派手な音楽、派手なCG(VFX)で盛り上げる映画が多い昨今、音楽(BGM)や派手なVFXを全く使わないで、アカデミー賞を総ナメ(8部門にノミネート、4部門で受賞)した映画があります。
それが2007年の『ノーカントリー』(No Country for Old Men)です。
この『ノーカントリー』という映画、劇中にBGMがまったく登場しません。ですので、一般的な、いわゆるオリジナルサウンドトラックというものも存在しません。
One of Only a Few Films Without a Score・・・No Country For Old Men – Why the Scoreless Coen Brothers Film Didn’t Start a Trend
https://themusicessentials.com/editorials/no-country-for-old-men-why-the-scoreless-coen-brothers-film-didnt-start-a-trend/
主に現場の音だけで、とても静かに展開していくのが、逆に緊迫感を増幅させるのですが、「殺し屋」との追いつ追われつの展開が、まさに「人間版ターミネーター」と言える映画です。
特に「ターミネーター1」(1984年)に被るシーンが多々ありますので、その共通点(類似点)をまとめました。
同じ1980年代が舞台
『ノーカントリー』の舞台は1980年のアメリカ・テキサス州。一方、『ターミネーター1』は1984年のアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスが舞台で、ともに1980年代のアナログな世界観が色濃く反映されています。
砂漠地帯が関わって来る点も似ています。
無慈悲な暗殺者との 追いつ追われつの展開
『ノーカントリー』は無慈悲な殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)が、金を持って逃げるベトナム帰還兵ルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)を、ひたすら延々と追いかけまわします。その過程で銃撃戦も繰り広げます。一方、『ターミネーター1』でも、未来からやってきた無慈悲な暗殺者ターミネーターT-800(アーノルド・シュワルツェネッガー)が、サラ・コナーをひたすら追い掛け回します。その過程で、銃撃戦を繰り広げますが、サラを守ったカイル・リースはベトナム帰還兵がベースになっています。
詳細(関連記事):
コミュ障気味の暗殺者
『ノーカントリー』殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)は、とにかくコミュ障気味で、対面する相手とことごとく奇怪な会話を繰り広げます。挙句にはコイントスで相手の運命を決めてしまう、というとにかく一方的なコミュニケーションを繰り広げます。一方、『ターミネーター1』でもターミネーターT-800(アーノルド・シュワルツェネッガー)はアラモ鉄砲店などでコミュ障気味の一方通行な会話を繰り広げます。それがあまりに特徴的で、"I'll be back."などの名セリフとなって世に広まりました。
暗殺者が繰り広げる奇妙な会話が見所の1つなのも、両作品の共通点です。
癖のある銃火器の登場
『ノーカントリー』では、Captive Bolt Pistol(屠殺用圧縮空気ボンベ)やいかついサプレッサーを付けたショットガン(Remington 11-87)が登場します。ちなみにRemington 11-87は1987年に登場する銃なので、『ノーカントリー』の舞台である1980年には、本来はまだ存在しない銃です。一方、『ターミネーター1』では、大きなレーザーサイトを取り付けたAMTハードボーラーや、未来のシーンでは各種プラズマ・ガンが登場します。
ともに銃火器がインパクトを放っている映画です。
ショットガンをソードオフする
『ノーカントリー』では、追われる側のルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)が、持ち運びと取り回しが効くように、ショットガン(Winchester/ウィンチェスター 1897 Field)をソードオフ(木製ストックをノコギリで切る)します。一方、『ターミネーター1』でも、追われる側のカイル・リース(マイケル・ビーン)が、持ち運びとコンシールド性を高めるために、ショットガン(イサカ37)をソードオフします。
ともにわざわざソードオフするシーンを挿入している点が印象的です。「決戦に備える」という心象効果を狙ったものでしょうか。
モーテル襲撃
襲撃する場所がモーテル、というのも両作品の共通点です。『ノーカントリー』では、殺し屋アントン・シガーが、発信機に基づいてモーテルを特定し、屠殺用圧縮空気ボンベでドアの鍵部分を破壊してモーテルを襲撃します。襲撃前に音をたてないよう靴下になるシーンは、同じく暗殺者を描いた「殺しのライセンス」を彷彿させます。
→詳細:靴下が強烈な映画
一方、『ターミネーター1』でも、ターミネーターがTIKIモーテルにいるカイル・リースとサラ・コナーを襲撃します。
セルフメンテナンス(自己治療)シーン
なぜか両映画ともに、セルフメンテナンス(自己治療)シーンが、しっかりと描かれている、という共通点もあります。『ノーカントリー』は殺し屋アントン・シガーが、ホテルの一室で、自分で麻酔を打って、体内(足)から銃で撃たれた際の破片を取り出すシーンがあります。その後、ずっと足を引きずっています。
一方、『ターミネーター1』でも、ターミネーターT-800が、ホテルの一室で腕や目をメンテナンスするシーンがあります。ターミネーターT-800も、後半はずっと足を引きずっています。
逃亡先はメキシコ
メキシコが逃亡先となっている点も両作品の共通点です。『ノーカントリー』では重症を負ったルウェリン・モスがメキシコとアメリカの国境の川の草むら一旦、現金を隠し、メキシコへ逃亡します。
一方、『ターミネーター1』でも、サラ・コナーが有事に備えて、メキシコへ越境します。
→関連記事:嵐がやってくる【ターミネーター名言集】
まとめ
以上のように、『ノーカントリー』を観ていると、『ターミネーター1』を彷彿させるようなシーンが多々あり、まさに「人間版ターミネーター」と言えます。『ターミネーター1』が好きな人は、『ノーカントリー』にも満足する要素が多いのではないでしょうか。前述のように、『ノーカントリー』には劇中、音楽(BGM)がいっさい使われていないのですが、もし音楽を付けるとしたら、『ターミネーター1』のサウンドトラックが かなりマッチすること間違いありません。
静けさに渋味を添えるトミー・リー・ジョーンズ
日本では宇宙人ジョーンズとして人気がある、日本好きなトミー・リー・ジョーンズが、くたびれてはいるがキレがある保安官を演じています。→関連記事:トミーリージョーンズ氏は日本でCM撮影してるの?
この映画の主役は追走激を繰り広げるルウェリン・モスやアントン・シガーのように見えますが、主役はこのトミー・リー・ジョーンズが演じる保安官です。物語はトミーリージョーンズのナレーションを中心に展開していきます。
そのため、殺し屋アントン・シガーを怪演したハビエル・バルデムがアカデミー「助演」男優賞を獲得しています。あくまで「助演」であり「主演」ではなかった、ということです。
保安官はターミネーター(ギャレット・ディラハント)
ちなみにオマケの共通点としては、『ノーカントリー』に登場する保安官トミー・リー・ジョーンズの部下の間抜けな保安官役として、『ターミネーター・サラ・コナー・クロニクルズ』でターミネーターT-888ことクロマティとジョン・ヘンリーを演じた、ギャレット・ディラハントが出演しています。BGMがない映画はヒッチコックの「鳥」や「クローバーフィールド/HAKAISHA」など、頓智や示唆に富んだ映画が多い傾向があります。「BGMがない映画」に絞って集中的に見てみるのもおススメです。