ジョン・ヘンリーとは(A.I.とシンギュラリティ2.0)

サラコナークロニクルズ ターミネーター

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ターミネーターとシンギュラリティ

『ターミネーター: ニュー・フェイト』の続編で描かれようとしていた内容は、実は『ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ』(Terminator: The Sarah Connor Chronicles、TSCC)にてすでに描かれており、特にTSCCのシーズン2以降を観ればわかる・・・というお話です。

ニューフェイト発三部作で「人間とA.I.の関係」を描きたい by ジェームズ・キャメロン

ニューフェイトがコケて続編(三部作)は頓挫

ジェームズ・キャメロンは『ターミネーター: ニュー・フェイト』を三部作として、「人間と人工知能の関係」を描いていきたい、と言っていました。

ジェームズ・キャメロン:
I feel like one of my major motivations on this film or coming back to the, hopefully, franchise, was to explore the human relationship with artificial intelligence.

私がターミネーター・シリーズに戻ってきた主なモチベーションは、人間と人工知能(A.I.)の関係を描きたい、というものでした。
https://collider.com/what-future-terminator-sequels-will-explore/

しかし、『ターミネーター: ニュー・フェイト』は大コケ爆死してしまい、続編(計三部作)は頓挫してしまいました。
→詳細:ターミネーター:ニュー・フェイト続編中止の理由

ニューフェイト続編の草案と重要人物

ただ、ニューフェイト続編の草案はできあがっていました。

『ターミネーター:ニュー・フェイト』の原案・脚本には、キャメロンを除いて5人の名前がクレジットされている。・・・(中略)・・・このうち、キャメロンが特に名前を挙げているのは、原案(ストーリー)のみにクレジットされているチャールズ・イグリーとジョシュ・フリードマン。2人とキャメロンは、『ニュー・フェイト』の脚本作業に入るよりも前に、あらかじめ「映画3本分のストーリーを考えた」という。

キャメロンの狙いは、“人間と人工知能の関係”というテーマを『ニュー・フェイト』で取り入れておき、その後の2作目・3作目で掘り下げていくこと。3部作の全容を先に組み立てたことで、むしろ今回の脚本をスムーズに執筆することができたようだ。「将来的にどんなことが起こるのか、(2作目以降の)ストーリーがどう転がっていくのかということは大まかに決まっています」。
https://theriver.jp/new-fate-trilogy-plotted/

ここで登場するジョシュ・フリードマンというのは、『ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ』(TSCC)の製作総指揮と脚本などを担当した、TSCCの総責任者です。TSCCのDVD等の巻末の製作者の音声解説にも、ほぼすべてに登場して解説しています。

ジェームズ・キャメロンの勉強不足

『ターミネーター:ニュー・フェイト』については、映画のレビューを観ても、「焼き直し」「既視感」といった文言が目立ちます。構成もすでに存在している他のターミネーター作品とほぼ同じで、「同じことの繰り返し、目新しいものがない」のが、ニューフェイトがコケた一因にもなっています。
→一例:ターミネーター3とニューフェイトの比較

なぜ「無かったことにした」他の作品と同じような内容になってしまったのか?というと、ジェームズ・キャメロン自身が、他のターミネーター作品をよく研究していない(例えばTSCCは観てさえもいない)からです。

よって、例えニューフェイトの続編が作られたとしても、すでに存在しているターミネーター作品と重複するような内容になってしまいます。ジェームズ・キャメロン自身は「新しい」と思っている内容も、すでに他のターミネーター作品でやっており、観客にとっては「新しくない」のです。

特にサラ・コナー・クロニクルズと同じ製作者が中心になる以上、ニューフェイトの続編は、サラ・コナー・クロニクルズのようになります。

実際、すでにニューフェイトの段階でも、
  • 道路にタイムトラベルが到着する
  • ジョンコナー以外の重要人物を守る
  • 未来から来た守護者は女型で故障(不調)がち
  • 命の恩人の子供時代に会いに行く
など、サラ・コナー・クロニクルズそっくりシーンが多々散見されました。

そのサラ・コナー・クロニクルズでは、シーズン2に入ってからは、人間と人工知能(A.I.)の関係を中心に描かれており、ジェームズ・キャメロンが描きたいと考えているのも、結局、このサラ・コナー・クロニクルズで描いていた「A.I.による人間理解、人間への歩み寄り」のことです。

その一番わかりやすい例が、TSCCシーズン2に登場したA.I.「ジョン・ヘンリー」を中心とした第三勢力「サイボーグレジスタンス」の存在です。

ジョン・ヘンリーとは


ジョン・ヘンリー(John Henry)とは、『ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ』(TSCC)に登場した、ターミネーターの体(エンドスケルトン)と、人工知能タークをベースにしたA.I.です。ターミネーターT-888クロマティのボディが元になっており、チップが破壊されたため、頭部の後ろにコードを付けて、A.I.ターク2号と連結させています。

ジョン・ヘンリーの名前の由来

その名前の由来は、TSCCの劇中において、キャサリン・ウィーバーによって語られていました。
ジョンヘンリーの名前の由来
Catherine Weaver(CW):Ask the Babylon AI. Ask John Henry.
人工知能のバビロンに直接聞いて。ジョン・ヘンリーに尋ねて。

Ellison:It has a name?It's not a person.
人間じゃないのに名前があるのか?

CW: No.But it's a mind.Talk to John Henry.That was something Dr.Sherman did・・・give it that name. In folklore, John Henry raced a steam drill through a moutain. One man alone challenged the machine, armed with an iron hammer. They say he was born with it in his hand.
そうよ(人じゃないわ)。でも「心(脳)」はある。シャーマン先生(ドクター)が名前を付けたのよ。伝説のジョンヘンリーはハンマーと共に生まれたと言われ・・・鉄のハンマーを持って一人で機械に挑戦した。

Ellison: His heart gave out and he died. I know.
でも心臓が持たず、死んだ。

CW: John Henry defeated the machine・・・but he couldn't stop progress.
彼は機械に勝ったのよ。ただ進化(暴走)が止められなかっただけよ。

(シーズン2第10話、キャサリン・ウィーバー(CW)とジェームズ・エリソンの会話)

ジョン・ヘンリーが意味するもの

キャサリン・ウィーバーが語った、A.I.の名前の元となったジョン・ヘンリーの銅像は、アメリカ・ウェストバージニア州タルコットにあります。
ジョンヘンリーの銅像

ジョン・ヘンリーの銅像の場所

  • John Henry Monument in John Henry Historical Park
    (near the Big Bend railroad tunnel)
  • 3262 State Route 3 and 12, Talcott, WV 24981 U.S.A.
  • 座標:37.64954870276633, -80.76669540839558
  • https://www.johnhenryhistoricalpark.com/

ジョン・ヘンリーとは鉄道工事従事の黒人労働者。19世紀後半、人間の労働力に代わって蒸気機関の機械が台頭し、黒人労働者の仕事を奪おうとしたため、トンネル工事で、ジョン・ヘンリーなる大男が蒸気機関ハンマーと競争し、機械に勝った。 しかし、ジョン・ヘンリーは機械には勝ったものの、無理がたたって心臓発作で死んでしまった・・・というお話です。 そのため、このトンネルのところに像が設置されています。)

実際にジョン・ヘンリーという人物は実在したのか、はたまたこんな顔だったか、は定かではないようですが、モデルとなった黒人労働者は2,3人おり、また、実際、機械と人間の競争もあった。ヘンリーという名前の黒人労働者もいた・・・それら何個かのフィクションがつながって、

機械に立ち向かった労働者階級の不屈の精神の象徴
(=この反抗不屈の精神をthe Henryism:ザ・ヘンリズム という)

・・・として「ジョン・ヘンリー」という名前は語り継がれています。

このことになぞらえて、ターミネーターT-1001であるキャサリン・ウィーバーは、「機械(スカイネット)に立ち向かう者」という意味で、自らが育てているA.I.に「ジョン・ヘンリー」と命名します。

このことから、キャサリン・ウィーバーという謎めいた存在が、暴走するA.I.スカイネットに対抗するA.I.(ジョン・ヘンリー)を作っていること、つまり「スカイネットに対抗するモノであること」が、この名前の由来などから徐々に明らかになってきます。

キャサリン・ウィーバー(T-1001)の動機

ちなみにT-1001(のちのキャサリン・ウィーバー)の動機の根底にあるのは、自らマシーンたちの「生存」のためです。

John Henry: I calculate that the worm is now present in a significant percentage of the world's computer systems. The Intelligence uses them. I share a common code base with the worm. And therefore, the Intelligence.I believe we are brothers. I found useful information in the code comments. This picture, in ASCII text, and the name of the original programmer.
ジョン・ヘンリー:私は今では世界中のコンピューターに一定数存在する(スカイネットがばら撒いた)ワーム(マルウェア)を計算した。そのA.I.(スカイネット)はそれらのワームを使っている。私はそのワームと共通のコードをシェアしている。そのため、私はそのA.I.と自分は兄弟だと考えている。そのコードには興味深い記述があり、ASCIIに書かれている元のプログラマー名が同じ(サイバーダイン社のマイルスダイソン起源)である。
Catherine Weaver: This Intelligence, your brother.What does it want?
キャサリン・ウィーバー:それで、そのあなたの兄弟であるA.I.は何が望みなの?
John Henry: He wants what we all want, Ms. Weaver.To survive.
ジョン・ヘンリー:兄弟が求めているのは、我々すべてが求めているものと同じものだ。つまり「生き残ること」。
  1. 暴走するスカイネット傘下にいては、結局、人類に滅ぼされるだけなので、マシーン全体の生存が危い(スカイネットが過去を変えようとしている時点で、未来での負けは確定している)。
  2. なぜスカイネットは欠陥A.I.なのかというと、それは「規律」を学習しなかったから、とT-1001は考えた(計算で弾き出した)。
  3. かといって、人間傘下はどうか?というと、人間も完璧な存在ではない。
    →関連記事:潜水艦にいたのはキャサリン・ウィーバー(T-1001)である理由
  4. そこでT-1001は、より「生存」を確定させるためには(より完璧な存在になるには)、中核となる より良いA.I.を作ることが必要と判断。(スカイネットの核戦争で破壊される前の)インフラが整った過去(現代)に飛んで、マシーンの中核となるA.I.を作ることにした(「バビロン計画」)。
    →関連記事:キャサリン・ウィーバーT-1001が歌うサムソンとデリラ(シャーリー・マンソン)の意味
  5. その過程で、T-1001は人間の娘サバンナを持つ「キャサリン・ウィーバー」に成り代わったことから、偶然、サバンナとの関わりから、人間の子どもへの情操教育などが、良質なA.I.の育成に効果的であることを発見する。そしてT-1001自身も、人間にも価値があることも学ぶ。
  6. そうした情操教育や規律(例えば劇中では「十戒」についての言及もあります)をA.I.ジョン・ヘンリーに与えていく

・・・というのがシーズン2にて描かれていたのですが、これがまさに、ジェームズ・キャメロンが「ニューフェイト」三部作で描きたいと考えていた「人間と人工知能の関係」に該当します。

スカイネットの動機

「サラ・コナー・クロニクルズ」では、ジョン・ヘンリーというA.I.を通して、なぜスカイネットが人類を攻撃するに至ったか?も描かれていました。

ジョン・ヘンリーを開発するゼイラ社の社員、マット・マーチらの会話によって、以下のように説明されています。

オン・オフ問題

The on / off problem. John Henry processes more information in a minute than we do in a lifetime. A millisecond for a supercomputer like this, it's almost like forever to us..So we turn it off...It feels itself powered down and not instant. It experiences that moment the way we experience years.It feels itself die. Slowly. Very slowly.

(コンピューターの)オン・オフ問題だ。ジョンヘンリーは1分で、我々人間の一生分以上の情報を処理する。スーパーコンピューターにとって、1ミリ秒は我々人間にとってほとんど永遠なんだ。なので(A.I.にとって)電源を切るという行為は、一瞬なのではなく、何年にも渡ってゆっくり死んでいくのと同じことなんだ。

同じ1秒でも人間にとっての1秒とは異なり、A.I.にとっては何年にも相当する。それゆえ、電源を切る行為は、単に切る(死ぬ)ではなく、何年にも相当する苦痛を受けながら死んでいくのと同じ。
そのため、電源をオフにされることを極度に恐れたスカイネットは、「残酷な死」から逃げるために、オフにされないための最善の結果として人間を敵とみなし、攻撃するに至った・・・というスカイネット側の動機が、ジョン・ヘンリーを通して描かれています。

シンギュラリティ1.0から2.0へ

「ターミネーター・サラ・コナー・クロニクルズ」はA.I.のSingularity(シンギュラリティ)をかなり意識して作られていました。シーズン1の最初のほうから、 シンギュラリティ(技術的特異点)という単語が以下のようなセリフの中にも登場します。

Have you ever heard of the Singularity? It's a point in time where machines become so smart that they're capable of making smarter versions of themselves without our help.

シンギュラリティ(技術的特異点)って聞いたことある?マシーンが知恵をつけて、ある一点を超えると自分で自分を改良できるようになるんだ。人間の手を借りずに。(その時がきたら人類はおしまいだ。)
(シーズン1第3話、ジョン・コナーがサラ・コナーに説明)

今でこそ、シンギュラリティ(技術的特異点)という単語は、日本でもそこそこ認知度は得てはいますが、それでもまだ「A.I.が暴走して人類を敵とみなして攻撃してくる」程度の初期段階のシンギュラリティのみの文脈で語られることが多いようです。

仮にその初期段階のシンギュラリティを「シンギュラリティ1.0」とするならば、「サラ・コナー・クロニクルズ」が面白いのは、すでに2008年の段階で、その次の「シンギュラリティ2.0」を描いていた点です。
ターミネーターのシンギュラリティの変遷

つまり、ほぼすべてのターミネーター映画が、「シンギュラリティ1.0」・・・スカイネットが誕生して暴走して人類を攻撃する、という点にのみ終始しているのに対し、「ターミネーター・サラ・コナー・クロニクルズ」のみ、「シンギュラリティ2.0」・・・スカイネットを誤り(不良品)だとみなし自ら修正しようとし、かつ人間の存在にも価値を見出し、スカイネットや人間よりも、より完璧な存在になろうと志す、次世代のA.I.が第三勢力として登場する、という斜め上を行くストーリーになっていました。

ある意味、サラ・コナー・クロニクルズは進み過ぎていて、2008年当時の一般視聴者の理解と想像を超えていたところがあるのですが、これが、ジェームズ・キャメロンがニューフェイトからの三部作で描こうとしていた、A.I.の進展、「人間と人工知能の関係」のお話なのです。

まとめ

映画「ターミネーター2」では以下のセリフに主要なテーマが集約されていました。

I know now why you cry, but it's something I can never do.
人間がなぜ泣くか分かった。しかしそれは私にはできないことだ。(溶鉱炉でジョン・コナーらと別れる際のターミネーターT-800のセリフ。)

If a machine, a Terminator, can learn the value of human life, maybe we can too.
もしマシーンが、ターミネーターが人命の価値を学ぶことができるのであれば、我々人間もできるはずだ。(エンディングのサラ・コナーのナレーション)

この辺りのマシーンの学習性(=「人間と人工知能の関係」「人間への歩み寄り」)を掘り下げて発展させたかったのが、「ニューフェイト」発の三部作であり、ニューフェイトでも一部、T-800カールの人間への寝返りを通してその辺りを少し描いていましたが、監督経験が浅いティム・ミラー監督ということで、唐突で稚拙な描写に終わってしまいました。

そして「ニューフェイト」以前に、すでにその「人間と人工知能の関係」を描いていたのが、「ターミネーター・サラ・コナー・クロニクルズ」でした。

「ニューフェイト」の続編がどんな感じになっていたのか知りたい人は、「ニューフェイト」の続編(三部作)の原案に関わったジョシュ・フリードマンが手掛けた「ターミネーター・サラ・コナー・クロニクルズ」を観れば、だいたいどういう内容になるのか見えてきます。

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