映画『ターミネーター: ニュー・フェイト』(Terminator: Dark Fate / 2019年)のレビューを見ると、「やはりターミネーターはターミネーター2(T2)で完結してたんだ。」という感想をよく目にします。
観客側にとって蛇足感が否めない点が一番の要因ですが、なぜ「ターミネーターはT2で完結なのか」、製作者(ジェームズ・キャメロン)側の視点でもう少し掘り下げてみたいと思います。
ジェームズ・キャメロン「ターミネーターは2で完結した」
元々、ジェームズ・キャメロンは「ターミネーターは2で完結した」と何度も発言しています。これが本音であることは間違いありません。From my perspective, it's run its course and I don't know what else to say that hasn't been said.
私の観点から言えば、ターミネーターはもう完全にコースを走りきっており(=すでに完走した、つまりT2で完結しており)、だからもうターミネーターを通して伝えたいことはない
I had a choice when I was finishing Titanic to do another Terminator film and it just didn’t feel right. So I’ve moved on from that.→詳細:T2で完結,スープに小便【ジェームズ・キャメロン語録】
「タイタニック」の撮影終了後、映画版「ターミネーター」の続編を作るという選択の余地があったが、私は作るべきとは感じなかった。だから私は「ターミネーター」からは離れたよ。
そのため、ターミネーター・ニューフェイトでは、ジェームズ・キャメロンは監督も脚本も担当していません。現場にもいっさい足を運んでおらず、あくまでリンダ・ハミルトンの招集など制作調整程度に関わっているだけです。
そのため、「ニューフェイト」には、当然ながら、ファンが期待したようなジェームズ・キャメロン・クオリティーやカラーはまったくなく、それが大きな失望を招き、大コケ爆死につながりました。
「ターミネーターを通して伝えたかったこと」とは
上のインタビューの「ターミネーターを通して伝えたいこと」とはいったい何だったのでしょうか。ターミネーターを見る時、ターミネーター・シリーズの中でのストーリーのつながりだけを考えがちですが、ジェームズ・キャメロンが携わった他の作品とをつなげて見ると、ターミネーターは2で完結であることがよくわかります。
時系列に並べると以下の通りです。
①ベトナム戦争三部作
- 1984年「ターミネーター1」(監督・脚本)
ベトナム戦争時代の米軍トレンチコート、イサカ37ショットガンなどが登場。ベトナム帰還兵のPTSDを反映したセリフなど。
→詳細:T2サラも愛用のカイル・リースのコートの怪 - 1985年「ランボー2」(脚本)
1984年の「ターミネーター1」のすぐ後に、ジェームズ・キャメロンは「ランボー2」の脚本を書きます。ランボーといえば、ベトナム戦争そのものです。
→詳細:「ランボー2怒りの脱出」の一瞬の迷シーン - 1986年「エイリアン2」(監督・脚本)
「ランボー2」の脚本執筆後、ジェームズ・キャメロンはエイリアン2を監督します。海兵隊やイサカ37ショットガンはベトナム戦争ベース。主人公リプリーにもベトナム帰還兵のトラウマが反映されています。エイリアン2は、ジェームズ・キャメロンのベトナム戦争映画の集大成となります。
→詳細:接近戦にはこれが一番だ【エイリアン2】の意味
中途半端なかかわりとなった最初の監督作「殺人魚フライングキラー」を除き、事実上の監督第一作目である「ターミネーター1」から、しばらくの間、ジェームズ・キャメロンの頭の中は「ベトナム戦争」一色だったことが分かります。
「ベトナム戦争」映画の集大成として、「エイリアン2」では「数量で圧倒しながらも、コテンパンにやられてしまった米軍・・・という戦争の皮肉」を、穴倉でゲリラ戦を展開するエイリアンを通して描き、一見、好戦的な映画ながらも実は強烈な「反戦」メッセージが吹き込まれていたのでした。
②核戦争二部作
「ベトナム戦争トリロジー」でベトナム戦争を描き切った後、次はいよいよ「核戦争(核の恐怖)」へテーマを広げていきます。- 1989年「アビス」(監督・脚本)
原子力潜水艦、核弾頭の回収、ロシアへの恐怖など。ジェームズ・キャメロンが8歳の時に経験した「キューバ危機」がベース。 - 1991年「ターミネーター2」(監督・脚本)
核爆弾の恐怖、悲惨さ、終末論(審判の日)、核戦争阻止など。
映画「アビス」(=キューバ危機)
ジェームズ・キャメロンの映画作りの根底には、自身が8歳の時に実際に経験した1962年の「キューバ危機」の恐怖があり、数々のインタビューでも以下のように答えています。The filmmaker that created the "Terminator" franchise in 1984 said he was "spooked" by the Cuban Missile Crisis as a kid, and he "never stopped thinking about those things."
1984年にターミネーター・フランチャイズを創り出したフィルムメイカーは、彼は子ども時代のキューバ・ミサイル危機に驚き、それ以来、核戦争について考えずにはいられなくなった、と言った。
https://toofab.com/2017/08/11/terminator-2-judgement-day-3d-james-cameron-north-korea-donald-trump-nuclear-weapons/
Q.Many of your films have dealt with nuclear disaster. Any truth to the rumor that you’re relocating your family in anticipation of the big one?
あなたの多くの映画が核の惨事を描いています。あなたの家族が核戦争を心配して引っ越した、という噂は本当ですか?
Look, I’ve felt an apocalyptic dread since I was a kid during the Cuban missile crisis and my dad had pamphlets on the table about building bomb shelters. But I don’t necessarily believe there’s going to be a big one.
私が子どもの頃のキューバミサイル危機以来、私は黙示録の恐怖(終末的恐怖)を感じていて、私の父は核シェルター建設のパンフレットをテーブルに置いていたものさ。でも私は核戦争が起きるとは必ずしも信じているわけではないよ。
https://www.nytimes.com/2012/04/08/magazine/james-cameron-is-ready-for-the-apocalypse.html
このキューバ危機で感じた核への恐怖とソ連(ロシア)への疑心暗鬼、自身の海好き、新しい映像技術(CG)への挑戦などをミックスして作ったのが、深海での原子力潜水艦沈没や核弾頭回収を描いた映画「アビス」でした。
この映画「アビス」は、海底版「未知との遭遇」と揶揄されているように、何やら「非地上知的生命体(NTI)」が出てきたり、と映画「E.T.」などスピルバーグ映画に触発されたようなメルヘン仕様な試行錯誤な描写も多々あり、結果として、話が取っ散らかって、映画「アビス」は失敗に終わりました。
あの「非地上知的生命体(NTI)」(宇宙人)は何だったのか?というと、おそらくキューバ危機の緊張下で核戦争をギリギリのところで回避したという、一抹の「希望の光」を表現したのではないか、と感じられます。
映画「ターミネーター2」(=核の恐怖+メルヘン「E.T.」)
しかし映画「アビス」の失敗は成功の基となり、- 「アビス」のCG技術→T2での液体金属T-1000へ転用
- 「アビス」で描き切れなかった核への恐怖→核戦争阻止というT2の主テーマへ
- 「アビス」の"未知との遭遇"異文化交流的メルヘン性→T2での少年とマシーンとの心の交流と相互成長(=異星人との交流と成長を描いた映画「E.T.」のメルヘン要素取入れ)
- 「アビス」の海・水に関する撮影技術→「タイタニック」へ転用
まとめ「戦争五部作」(=反戦)
- 1984年「ターミネーター1」(監督・脚本)
- 1985年「ランボー2」(脚本)
- 1986年「エイリアン2」(監督・脚本)
- 1989年「アビス」(監督・脚本)
- 1991年「ターミネーター2」(監督・脚本)
以上のように、「ベトナム戦争三部作」+「核戦争二部作」=「戦争五部作」を持って、ジェームズ・キャメロンが描きたかった戦争の悲惨さ、核戦争の恐怖を描き切ったために、ジェームズ・キャメロンには「やり切った感」があり、「ターミネーターはT2で完結した」ということになるのです。
尚、ジェームズ・キャメロンはその他に原爆をテーマにした映画製作も検討して、被爆者へインタビューなどもしていましたが、製作上の諸事情や、原爆自体を描くことは、まだまだアメリカではご法度要素であることなどから、原爆映画計画は頓挫してしまった模様です。
以上、ジェームズ・キャメロンの映画製作のモチーフには、戦争と核への恐怖(反戦魂)があり、それを描き切ったT2で一段落ついた、というお話でした。
しかし、ただ説教臭い社会派系反戦映画ではなく、好戦派も楽しめる反戦映画になっているのがジェームズ・キャメロンのすごいところと言えます。