ペスカデロ警察病院の怪【ターミネーター2】

ターミネーター ロケ地

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ターミネーター2ぺスカデロ警察病院

名作映画『ターミネーター2』(Terminator 2: Judgment Day / T2 / 1991年)は、名シーンと迷シーンの連続です。

今回は、サラ・コナーが収監されていたペスカデロ警察病院(正確にはぺスカデロ州立病院)の、主にエレベーターホール(廊下)の場面を中心に、名(迷)シーンをまとめました。

T2 ペスカデロ警察(州立)病院のロケーション

まず、ペスカデロ警察病院のロケ地は以下の通りです。

Film Location


リアルな施設

ここはT2の撮影前までは、Lake View Terrace Medical Center というドラッグ中毒者などの更生病院(リハビリ施設)だったのですが、1986年に病院が破産。その後「空き家状態」だったところをT2の撮影に活用したようです。背景が元々そのような建物なので、鉄格子や窓のフェンスなど設備がリアルです。

現存・現役

今でもこの建物は残っており、現在はPhoenix House Academyというドラッグとアルコール中毒者のリハビリテーションセンターとして復活し、営業しています。建物自体は当時のままですが、建物の周囲が鬱蒼と木々に囲まれ、建物が見えにくくなっている点などが、T2撮影時と異なっています。

Google Mapなどで上空からこの建物を眺めてみると、警備員に擬態したT-1000とサラ・コナーが、中庭を挟んで吹き抜け越しにすれ違うシーンなど、リアルな位置関係を確認することができます。

病院名について

T2での病院の正式名は、Pescadero State Hospital(ぺスカデロ・ステート・ホスピタル)なので、「警察病院」ではなく「ぺスカデロ州立病院」が正確な訳になります。

尚、「ぺスカデロ州立病院」の名前の元ネタは、カリフォルニア州に実在する「アタスカデロ州立病院」(Atascadero State Hospital)です。

T2 ペスカデロ警察病院の怪

そんなペスカデロ警察(州立)病院では、摩訶不思議な事象が立て続けに発生していきます。

1.BLM - 黒人が白人に変身

サラ・コナーの元へシュワちゃんT-800が駆けつけ、まず手前の黒人の病院スタッフ(看護士)をつかみ、外窓のほうへ投げ飛ばします。

しかし、窓にぶつかる瞬間は白人スタッフに変わってしまっています。Black Lives Matter(BLM)の先駆けでしょうか・・・「白人のスタントマンさん、お疲れ様です。」というシーンです。

2.サングラスの傾き

その後、女性の警備員にシュワちゃんT-800が顔面の右側を肘鉄で殴られてサングラスが割れ(向かって)左下がりになります。

しかし直後、シュワちゃんT-800がサングラスを取る際には、左下がりのはずのサングラスが右下がりに変わっているという摩訶不思議な現象が起きています。

そしてシュワちゃんT-800は、そのサングラスを取り「ポイ捨て」した後、サラ・コナーに対して、ターミネーター・シリーズの名セリフ、

Come with me if you want to live.
「死にたくなければついてこい。」
を吐きます。
どうもこのT2のシュワちゃんT-800はかっこつけての「ポイ捨て」癖があるようで、この「ポイ捨て」癖が、T2のストーリーの根幹を揺るがす事態を引き起こすことになります。
→詳細:アスタラビスタ、ベイビーは不可能なターミネーター2

3.革ジャンから消えた穴

上の「Come with me・・・」でサラ・コナーに手を差し出すT-800シュワちゃんですが、革ジャンの背中を見ると、穴(銃痕)がまったくありません。
T800革ジャンの穴
このショッピングモールの怪のサンタモニカ・プレイスでのT-1000との最初の衝突の際、T-1000からの銃弾の雨を、自らの体を盾にしてジョン・コナーを守ったので、背中は穴だらけになっているはずなのですが、とてもきれいな革ジャンの背中です。この革ジャンについては、他のシーンでも同様の怪奇現象(矛盾)が確認できます。
→詳細:T2シュワちゃんT-800革ジャンが液体金属並みの謎

4.無限銃

鉄格子を透過する名シーンの後、T-1000はまたもや銃弾の雨を浴びせかけます。

この時T-1000が所持していた銃は、病院の警備員から奪ったFN Browning Hi-Power(FN ブローニング・ハイパワー)で、標準マガジンでの装弾数は13発なのですが、T-1000はリロードなしで少なくとも26発以上、連射しています。
ハリウッド映画によくある、無限銃(無限に撃ち続けることができる銃)がT2にも登場していました。

5.迷音

さらにそのT-1000の銃ブローニングハイパワーについては、「ピシュンピシュンピシュン」と、縄跳びを飛んでいる時のような、鞭をしならせているような、不思議な銃声を発しています。

このショッピングモールの怪でのシーンとまったく同じ音です。再びこの銃声を効果音として採用しているということは、この音はジェームズ・キャメロンか、音響担当者さんの好みなのでしょう。

6.着弾点の未来予想図

T-1000からの銃弾の雨を避けながら、エレベーターに逃げ込んだサラ・コナーたちですが、そのエレベーターの奥の壁には「不自然な膨らみ」が何個か存在しています。
ターミネーター2のエレベーター
そしてその膨らみがある場所に、順番に穴(弾痕)が開いていきます。これは、壁に仕込ませた火薬を破裂させることで、着弾して穴が開いたように見せかけている典型的な撮影技法なのですが、観客は天気予報よりも確実に「次にどこに着弾するか」を予知することができます。

7.その壁の穴も消える

上述の通り、無限銃でT-1000が撃ちまくり、そのうち少なくとも3発分・・・3つの穴(着弾痕)が壁に空いたはずですが、その後のシーンでは、壁の穴がきれいさっぱり消えてしまっています。
T2のエレベーター
シュワちゃんの革ジャンの穴同様、エレベーターの壁も「液体金属並みの修復力」を誇るT2です。

8.撃つ前にパックリ割れるT-1000の頭

サラ・コナーらが駆け込んだエレベーターのドアをT-1000が一度、こじ開けた際、シュワちゃんT-800がT-1000の頭部を銃で撃ちます。

その際、シュワちゃんが撃つ前から、T-1000の頭部がフライングしてパックリ割れ始めていることに気づくでしょう。

9.ナンバープレートも液体金属なみに変化

エレベーター内での襲撃をやり過ごした後、駐車場で、サラ・コナーらはパトカーを奪います。
そのパトカーのナンバープレートのナンバーが、

999273・・・奪って乗り込む際

999001・・・病院駐車場から飛び出す際

999013・・・道路に出てまっすぐ進み始める際

999018・・・T-1000が鉤状に引っ掛けて後部を登る際

とシーンごとに目まぐるしく変わっています。撮影用に複数のパトカーが使われたことがわかります。

10.その他 出入りの際の怪

その他、この病院では、 など、数々の「迷」シーンが凝縮されています。

このペスカデロ警察病院シーンの見所

以上がこのペスカデロ警察(州立)病院の迷シーンでしたが、次は名シーンの解説です。

ジェームズ・キャメロンならではの演出満載

この病院のシーンでも、ジェームズ・キャメロンならではの演出の特徴が凝縮されています。

キャメロン・ブルー

一番の特徴は、「キャメロン・ブルー」と呼ばれている、「月明かりに照らされたような優しい青色」で夜や暗闇のシーンがいつも照らし出されている、という点です。「エイリアン2」や「タイタニック」の漂流シーンなどでも同じ「キャメロン・ブルー」が確認できます。

この「月明かりに照らされたような優しい青色」により、暗闇のシーンでもキャラクターの位置関係や表情などが観客にわかりやすい、という特徴があります。

一方、ジェームズ・キャメロンが監督しなかった「ターミネーター・ニューフェイト」では、この「キャメロン・ブルー」は微塵もありませんでした。映画レビューサイトでは「夜のシーンや暗闇のシーンで、誰がどこで何をやっているのかわかりにくい」という評価が散見されることからも、「ニューフェイト」が明らかにジェームズ・キャメロン作品ではない、別監督によるまったく別物であったことがこの点からも確認できます。その辺りにも「正統な続編」からかけ離れた「ターミネーター・ニューフェイト」が大コケ・大失敗に終わった原因があります。

シーンの間も飽きさせない

これだけ短いシーンなのに、その他にもジェームズ・キャメロンならではの観客を飽きさせない細かい演出が連続しています。例えば、

  1. T-1000が鉄格子をすり抜ける際、銃だけ鉄格子に引っかからせる(T-1000の透過性の強調)
  2. それを見たシルバーマン博士が口にくわえた注射器のキャップを落とす
  3. T-1000がサングラスを踏みつぶす

など、シーンとシーンの間の、何気ない、他の監督だったらそのままスルーしそうなカットにも、ちょっとした工夫が凝らされていることが分かります。
T1とT2の似たシーン
特に3番は、T1でのT-800がサラコナー宅に到着時、おもちゃのトラックを踏みつぶすシーンと共通しています。

残念ながら、「ターミネーター・ニューフェイト」はティム・ミラー監督ということで、こうしたジェームズ・キャメロンならではの演出は「ゼロ」で、単調にシーンが続いていくだけでした。

T-1000の魅力満載

このペスカデロ警察(州立)病院のシーンの魅力は、何よりも液体金属ターミネーターT-1000の魅力(機能)が満載、という点です。上述の「鉄格子を透過させる」以外にも、例えば、

  • 床や警備員への擬態
  • 指刺し
  • 手の自由変化(エレベーターのこじ開けや手刀)

などT-1000の変幻自在ぶりを堪能することができます。

ツートーンの床

そのT-1000のインパクトを増長させているのが、演出のちょっとした工夫です。前述の「キャメロン・ブルー」や音楽もT-1000の冷徹な金属感を増幅させていますが、床に擬態するシーンだけ、床面をわざと白黒のツートーンに変更している、という点も見過ごせません。
T-1000ターミネーターの床
ふつう病院では落とした物や汚れなどがわかりやすいように、単色の床にしています。実際、この病院でも白黒ツートーンの床になっているのは、T-1000が床に擬態した場所のみです。

この箇所だけ、床を白黒のツートーンにすることで、床から沸き起こってくるT-1000の液体金属の動きがより分かりやすく堪能できる、という効果がこの床の仕様には含まれています。

T-1000の「美しさ」を語るシルバーマン博士

この病院のシーンを語る、T-1000の存在感に圧倒されるシルバーマン博士が「ターミネーター・サラ・コナー・クロニクルズ」に登場します。

Then the other one came. They were diffent.
The second one was almost beautiful, like perfect, like a changeling. The face of mercury.

そこへもう一人現れた。全然違うやつだ。
2人目の男は美しかった。完璧といっていい。神の申し子のように神々しい顔をしていた。
→詳細:シルバーマン博士の山小屋

ターミネーターという映画においては、敵方は強いだけではダメで、「美しさ」があるかどうか?が成功の1つの鍵と言えそうです。

リンダ・ハミルトンの耳

最後に、この病院のエレベーター内の銃撃シーンの撮影で、リンダ・ハミルトンが耳栓をし忘れて難聴になった、という映画サイトでさえもネタにするくらい有名な撮影こぼれ話があります。

先日も映画「RUST」撮影時の銃の事故現場と背景でも触れましたが、映画での銃がらみの撮影では、大なり小なり、様々な事故が起こり続けています。

リンダ・ハミルトンは、自分の耳だけでなく、自分の息子や双子の姉(ターミネーター出演者の故人を悼む)もT2に駆り出しており、まさにT2はリンダ・ハミルトンの全身全霊を打ち込んだ作品と言えるでしょう。
→詳細:3人のサラ・コナーの共通点

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