ターミネーター・ジェニシスの矛盾と疑問点

ターミネーター

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ターミネータージェニシスの矛盾
「ひどい」と不評に終わり新三部作が中止。正式に黒歴史となった『ターミネーター: 新起動/ジェニシス』(Terminator Genisys)の矛盾と疑問点をまとめました。

そもそも「ジェニシス」の存在意義の矛盾

まずこの映画「ジェニシス」の存在意義自体を根底から揺るがしてしまいますが、スカイネットが未来でジョン・コナーの取り込みに成功しているので、過去に飛んで歴史を改変するとか、何かをする必要がまったくない、という矛盾があります。

過去では「審判の日」を起こし、未来では人類抵抗軍のリーダー、ジョン・コナーもスカイネット傘下に置くことに成功し、スカイネットにとってこの上なく理想的な過去及び未来の時間軸になっているので、過去をいじる必要はまったくゼロ。

にもかかわらず、T-3000化したジョン・コナーが過去に飛んで、無駄で意味のないバトルを繰り広げる・・・という根本的な矛盾がジェニシスには存在します。
しかも自分の両親を消すことはない(自分が存在しなくなる)し、親は親で自分の子どもを消すことはないので(実際、最終的には親子間での直接バトルは避けている)、バトル自体の迫力もなければ、大義名分もまったくありません。

この人たちは一体、何のために戦っているんだろう?」という「???」が延々と鑑賞中に頭の中を駆け巡り続けます。

タイムライン(時間軸)の矛盾・パラドックス

ジェニシスのタイムライン(時間軸)は、以下のように展開しています。
ターミネータージェニシスのタイムライン
詳しくはこちら【解説】ターミネーター・ジェニシスの時間軸と疑問解決にまとめてあります。

「ジェニシス」はタイムトラベルを乱発し、その都度パラレルワールドが発生し続ける体なので、各時間軸にて細々とした矛盾はたくさんありますが、一番気になるのはこのジェニシスのメインとなる③の時間軸での矛盾です。

  • 1973年の事変でだいぶ状況が変わり、
  • かつ1984年以降ジョンを産まずに2017年にタイムトラベルした

にもかかわらず、なぜかジョンコナーが存在しないはずの時間軸の未来から、ジョンコナーがこの時間軸にやってきている・・・という「他の時間軸からの干渉」という矛盾があります。③の時間軸のジョンコナー(T-3000)は、いったいどこの時間軸からやってきたのでしょうか?

まだジョンコナーを産んでもいないのに

1984年~1985年にジョンを産まずにタイムトラベルした2017年において、サラコナーとジョンコナー(T-3000)が対面したシーンで、2人の間でこんな会話が交わされます。

JOHN(T-3000):Lesson one, trust no one. I remember. During the Nacogdoches offensive, I gave you something. It was a photograph of Sarah as she is now. No one saw me do it. We were alone. You hate lullabies. You're a sucker for Elton John. And you always thought if you had a child, you'd sing him Rocket Man.
SARAH CONNOR: John?
JOHN CONNOR(T-3000):But you got a terrible voice. I'm sorry, it's true. You sound like a dying cat.
SARAH CONNOR:It's him. It has to be.

この③の時間軸では「サラコナーのジープの写真」は撮られていないのに、その未来にはサラコナーの写真が存在し(ちなみにエミリア・クラークの顔の写真)、生まれてもいないジョンコナーがサラの昔話をするという矛盾。

そしてサラコナーは産んでもいないジョン・コナーを見て、「ジョン?」と言ってウルルンします。しかもサラコナーはまだ「10代」なのに、あのリアクションになるのか疑問が残ります。

公式予告編の怪

ジェニシスのアメリカでの公式予告編(英語版)があるのですが、

Terminator: Genisys Official Trailer #2 (2015)
https://www.youtube.com/watch?v=jNU_jrPxs-0

この予告編の冒頭では、

John, you can do this, you just go and you don't look back.
ジョン、あなたならできる。振り返らず前進あるのみ。

サラコナーの「ジョン」への呼びかけで始まりますが、その話しかけている相手は「ジョン」ではなくカイル・リース(の子ども時代)となっています。

バレットM82A1の矛盾

ジェニシスの冒頭、1984年の舞台時に、若いシュワちゃんT-800と老人シュワちゃん(Pops/守護者)のT-800同士のバトルがあり、最終的にはサラが50口径のバレット(Barrett M82A1)で若いT-800を1発で仕留めるシーンがあります。
バレットM82自体は1984年時点ですでに存在しているので問題ないのですが、この映画に登場したのはバレットM82A1であり、A1モデルは1986年以降にしか存在しない・・・つまり、1984年には存在しない未来の銃が登場する・・・という矛盾が生じています。

カイル・リース到着地点がまったく違う

1984年のカイル・リース到着地点が全く違う、という矛盾もあります。

「ターミネーター1」と「ジェニシス」では、カイル・リースはまったく同じ路地へ到着するはずなのですが、下図のように路地の雰囲気や背景が違います。
カイルリースのタイムトラベル到着地点
「ターミネーター1」のカイル・リース到着地点
「ジェニシス」のカイル・リース到着地点
ロケ地がロサンゼルスとニューオリンズでまったく違います。

「ジェニシス」のほうの「Green Door」という看板は、現実にニューオリンズに存在するお店の看板で、それがそのまま映り込んでいます。同じく「Figueroa Lounge」と言う看板も確認できますが、それは現存するお店を隠してT1のそれと似せるようにするために、ジェニシスのスタッフが作ったカモフラージュの「覆い」と思われますが、改変具合がとても中途半端です。

老人T-800と若いT-800の対決シーンも、グリフィス天文台では撮影しておらず、すべてスタジオのセットの中で撮られています。

ジェニシスは、CGでの若いシュワちゃん顔を再現するのに注力しすぎたのか、それ以外の部分は精巧には再現されていません。全般的に こうした細部の作りの詰めが甘く、ジェニシスは手抜きで作られているように感じてなりません。

黒人警官がイビョンホンの謎

これは観客の多くが思った疑問のようですが、なんで液体金属T-1000がイ・ビョンホンなの?という疑問と矛盾が生じています。

1984年のあの路地裏のシーンですが、最初にカイル・リースの元へ駆けつけるのは黒人警官でした。しかし、ジェニシスではなぜかアジア人(イ・ビョンホン)に外見が変わっているという矛盾があります。

上の時間軸の説明の通り、このT-1000が、本来T2で1994年に行くはずだったT-1000だったというのなら、このシーンはイ・ビョンホンではなくロバート・パトリックの顔か黒人警官の顔になるはずです。そういう意味でも矛盾そして疑問が生じます。

ここをロバート・パトリック顔にしなかったばかりに、おじさん(T-800シュワちゃん)は「誰が送った」問題が発生してしまい、「ターミネーター・ジェニシス」がT2の入れ替わり映画だったことを気づかなかった観客が多く、結果、タイムラインの迷い子になって、わけがわからずジェニシスから脱線してしまった人が多いように見受けられます。

また、若いシュワちゃんT-800をCGで精巧に再現したばかりに、他のキャラクターの顔の違いによる違和感が際立ってしまったのも、ジェニシスの失敗の一因ではないでしょうか。

デザートイーグルの矛盾

その1984年のカイル・リースの到着シーンで、カイルを襲ったT-1000を車で弾き飛ばした後、デザートイーグルを片手で発砲し、Come with me if you want to live! のターミネーターの名セリフを吐くシーンがあります。
→詳細:サラクロに酷似点が多すぎるターミネーター・ジェニシス

しかし、このジェニシスで登場したデザートイーグルはDesert Eagle Mark VII 357マグナム弾で、このバージョンは1990年に作られたものです。つまり、1984年を舞台にしたこのジェニシスのシーンに存在するはずがなく、矛盾しています。

Sarah Connor (Emilia Clarke) is seen using Desert Eagle Mark VII in a confrontation with a T-1000 unit during 1984. This particular model is anachronistic as the Mark VII was introduced in 1990, the correct model in 1984 is the Mark I as it was introduced in 1983.
http://www.imfdb.org/wiki/Terminator_Genisys#Desert_Eagle_Mark_VII

以上のように、デザートイーグルMark VIIの存在矛盾もジェニシスには発生しています。

なぜシュワちゃん顔を知ってるの?の矛盾

「ターミネーター1」(T1)を見ての通り、1984年に飛んできたばかりのカイル・リースは、シュワルツェネッガー顔がターミネーター(T-800)だとは知らないはずです。

しかし、ジェニシスでは、バンの中でシュワちゃん顔を初めて見た途端、カイルリースは「ターミネーターだ!」と叫んで撃とうとする・・・という矛盾が生じています。

ジョンコナーが生まれない矛盾

これは上述の時間軸の矛盾にも重複しますが、「ジョン・コナーが産まれない矛盾」が生じています。

1984年(~1985年)でジョンコナーを産まずに2017年に飛んでしまったら、仮に2017年にすぐ子作りしたとしても2029年にはジョン・コナーはまだ11~12歳で、子ども過ぎてとても救世主にはなれません。つまり、救世主ジョン・コナーの消滅=サラコナーやカイルリースの存在意味なし、という矛盾が生じます。

そういう意味でも、サラやカイルは一体なんのために2017年で戦っていたのだろう?というやるせない疑問が残ります。

ジェニシスの破壊を確認しないで終わる

極め付きは、あれだけ地下にジェニシスの中枢がある、と言っておきながら、ジェニシスの破壊を全く確認せず、シュワちゃんに抱き着いて終わり・・・というノー天気で摩訶不思議な展開がエンディングのほうで繰り広げられます。

「えっ!?それで立ち去っちゃうの?」とビックリしました。サラやカイル、Popsおじさん(シュワちゃんT-800)は、本当に「Genisys(ジェニシス)」を破壊したかったのでしょうか? 結局、何と戦っていたのかがわかりません。

細部における詰めの甘さ、設定ユルユルなのが「ターミネーター・ジェニシス」の特徴です。

無警戒に抱き着くサラコナー

その「シュワちゃんに抱き着いて終わり」もビックリした点です。サラコナーは、T-3000の最期を確認したわけでもなく、T-800が液体金属化していった過程も見ていたわけでもないのに、アップデートして液体金属化したシュワちゃんT-800が突然現れた途端、微塵も疑いもせず抱き着きます。

突然、腕が液体金属化した これまでと違うポップス(T-800)が出現したら、普通はまず疑い警戒するはずでしょう。T-3000がポップスT-800に擬態している可能性もあります。

シュワちゃんT-800に無条件で抱き着く一方、「自分の子ども」であるはずのジョン・コナー(T-3000)の生死に関しては、まったくの無頓着(無感情)・・・という冷え冷えしたシーンが展開されます。

ジェニシスにおいては、終始、サラ・コナーのキャラクター設定に矛盾と疑問がつきまといます。

老化ターミネーターの疑問

T-800の老化設定にも無理があり、また矛盾が生じています。

1973年に若い外見(20歳台~30歳台)で到着し、それからたった11年しか経過していない1984年で、もう60歳以上に見える老け方に豹変しているという矛盾。

ターミネーター「ニューフェイト」と「ジェニシス」が失敗した理由の1つに、「老化ターミネーターは世間的にはウケない」というのがあります。まったくターミネーターに見えないのです。

今後、ターミネーター映画があったとしても、老化ターミネーターは二度と登場することはないので、「ターミネーターが老化する」というのは、シュワちゃんを出すためだけの無理やりな設定であったことが、歴史(時間)によって証明されてしまうことになることでしょう。
→関連記事:老化ターミネーター(お爺ちゃん)は失敗-続編消滅(ジェームズ・キャメロン談)

まとめ:矛盾以前の問題

以上、「ターミネーター・ジェニシス」の矛盾点や疑問点を簡単にまとめてみましたが、筆者がジェニシスがコケると確信したのは、この映画のキャスティングと製作陣が発表された瞬間でした。
特に、
  • ジョンコナーとカイルリースの配役
  • シュワちゃんがターミネーター役で出る
  • 監督と脚本がジェームズ・キャメロンではない
の3点で、これはコケる、と確信しました。

すでに定着しているジョンとカイルのイメージとあまりにひどくかけ離れた配役は世間的にウケないのは「ターミネーター3」で実証済みのはずです。特にジョンコナーを変にいじるとひどい大惨事を引き起こします。

そしてシュワちゃんがT-800を演じるという時点で、ストーリーの6割がマンネリ確定してしまうためです。(シュワちゃんはもう自分がかっこよく見える役しかやりたがらない、というのが出演契約なので。)

この3つの過ちは修正されることなく、「ニューフェイト」(Dark Fate)にも持ち越されてしまい、「ニューフェイト」はさらなる大失敗(いわゆる爆死)を引き起こすことになります。

2011年にメーガン・エリソン率いるアンナプルナ・ピクチャーズが「ターミネーターの商標権利」を獲得してから、かなり雲行きが怪しくなり、「これは碌な作品は作られることはないだろう」と思っていたところ、やはり「ジェニシス」「ニューフェイト」と大失敗作を生み出す結果となりました。

矛盾した内容以前の部分に、ターミネーター・フランチャイズはかなり問題があったと認識しています。

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