映画『シン・ゴジラ』(2016年)では、「蒲田くん」ことゴジラの第二形態が、蒲田行進曲よろしく、東京・大田区蒲田の呑川を上流へ向けて上っていきます。
そのゴジラ第二形態の呑川の遡上シーンは、大田区の産業道路(国道131号線)の呑川新橋から撮影されていました。
画面右側の建物のピンクの看板「ジャック & サリーねこ病院」が巷で話題になっているシーンです。
その際、「蒲田くん」が破壊する橋が、呑川新橋から1つ下流に位置する「東橋」なのですが、その「東橋」、実は真田広之主演の映画『眠らない街〜新宿鮫〜』(1993年)でも登場した橋でした。
「シン・ゴジラ」の橋と「新宿鮫」のマンション
場所(ロケ地)
- 呑川 東橋 & クリオ蒲田東ホームズ
- 東京都大田区東糀谷1-3-15
- 座標:35.56079794891384, 139.7399552992836
その「東橋」のたもと・・・『シン・ゴジラ』の「ジャック & サリーねこ病院」から4軒うしろに位置するマンション(クリオ蒲田東ホームズ)は、『眠らない街〜新宿鮫〜』で、奥田瑛二演じる銃改造犯・木津 要が住んでいたマンションで、30年経った今も、当時とほとんど変わらない姿で現存しています。
「蒲田くん」が壊した、橋の中央にある街灯も、30年間、デザインは変わっていません。
真田広之演じる鮫島 崇が、銃改造犯・木津を新宿から尾行し続け、このマンションにたどりつきます。そして鮫島は時に、この「東橋」の上に車を停めて張り込み、時には呑川の向かいにある倉庫内から木津を数日にわたって監視し続けます。
そんな場所を『シン・ゴジラ』では、第二形態の「蒲田くん」が行進し破壊したことになります。シン・ゴジラの「東橋」破壊シーンでは、「ジャック & サリーねこ病院」の右側にも呑川から押し出された損壊物が噴出する様子が見られたので、『新宿鮫』の木津のマンションも全壊ないし少なくとも半壊ぐらいのダメージは負ったものと思われます。
ちなみにシン・ゴジラの「ジャック & サリーねこ病院」の看板は、現実世界ではクリーニング屋さんのピンクの看板ですが(その建物も実際はクリーニング屋)、それをそのまま映画に出すのはまずかったのか、CGで「ジャック & サリーねこ病院」という架空の動物病院の看板に変えたものです。
意外とおもしろい『眠らない街〜新宿鮫〜』
この『眠らない街〜新宿鮫〜』は、興行成績は振るわなかったものの、主演の真田広之が本作と『僕らはみんな生きている』にて日本アカデミー賞主演男優賞に、監督の滝田洋二郎が監督賞にノミネート、編集の冨田功が編集賞を受賞した。
https://ja.wikipedia.org/wiki/新宿鮫シリーズ#映画
とあり、ヒットはしなかったようですが、個人的には意外とおもしろいと感じた映画で、いつも見るたびに最後まで一気に観てしまうのはテンポがいいからでしょう。
人間版ターミネーター「ノーカントリー」BGMなき映画でも書きましたが、変わった銃火器が出る銃は面白い映画が多い傾向があり、この『眠らない街〜新宿鮫〜』は、改造銃が主要テーマとなっています。
古さと新しさの対比
エレキギター型の銃やトカレフ内蔵のアタッシュケース型7.62×25口径の銃、22口径のペン型銃の他にも、時代は感じさせてしまいますが、肩から下げるショルダーフォン型(肩掛け携帯電話型)銃や22口径のポケベル型銃など、今となっては見られないご当時モノと現代のモバイルとの比較。そしてコマ劇場からトー横に変わった新宿歌舞伎町の町の推移。
LGBTQ(性的マイノリティ)をからめている点。
また、真田広之や浅野忠信など、現在、ハリウッドでも活躍している俳優の若かりし頃を観られるのも見所の1つ。
特に真田広之ならではの(剛ではなく)「柔」な感じの刑事役と武士の殺陣のような警棒アクション、ニューナンブ(M37 サクラ・ポリス回転式拳銃)など、派手なハリウッド映画とは一味違った渋めの日本的「一匹狼」刑事アクションが楽しめます。
邦画にしてはテンポよし
『眠らない街〜新宿鮫〜』では、すべての伏線が劇中に回収されます(すべての出来事がつながっています)。例えば、映画冒頭に登場したエレキギター型銃は、映画の最後、エンドロール直前に再登場します。ハリウッド映画のような派手さはありませんが、すべてがコンパクトにまとまっており、邦画にしてはテンポよく物語が進み、最後まで一気に見切ってしまいます。映画『ストリート・オブ・ファイヤー』(Streets of Fire /1984年)や映画『ボディガード』(The Bodyguard / 1992年)と似た要素がチラホラと確認できます。
話題の映画「新宿鮫」のサントラ盤。田中美奈子のロック初挑戦のヴォーカルもさることながら,寂しげなサックスの音色を基盤としたインスト・ナンバーが,非常にスリリングで危ない雰囲気を醸し出しており,ついつい耳がそちらに向いてしまう。-- 内容(「CDジャーナル」データベースより)
故人
その他、すでに亡くなられた・・・室田日出男、今井雅之、大杉漣、斎藤洋介ら俳優陣がそれぞれ良い味を出しています。30年という時の流れをこの辺りにも感じます。「シン・ゴジラ」のしっぽ
一方、『シン・ゴジラ』の「蒲田くん」は、最終的には霞が関を破壊して、東京駅周辺に居座り、エンディングで見せた「しっぽ」や「とりあえず凍結はしたものの根本的な問題は解決していない状態が続いている」描写から、この映画は3.11の福島原発事故をモチーフにしたものであることがわかります。アーティスト(クリエイター)はよく、人々の苦悩や怨念をあの「ゴジラのしっぽ」のような形で表現することが多いからです。
よくある表現
例えば、以下の写真はアメリカ・マイアミビーチにあるHolocaust Memorial(ホロコースト・メモリアル)にある1990年に建てられた記念碑です。『シン・ゴジラ』のゴジラのしっぽはこれにそっくりです。
また、かつて香港大学にあって、現在は台湾にレプリカがある「国殤の柱」もそっくりです。
ということは、『シン・ゴジラ』のしっぽの先端が表現していたものは、やはり「人々の苦悩・怨念」ということであり、『シン・ゴジラ』でのゴジラそのものは、福島原発のことであり、そのしっぽは、原発事故で苦しんだ人々の苦悩を表現したもの、ということになるのでしょう。
最後、ヤシオリ作戦での血液凝固剤で、とりあえず凍結化して「保留」状態になったゴジラですが、根本的な問題は何も解決しておらず、そこに存在したまま・・・というのも福島原発そのものです。
この辺りは、好戦的ながらも実は反戦映画で、戦争の皮肉(批判)を描いていたジェームズ・キャメロン映画にも通じるものがあります。
→詳細:ターミネーターがT2で完結した理由