あおり運転を50年前に描いた名作映画「激突」

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あおり運転映画「激突」
ドライブレコーダーやスマホが普及してから、随分、日本でも「あおり運転」がらみの映像を目にすることが多くなり、あおり運転の罰則も厳罰化されましたが、「あおり運転」というのは人類が車に乗るようになってから、切っても切れない関係にあるようです。

(もしかしたら馬車の時代からすでにあったのかもしれません。馬車時代の場合、I call shotgun. という言葉があるように、さらに別の問題も多発していたようですが・・・)

あおり運転の名作映画「激突」(Duel)50周年

そんな「あおり運転」を50年以上も前に描いた1971年の名作「激突」(原題: Duel)という映画があります。duelは「決闘」という意味です。 この映画は2021年でちょうど「50周年」を迎えたことになります。

50年前にこれ系の映画がヒットした、ということは、つまり、50年以上前から「あおり運転」は、人々の間では身近な恐怖として一般的に存在していた、ということを示唆しています。

ちなみに「あおり運転」のことをアメリカでは英語で"Road Rage"(ロード・レイジ・・・道路上での怒り)といいます。

この映画については、ひたすらトレーラー(ダンプトラック)が普通乗用車を追いかけまわす・・・という「ただそれだけ」の映画ですが、途中からそのトラックが、まるで生き物のように見えてくる演出が秀逸です。最期の恐竜の泣き声のような「トラックの断末魔の雄たけび」も有名です。

スピルバーグ監督の出世作

「激突」(Duel)は有名な作品なので、詳細は端折りますが、あの「E.T.」のスティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)監督の出世作となります。当初はテレビ映画として作られましたが、日本などでは一般の映画として劇場公開されました。

テレビ映画につき、わずか16日間の短期間で撮影された低予算映画ですが、スピルバーグの名前を世に知らしめる作品となりました。

ホラー映画で名を上げていく登竜門

当時(1970年代、1980年代)はホラー映画で監督として名を上げ、一流監督になっていく・・・というのが一つの登竜門になっていました。

スピルバーグ監督は、「ひたすらあおり運転し続ける」という、これ以上ないシンプル過ぎるこのテレビ映画「激突」の成功で名前が知られるようになり、この要素をそのまま海に引き継いだ映画「ジョーズ」(JAWS)で、監督としての名声を確たるものにしました。

このあたり、ジェームズ・キャメロン監督も似ており、キャメロン監督も当初は「殺人魚フライングキラー」(Piranha II)などのB級ホラーの監督を経て、同じくSFホラーとして作られた低予算B級映画「ターミネーター」で有名となっていきました。

セリフほぼ無し「無言の恐怖」

この「激突」という映画の特徴は、「セリフがほとんど無い」ということです。いっそ全くセリフ無しにしようと思えば出来なくもなさそうなほど、ほぼセリフがありません。ひたすら巨大トレーラーが追っかけてくる・・・というとてもシンプルな構成で、字幕無し/吹き替え無しでも十分楽しめる、万国共通な「ピクトグラム映画」と言えます。

犯人が沈黙(寡黙)であるほど心理的に恐怖が増す、という あの「ターミネーター1」や「ターミネーター2」にも共通する恐怖が、この「激突」にも見られます。

まさに映像一本勝負という映画の真髄を楽しめる作品と言えるでしょう。

犯人は最後まで不明

この「激突」のもう一つの特徴が、あおり運転をする犯人が誰であるのか、どんな人物であるのか、最後まで不明という点です。「実はあの人が犯人だった」という大どんでん返し的な味付けは一切ありません。ひたすら不明のまま、エンディングを迎えます。

「人が主役」なのではなく、あくまで「車が主役」という演出です。同時に、犯人のパーソナリティを特定させないことによって、「あおり運転をする」という人間誰しもが持ち合わせているかもしれない普遍的な狂気による恐怖をあおる効果も生み出しています。

そういう意味では、すぐにネットで質問してしまうという「第三者に答えを与えられることに慣れてしまった(思考を外注する癖がついた)」若い人が今この映画を見ると、逆にかなり新鮮に感じることでしょう。

トラックは「ピータービルト281」(1955年式)

あおり運転の主役となるトラックの車種は、ピータービルト社製の『ピータービルト281』(1955 Peterbilt 281)(1955年式)。但し、シーンによっては、『ピータービルト351』も使われています。 映画「激突」の撮影では、計3台の「ピータービルト281」が使われ、そのうち1台が、21世紀になってからもオークションに高値で出品されたりと、一部のマニアには根強いカルト的人気を誇っているようです。

ちなみに「あおり運転」で追いかけまわされる主人公が乗っていた赤い車は、クライスラーの「プリムス・ヴァリアント」です。

「激突」のロケ地

この映画「激突」のロケ地は、主にロサンゼルス北東部の砂漠地帯、アグア・ダルシー(Agua Dulce)やアクトン(Acton)、キャニオン・カントリー(Canyon Country)などのハイウェイを中心に撮影が敢行されました。映画に登場したカフェや踏切、トンネルなどはすべて実在しています。

主なロケ地は以下の通りです。

途中立ち寄った CHUCK'S CAFE


この建物は現在はLe Chène French Cuisineというフランス料理店になっています。

トンネルとスクールバスのシーン


この辺りは50年が経過した現在も、当時とほとんど変わっていません。

踏切のシーン


この踏切の周辺は比較的整備され、映画撮影当時とは少し雰囲気が異なっています。

蛇と電話ボックスのシーン(Sally's Snakerama Station)


ここは現在はValeroというガソリンスタンドになっています。

エンディングのトラック落下のシーン(ミステリー・メサ)

激突エンディングのロケ地
エンディングのシーンが撮影されたMystery Mesa(ミステリー・メサ)は、不思議な台地(高台)となっており、周囲が崖となっています。この辺りは、手付かずの砂漠地帯ということで、今でも当時と変わらない姿を留めており、「激突」ファンの聖地となっています。

劇中、トラックが崖から落下する直前、トラックの運転席から外の景色が映し出されます。その景色の山の形などが一致することから、正確なトラック落下ポイントは、ミステリーメサの入口に比較的近い、上の丸印の場所(崖)であることが分かります。

ロケ地や雰囲気が似ている作品

同じようにカリフォルニア州(ロサンゼルス北東部)のようなアメリカの砂漠地帯がロケ地として使われ、ひたすら追っかけまわされたり、ミステリアスな雰囲気を持つものとして、例えば以下のような作品があります。 ほとんど人間版ターミネーターといえる映画なのに、アカデミー賞4部門(作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞)を獲得してしまった独特すぎる映画「ノーカントリー」。BOSSの缶コーヒーCMでお馴染の保安官役のトミー・リー・ジョーンズ氏が渋いです。

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