これは日本ではあまり報道されていませんが、ターミネーター映画(フランチャイズ)には「2019年問題」というものがあります。
「ターミネーター4」(T4)までターミネーターの商標権利を保持していたハルシオン社の破産申請で、オークションに出されたターミネーター権利のごたごたに時間がかかっている理由の1つが、この「2019年問題」。
「ターミネーターの2019年問題」=「脚本家の35年ルール」
アメリカの法律は、著作権などの権利保護にとても厳しく、こういった映画やTVドラマ制作においても「脚本家の35年ルール」(=脚本家やクリエイターたちは、35年たったら、その作品の権利を再請求することができる法律)を設けているのです。ターミネーターにおける2019年問題とは、つまり、「ターミネーター1」(T1)が作られたのが1984年、それから35年たった2019年に「ターミネーター1」の脚本を執筆したジェームズ・キャメロンとゲイル・アン・ハードに、ターミネーターの商標権利が戻ってくる(商標権利を再度請求できる権利を得る)というものです。(ちなみにT1の脚本家はジェームズ・キャメロンの他に複数名います。)
つまりこれはどういうことかというと、
「Terminator Salvation(いわゆる日本では「ターミネーター4」と呼称されている映画、以下T4)」の興行的失敗
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T4製作会社ハルシオンの破産申請
↓
現在、オークションに出され、さまよってしまっているターミネーター権利
・・・を、2010年1月-2月の競売にてせっかく高額で競り落としたとしても、9年以内にターミネーターの権利を放棄せざるを得ない状況になってしまう可能性があるということになります。
ターミネーター権利を獲得しようとしている映画会社各社は、その2019年問題も心配して、その法律関係も含めて水面下で調査・調整しているのも現在の不透明な状況に影響を与えています。
J.キャメロンはターミネーター権利取得に興味なし
そこで、各社が当のジェームズ・キャメロン監督に確認したところ、キャメロン監督は、I've moved on and am interested in other things now.と回答。
(私はもうターミネーターとは離れてしまっており、今は別のことに興味を持っている。(=今のところ権利を再請求する意思はない。)
https://www.ft.com/content/86151482-e67f-11de-98b1-00144feab49a
ただし、これはあくまで今現在の回答であり、人間、10年後はどう気が変わってるかは誰にもわからないのも事実。
例えば、新作『アバター(AVATAR)』↓・・・ほか、これから手がける映画や事業が万が一、大コケしてお金に困ったらどうするか?
ターミネーター・フランチャイズを「スープに小便」などと称しているキャメロン。今後、あまりに変なターミネーター・スピンオフ作品に激怒したキャメロン監督が、「(AVATARでも駆使した最新3D技術を使って)ターミネーターを撮り直したい!」などと言い出すことも大いに考えられます。
後述のように、キャメロン監督はT3はもちろん、T4のこともあまり良くは思っていない模様。
10年後、キャメロン監督は65歳。最後に一旗揚げるために気が変わっていることも十分、考えられます。
尚、キャメロン監督、「監督として」以外にも「ランボー2」「エイリアン2」「タイタニック」「トゥルーライズ」・・・といった作品群の脚本やシナリオも担当しています。(つまり、ターミネーター同様、これらの作品の35年後の権利も持っている、ということ。)
T4は・・・微妙・・・
どうやらキャメロン監督、最近ようやくT4を観たようで、いやぁ~、まちがった方法(3日間徹夜後、ホテルのケーブルTVにてボーっとした状態)でT4を観ちゃったから・・・とT4への感想が微妙なことへの言い訳を前置きした上で、
でも、T4スタッフはよく頑張ってたし、私が想像してたよりかはよかった。何よりもサム・ワーシントンが出てるのがいいね。と言葉を濁していました。
今、T4を否定してしまったら、今公開中のAVATAR(アバター)も否定してしまうことになる(=AVATARもサム・ワーシントンが主演)ので、T4への苦言は避けるようにはしてる模様です。
T権利を「1ドルで売らなければよかった」と後悔
キャメロン監督の地元、カナダはトロントの地元誌Toronto Sunは、キャメロン監督が、I wish I hadn’t sold the rights for one dollar・・・と2009年12月のインタビューで漏らしていたとのこと。
(ターミネーター権利を1984年当時1ドルで譲らなければよかった・・・)
→関連記事:ジェームズ・キャメロンT権利1ドル慰謝料の嘘
すでに2012年頃、映画「タイタニック」の3D化によるリメイクは決定しているので、今後、ターミネーターもキャメロン監督によりリメイクされる可能性は十分にある・・・(少なくともT2を今ある映像を使って3D化することは、タイタニックの3D化の次のプランとして挙がっています。)
続々とリメイクされるかも
1980年代といえば「ターミネーター1」(1984年)と同年代には「E.T.」「グレムリン」「ゴーストバスターズ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のようなそうそうたるSF作品群がラインナップした時代です。これらの作品も、これから「35年ルール」の対象となり、リメイクなどにかかってくるかもしれません。
何かの映画が「何十年かたってリメイクされる」という話を聞いたら、「あー、こういった権利が背景にあるのかもなー」と思いをはせてみると、表面では見えてこない裏事情を理解できる手助けとなるでしょう。
まとめ
以上から、- 高額なターミネーター商標権利(→知名度だけが独り歩き。コスパが悪い。)
- アメリカの不景気=エンタメ業界金なし(→中国での興行収入への依存度強まり「媚び中」傾向)
- この商標に今後価値があるのかという疑問(→ターミネーターはもうオワコン?)
- そしてこの2019年問題(→権利を買ってもすぐ返還せねばならない)
といった数々の要因がからんでゴタゴタしているため、新オーナー決定に時間を要しているのが「ターミネーター権利」の現状です。それもこれも、「T4」が大ヒットしていてくれれば、何かと話はスムーズだったのですが・・・。
追記
2019年にターミネーター権利がジェームズ・キャメロンに回収される直前に大慌てで駆け込みでスカイダンス社が作って大失敗に終わった「ターミネーター・ニューフェイト」(2019年)を最後に、「脚本家の35年ルール」が適用され、2019年10月にT1の脚本家であるゲイル・アン・ハードが、この権利を行使しました。よって、ターミネーター権利は「ジェニシス」と「ニューフェイト」を作ったスカイダンス社(権利者ミーガン・エリソン)の手を離れ、2019年10月以降はゲイル・アン・ハードが権利の50%を持っています(残りの50%はおそらくジェームズ・キャメロン)。
これはどういうことを意味するか?というと、2011年~2019年までターミネーター権利を保有していたアンナプルナ社のミーガン・エリソンと兄弟のデイビッド・エリソン(株主は中国企業のスカイダンス社)製のような作品(「ジェニシス」や「ニューフェイト」)は、スカイダンス社の一存だけではもう作れなくなった、ということになります。
もし「ニューフェイト」の続編または新たなターミネーター作品を作るにしても、今度は原作者でもあり、権利者でもあり、ターミネーター作品に深い思い入れがあるゲイル・アン・ハードの意向が大いに反映される、ということになります。通常、権利者(オーナー)が変われば、作風も大きく変わることになります。