時、車の後部座席のウィンドーに、スタッフが反射で映り込んでいます。

「コラテラル」との共通点

ジェイソン・ボーンが警察に追われ、街中での赤いミニ・クーパーでカーチェイスを繰り広げます。

その時 BGMとして、Paul Oakenfold(ポール・オーケンフォールド)の「Ready Steady Go」(レディ・ステディ・ゴー)がかかっています。
トム・クルーズ主演の映画『コラテラル』(Collateral、2004年)の、クラブでの暗殺シーンでも同じ曲がBGMとして使われています。どちらも暗殺者の物語であることも共通点です。

無人の車が横転

そのカーチェイスの最中、白いバンが道路で横転しますが、なぜか横転する直前からバンの下に太いチューブのようなものが見えます。おそらく横転させるための仕掛けが露出したものと思われます。

さらに、そのバンが横転する際、運転席には誰も乗っていないことが確認できます。無人の車が横転したということになります。

意味のないサプレッサー(サイレンサー)

暗殺者の1人、クライヴ・オーウェンが演じるプロフェッサー(教授)が愛用している銃がSIG SG 550 SRなのですが、いつもサプレッサー(サイレンサー)を着けて使用し、サプレッサーを瞬時に外す(先端から抜き取る)仕草で「腕利き暗殺者」を演出しています。

しかしサプレッサーを着けている場所がバレルの先ではなく、バレルの外側を覆うように着けているだけで、銃口より先にはかかっておらず、消音(減音)効果がほとんど期待できません。

意味のないサプレッサーの装着・・・という怪(謎)が、プロフェッサー(教授)には存在しています。

白煙だけど黒煙

そのプロフェッサーとボーンの、イーモンの郊外の小屋(別荘)での対決シーン。

まずボーンが猟銃(Double Barreled Shotgun/ 二連式ショットガン)で、小屋の外にあった燃料タンクを撃って爆発させます。

その爆発させた煙ですが、ボーン側から見た際は白い煙が少々上がっているだけなのに、プロフェッサー側から見た際は、黒い煙が濛々と立ち込めている・・・という同じ煙なのに色と量が違う・・・という怪奇現象が発生しています。

ボーン vs 教授のロケ地(イーモンの小屋)

  • Trojanuv Mlyn (Trojan’s Mill)トロイの木馬の製粉所
  • Trojanův mlýn 2, 165 00 Praha-Suchdol, Czech Republic
  • 座標:50.146312342370386, 14.373124719279517
  • https://www.trojanuvmlyn.cz/

ちなみにこの「ボーン vs 教授」の戦いが繰り広げられたイーモンの小屋は、設定はフランスの田舎のほう、となっていましたが、ロケ地はチェコのプラハ郊外にある、通称「Trojanuv Mlyn / Trojan’s Mill(トロイの木馬の製粉所)」と呼ばれる所で撮影されていました。

ここは昔は製粉所で、現在では結婚式などのイベントや撮影用に貸し出されている施設で、上述のようにホームページも存在しています。

赤いバッグが表現していたこと

これは「怪」というか、「快」のほうの、知る人ぞ知る「ちょっといい話」ですが、映画の冒頭のほうで、ジェイソン・ボーンは、    チューリッヒ相互銀行の貸金庫の中にあったものを、銀行のゴミ箱の赤い袋に入れて、その後、ずっとその赤い袋をバッグとして使い続けます。
ちなみに "BRENNEN" というのは「可燃物(燃えるゴミ)」という意味です。

この赤いバッグを、イーモンの郊外の小屋(別荘)にて、マリーと別れる際に、ジェイソン・ボーンは「袋の中に残ってるお金、全部使え。」とマリーに袋ごと渡します。

そしてエンディング。マリーがバイクのレンタル屋で働いている際、店内のレジの上に、この赤いバッグが、花の入れ物としてこっそり再登場します。
ジェイソンボーンの赤いリュックサック

マリーがずっとジェイソン・ボーンを想い続けていたことが、この赤いバッグの再登場で表現されていたのでした。

エンディングのロケ地


ギリシャのミコノス島の「カトミリの風車」の近くにある、伝統的な地中海料理を提供する高級レストラン「Mykonos by Gryparis(ミコノス バイ グリパリス)」がロケ地として使われていました。

「もう1つのエンディング」からの改善

ちなみにこのエンディングシーン。当初撮影されていたのは別の形でした。

当初のエンディングでは、

  1. マリーがバイクのレンタル屋(レンタルスクーター屋)で、バイクを借りた客が店を出ていくのを見送る(←ここは劇場公開版と同じ)
  2. その見送った客の遠くをマリーが眺めていると、遠くから歩いて近づいてくるボーンを見つける
  3. 2人は駆けよって、海沿いで抱き合ってキスを交わしてエンディング

・・・というものでした。

つまり、赤いバッグは当初のエンディングでは登場しませんでした。

当初のエンディングよりも、劇場公開版のほうが、

  • 赤いバッグを登場させることで、マリーがボーンをずっと想い続けていたことがさらに強調される
  • ボーンが突然、店の入り口に現れることで、ボーンが突然現れる/消える、というキャラクターの神格性が強調される

という効果があったように感じられます。

この当初のエンディングの直前には、実はジェイソン・ボーンが、このマリーのバイクレンタル屋にたどり着く直前に、睡眠薬を飲まされ、目が覚めたらベッド脇にCIA職員のワード・アボット(ブライアン・コックス)がおり、CIAに復帰するようにリクルートを受ける・・・というシーンが撮影されていました。しかし劇場版ではカットされました。

ちなみにこちらロシアの高層集合住宅【ボーン・スプレマシー】でも書きましたが、「ボーン・スプレマシー」でも、ボーンが意識を失って倒れて目が覚めたら、ベッド脇にパメラ・ランディ(ジョアン・アレン) がいて、ボーンを勧誘するような会話がありました。しかしこれも劇場版ではカットされました。

ジェイソン・ボーンは1作目から、CIAへの復帰を促すシーンがあったということになりますが、劇場公開直前にカットされ続け、そのことがボーン・シリーズの成功の秘訣にもなっていました。ボーンが眠らされたりするシーンがあると、「ボーンが完全にCIAにコントロールされている/ボーンはすごくない」という印象を観客に与えてしまい、また、CIA復帰要請のシーンが入ると、よくあるB級映画っぽくなってしまうからです。

こうしたボーンのすごさを損なうシーンを公開直前にカットして撮り直したことで、前3作は秀作となりました。

一方、4作目の「ジェイソン・ボーン」では、ついにCIA復帰要請自体が主体となってしまい、キレのないベタな暗殺者ものに陥ってしまったことが、4作目の「ジェイソン・ボーン」が失敗した原因の1つになったと考えられます。

ジェイソン・ボーン・シリーズが秀作(前3作)と凡作(4作目)に分かれたのは、紙一重だったことがわかります。

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