ジェニシスでT-1000を倒した液体は何?

ターミネーター

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液体金属ターミネーターT-1000を溶かした液体

映画『ターミネーター: 新起動/ジェニシス』(Terminator Genisys / 2015年)について、不思議な質問と回答をネット上で見かけることがあります。

例えば以下のようなものです。

ターミネーター・ジェニシスで液体金属T-1000を倒した液体は何か?

ターミネーター新起動について
下のやつを倒す時に天井から何らかの液体をぶちまけていましたが、あの液体は何ですか?あの液体が下のやつに触れたら固まって崩れてました。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q10256414690
T-1000を殺した?(壊した?)あの毒のような液体はなんでしょうか?(サラコナーが上に向けて銃を撃って壊したやつ)
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q11174752481
天井からなにかしらの液体の雨を降らせて、その中にT-1000を鷲掴みして倒しますが、あの液体はなんなんでしょ?そうゆう薬品を扱ってる施設なのか説明されてなかったので疑問に思いました。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14153429344
映画の中で液体について説明する描写もあり、明白なので、ほとんどの人があの液体が何なのかは理解しています。しかし、上の質問者のように、世間には分からなかった人が一定数、いらっしゃるようです。

回答も間違いが多い

その質問に対する答えにも、以下のような間違い回答がたたみかけられています。

slo********さん:ターミネーター2でもあった液体窒素です。

dan********さん:液体窒素でしょうな
・・・といった回答も複数あり(もちろん正確に答えていらっしゃる上記以外の回答者もいますが)、回答者の中にもジェニシスのこのシーンを理解できていない人がいる・・・つまり「あのシーンの液体が何だったのか?」分かっていない人は予想以上に存在するのかもしれない・・・ということがうかがえます。

液体窒素・・・ではない

まず、あの液体は液体窒素ではありません。

液体窒素だと、あのようにポリタンクで常温保存はできませんし、T-1000にふりかかればT-1000が「固まる」状態になり、あのように「溶ける」にはならないので、「液体窒素」という答えは間違いです。
ターミネーターを倒した液体の正体

答えは「塩酸」(Hydrochloric Acid)

あの天井の黄色のポリタンクに入っていて、サラ・コナー(エミリア・クラーク)がサブマシンガン(H&K MP5K)で撃って穴を空けて垂らして、液体金属ターミネーター・T-1000に掛けて倒した(溶かした)液体は、高濃度の塩酸(Hydrochloric Acid)です。

そしてサラ・コナーが、一生懸命、自分の手や腕にスプレー(霧吹き)で吹きかけていたのは、中和剤(アルカリ溶液)・・・酸性を中和させるためのアルカリ性の液体・・・です。
液体金属T-1000を倒した塩酸
酸の中でも塩酸、硫酸、硝酸のどれなのか?というところですが、

  • 金属に対して一番強力なのは塩酸(※塩酸による腐食性)
  • T-1000のシーンからは揮発性が見られる(揮発性があるのは塩酸)

という特徴から、T-1000を溶かすのに使った、あの天井の黄色のポリタンクに入っていた液体は「高濃度の塩酸」ということになります。

以下のサイトでもhydrochloric acid(塩酸)とあります。

when Sarah shot at containers of hydrochloric acid on the ceiling, causing it to rain on the T-1000,
Corrosives, such as concentrated hydrochloric acid were also known to damage T-1000s and could even destroy the units if prolonged exposure could be achieved.
https://terminator.fandom.com/wiki/T-1000
When Kyle arrives in 1984, he is intercepted by the T-1000, which Sarah and Pops destroy with acid.
Its acid destruction was realistically depicted after studies of acids burning aluminum ingots and other metal.
https://en.wikipedia.org/wiki/Terminator_Genisys

「酸」であることの説明シーン

あの液体が「酸」であることの説明シーンも、わざわざT-1000を倒す前後に計2回、挿入されていました。

1回目

まず1回目は、T-1000がカイル・リースに化けてやってくる直前。

  1. サラコナーがT-1000がやってくる気配を察知して、サブマシンガン(H&K MP5K)を構えます。
  2. その時、天井のタンクから漏れた液体が1滴したたり落ちて、サラコナーの右腕にかかります。
  3. 着ていた革ジャンから煙が上がり、サラは慌てて革ジャンを脱ぎ、革ジャンを溶かして腕に浸透してきた液体に対して、急いでスプレー(霧吹き)で何かを掛けて処置します(中和させます)。
液体がかかって、煙が上がり、服を溶かして侵食し、肌に到達する・・・という描写は映画「エイリアン」シリーズでお馴染みの光景で、これが「酸」であることが分かります。

2回目

2回目の説明シーンは、T-1000を倒した後。シュワちゃんT-800の溶けた腕に、またもやスプレー(霧吹き)で液体を掛けて処置します(中和させます)。シュワちゃんT-800の体にたくさん酸がかかったので、それ以上 外皮部分の溶解が進まないように、急いでアルカリ性の液体をスプレーでかけて、中和させたのです。

義務教育レベル

煙が上がって溶かすような液体に対して、「何か別の液体をかけて処置(中和)する」というのは、実は理科(化学)で(日本の義務教育なので)ほとんどの人が学んでいるはずの、小学生・中学生レベルのネタです。 理科の実験で、酸性のものを、アルカリ性のものを使って中和させたり、リトマス試験紙を使って計る実験のアレです。その理科の実験でやったことと、このジェニシスのシーンは同じなので、ジェニシスのこの液体のシーンを見て、「あー、アレね。」と懐かしく思った人もいるでしょう。

体内で日々起きている化学反応と同じ

さらにいうと、酸性のものをアルカリ性のもので中和させる、というのは、我々人間の体内で、日々起きている現象と同じです。今、この瞬間にも あなたの体内で起きていることかもしれません。

私たちの体内では、1日に500~800ml ほど膵臓(すい臓)から「膵液(すい液)」と呼ばれる弱アルカリ性の液体が分泌されています。その弱アルカリ性の「すい液」は、十二指腸経由で食べたものを分解したり、胃酸で酸性に変化した食べ物を中和してくれたりしています。

つまり、ジェニシスのあのシーンの、酸性で溶かしたり、酸性をアルカリ性で中和したりするようなことは、日々、我々の体内で起きている、とても身近なことです。

ジェニシスが失敗した原因の1つ、ここにあり

以上があのT-1000を倒したシーンの説明となりますが、ここに「ターミネーター・ジェニシス」が失敗に終わった原因の1つが隠されています。

分かりづらいジェニシス(説明不足)

その原因の1つとは、とにかくジェニシスは「観客に分かりづらかった」(舌足らず/説明不足だった)という点です。

塩酸の描写にしても、分かる人には分かるのですが、上記のように分からなかった人も一定数おり、小学生・中学生レベルの人に分かるような工夫がなされていませんでした。

また、このシーンに限らず、ジェニシスについては、「T-800シュワちゃんは誰が送ったのか?」など時間軸の迷子になって、途中から脱落してしまった人が非常に多くいます。
→詳細:【解説】ターミネーター・ジェニシスの時間軸と疑問解決

映画の観客のレベルはピンキリです。なるべく多くの観客に映画の世界に没入して楽しんでもらうには、もっと「直観的に」「ピクトグラム的に」分かるような演出を、製作者は心掛けなければいけません。

「直観的に」分かるような演出とは、例えば以下の映画のワンシーンです。

分かりやすい「ターミネーター2」(お手本)

映画「ターミネーター2」にもポリタンクに入った液体(薬品)を使う、似たようなシーンがありますが、これがとにかく分かりやすく作られています。
ターミネーター2注射器のシーン
サラコナーがぺスカデロ警察病院にてシルバーマン博士を人質にする際、ある液体を注射器の中に入れるシーンです。

その製品のTVコマーシャルかのように、LIQUID ROOTER(リキッド・ルーター)・・・パイプクリーナー/洗浄剤/毒物・・・という文字とパイプの絵が「これでもか!」と、大アップでドドーンと画面に映し出されています。

この液体が何なのか・・・が、観客に一目で分かる、とても分かりやすい(わざとらしい)演出です。

さらに念押しするように、シルバーマン博士の恐怖の表情も、危険物質であることを観客に知らせてくれています。
シルバーマン博士は、ターミネーター・シリーズでは、常に「驚きを代弁する者」という役割を担わされています。

これがジェームズ・キャメロンらしい細かく丁寧で分かりやすい演出の1つであり、その積み重ねがT2がヒットした要因の1つでもあり、ジェニシスやニューフェイトには無かった点です。

「T2でサラ・コナーが注射器に入れたあの液体は何ですか?」といった類の質問がネット上に無いことが、すべてを物語っています。
液体金属T-1000を倒した塩酸
ジェニシスにおいても、あの黄色のポリタンクに入っているのが塩酸であることが一目でわかるような上図のようなポリタンクの説明映像をドアップで1カット、入れるべきでした。

ジェニシスの評価がターミネーター史上最低なのも、こうした敗因の積み重ねによるものと言えます。
ターミネーター全作品の評価をまとめた表(ロッテントマト)
ターミネーターの評価相関図
→この図表の詳細:ロッテントマト評価順【ターミネーター全作品】

以上、たった1シーンでも、映画の成否を分けてしまう要因の1つになってしまうこと、そして同じ「ターミネーター」と名前が付いた作品でも、監督によって雲泥の差があることが分かる、「ターミネーター・ジェニシスで液体金属T-1000(イ・ビョンホン)を倒したシーン」の解説でした。

「シャワーから硫酸のような液体が出る何かしらの工場」でもない

尚、どうでもよいことではありますが、
あそこは、何かしらの工場でシャワーから硫酸のような液体が出る。と私は解釈しました。
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q14153429344
という投稿がネット上にありますが、これも間違いです。

あそこは廃工場で、あのシーンの当時はすでに稼働しておらず、サラ・コナーとT-800シュワちゃんが、T-1000をおびき寄せて迎え撃つために、わざわざ「塩酸を入れたポリタンク」を予め天井に設置し準備していた、という設定です。

また、「シャワーから硫酸のような液体が出る」のではなく、サラコナーがポリタンクを銃(サブマシンガン H&K MP5K)で撃って貫通して穴が開いたので、その穴から塩酸が漏れて滴り落ちたのです。「シャワー」ではありません。

ジェニシスでは、サラコナーらは廃工場にタイムマシーンを作っておいたり、サンフランシスコのゴールデンゲートブリッジ近くのHawk Hill(ホーク・ヒル)の冷戦時代の軍のミサイル監視レーダー基地跡を武器庫にしていたように、廃工場の「あの場所・あの時」を、1973年からずっと追っかけまわしてきたT-1000を倒す場所として選び仕込みをしていたのです。

なぜ1984年の「あの時」を選んだのか?については、こちら↓
【解説】ターミネーター・ジェニシスの時間軸と疑問解決 にまとめてあります。

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