ドク・ブラウン日本製大好きへの変遷【バックトゥザフューチャー】

洋画

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バックトゥザフューチャーの日本製品

1985年の映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(Back to the Future)のオープニング・シーン。

クリストファー・ロイドが演じたエメット・ブラウン博士(通称ドク)の家の時計の1つは、「キット(キティ) キャット クロック」(黒猫の掛け時計)でした。
バックトゥザフューチャー始まりの時計
「キット キャット クロック(Kit Cat Klock)」は、現在でもAmazonで購入できます。↓
何やらこの「キット・キャット・クロック」、1932年のアメリカでの販売開始以来、左右に動く尻尾を白や赤に交換できる「90周年限定版」が発売されたりと、相当な歴史を持った掛け時計とのこと。ちなみに商品名のクロックは、ClockではなくKlockと、あえて"K"で表記するようです。ちなみに右隣のフクロウの掛け時計も、同じ会社California Clock Companyのシリーズです。

ドクはダブル・リスティンガー

その『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズに登場したドクは、全シリーズ通して、ダブル・リスティングする(両腕に腕時計をはめる)ダブル・リスティンガーでした。

そんなドクの腕時計を時系列で見ていくと、ドクが徐々に「日本製品」大好き人間に変貌していく様子がうかがえます。

今回はドクの腕時計を中心に、そのあたりをまとめました。

ドク・ブラウンの腕時計ブランドの変遷
ドク 左腕 右腕
1955年 HELBROS
アメリカ製
不明
海外ブランド
1985年 Armitron
アメリカ製
SEIKO
日本製
2015年 CITIZEN
日本製
CITIZEN
日本製

1955年のドク・ブラウン

左腕:HELBROS (ヘルブロス)

1955年のドク・ブラウンが左腕に着けていた腕時計は、アメリカの時計会社・HELBROS (ヘルブロス)のInvincible でした。

映画のプロップを公開しているサイトで確認できます。

右腕:不明

ドクが右腕に着けていた腕時計は不明です。以下のような特徴がありますが、1950年代モノで、以下の条件すべてに該当する腕時計が、今のところ見つかりません。
  • 文字盤の数字は 12、2、4、(6)、8、10 ※6はあるかどうか確証なし
  • 6の位置にサブダイヤルがある
  • 3の文字のところが日付(カレンダー)で、拡大鏡のようになっている
  • 茶色の革ベルト
  • 針は三角形の、端に向かってとんがってる形
  • おそらく文字盤と針はゴールド色
12の下にあるロゴらしきものが、オメガのロゴにも見え、オメガに似たような1950年代の腕時計はあるものの、上の条件をすべて満たすものは、今のところ見つけることができていません。

但し、いずれにしても、時代考証的に、また後述の1955年当時のドクは「日本製へ不信感」を持っていることから、1955年のドクの右腕に着けられた腕時計は、日本製ではない可能性はかなり高いです。

ミニチュア模型の時計台の腕時計:ENICAR(エニカ)

ドクがヒルバレーのジオラマを作って、時計台に落ちた雷を車に伝導する実験をします。その際に、時計台の模型に付けていたのが、スイスの時計ブランド、ENICAR(エニカ)のミリタリーウォッチ(フィールド・スタイル)でした。おそらく第二次世界大戦~1950年代モノと見られます。
時代考証的にも矛盾がない小道具が使われています。

この時計の表面と裏面には以下のような文字が記載されています。
  • 時計表面
    • ENICAR
    • WATERPROOF
    • 17 JEWELES

    • SHOCK PROTECTED
    • ANTIMAGNETIC
    • SWISS
  • 時計裏面
    • SHOCK PROTECTED
    • ANTIMAGNETIC
    • STAINLESS STEEL BACK
    • WATERPROOF

「日本製!?信じられん」・・・占領下の日本

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』(Back to the Future Part III、1990年)では、「1885年のドク」が鉱山に隠したデロリアンを前にして、「1955年のドク」とマーティが、以下のような、日本に関する会話を繰り広げます。

Doc: No wonder this circuit failed. It says "Made in Japan".
ドク:回路が壊れても不思議じゃない。”メイド・イン・ジャパン”だ。

Marty: What do you mean, Doc? All the best stuff is made in Japan.
マーティ:どういう意味?”メイド・イン・ジャパン”は最高だよ。

Doc: Unbelievable.
ドク:信じられん。

この「1955年のドク」の言葉の背景にあるのが、「Made in Occupied Japan(占領下の日本製)」です。1955年といえば、1945年のWW2終戦からまだ10年しか経っていません。日本は1952年まで、アメリカGHQによって、日本製の輸出品には「Made in Occupied Japan(占領下の日本製)」の刻印をすることを義務づけていました。

ドクにとって、終戦後まもない日本の、日本製品の粗悪品ぶりが強烈に印象づいていたものと思われます。

1985年のドク・ブラウン

しかし、1955年から30年経過した「1985年のドク」の価値観は すっかり様変わりしており、ドクの身の回り品が、徐々に日本製品で侵食されていった様子がうかがえます。主観で判断するのではなく、「良い物は良い。」と素直に取り入れるのは、とても科学者らしいと言えます。

左腕:Armitron Calculator

「1985年のドク」が百貨店 JC Penney(J.C.ペニー)の駐車場で、デロリアンのお披露目の際に、左腕にはめていた腕時計は、シルバーの Armitron calculator watch でした。

ARMITRON(アーミトロン)は、アメリカのカジュアル時計ブランドです。

このシリーズは、計算機以外にも、Armitron Piano Game watchというゲームができるものなどもあります。

右腕:SEIKO A826 Training Timer

一方、その時ドクの右腕にはめていた腕時計は、日本製 Seiko A826 Training Timer(セイコー・トレーニングタイマー A826)でした。
この腕時計は、本体からスウィッチが付いたコードが伸びていて、そのスウィッチでタイムをON/OFFして計ることができます。つまり、ストップウォッチとして、片手でタイムを計測できる腕時計です。

「日本製だ。信じられん。」と言っていたドクが、大切なタイムトラベル計測時に、この日本製のセイコーを用いたことからも、日本製品への信頼ぶりがうかがえます。

ストップウォッチ2つ:SEIKO & CITIZEN

ドクの愛犬アインシュタインをデロリアンに乗せてのタイムトラベルの実験では、以下の2つの日本製・・・セイコーとシチズンのストップウォッチが使われていました。

  • CITIZEN QUARTZ LSW-090
  • Seiko quartz S111-5009

但し、製品そのままのデジタル表示だと、映像表現的に時間が見えにくい、ということで、液晶画面は赤色の発光ダイオードの大きな数字表示に変えられていました。

マーティの腕時計:Casio CA-50(現後継機種:CA-53W)

主人公マーティ・マクフライ(マイケル・J・フォックス)が愛用していた腕時計は、チプカシ(チープカシオ)群に属する、計算機機能のボタンが目立つ、Casio(カシオ)CA-50(現後継機種:CA-53W) でした。ドクが付けていたArmitron Calculatorと計算機付き腕時計対決をしていたことになります。

尚、このマーティの腕時計Casio(カシオ)CA53W に関しては、以下の2つの同一シーンの(女優さんが代わったことによる)撮り直しにおいて、
  • 1985年の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のエンディングでは腕時計を着けておらず、
  • 1989年の『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』のオープニングでは腕時計を着けている
という撮影ミスが生じていることで有名です。

ビデオカメラ:JVC GR-C1

ドクの右腕にはめられた腕時計やストップウォッチ2つ、マーティの腕時計など、とにかく日本製品に囲まれたデロリアンの第一回タイムトラベル実験現場ですが、その現場を、ドクに頼まれたマーティが撮影していたのも、日本製のビデオカメラ、 JVC「GR-C1」でした。

JVCというのは、ビクターの海外向けブランド名で、「Japan Victor Company(日本ビクター株式会社)」の略です。

この赤いJVCのビデオカメラは、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のオープニングの、時計がたくさん映っていたシーンから登場しており、ドクの家の、エジソンやアインシュタインの写真が飾られたドクのベッド?脇(画面の右端)に無造作に置かれているのが映画冒頭で確認できます。

オープニング・シーンに関する「よくある間違い」

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のオープニングシーンに関するよくある間違いとして、ネット上には以下のような記述があります。

  • 細かすぎて気づかないバック・トゥ・ザ・フューチャーの小ネタを紹介するね
    映画冒頭で、ラストの展開を予示する時計が。
  • バック・トゥ・ザ・フューチャー 1 意外と知らない オープニングの時計の針にぶら下がるドク人形
  • 冒頭部分で出てくる時計群の中に、時計の針に人がつかまっている変わった時計がある。実はこれがラストシーンの時計台につかまるドクを表している。

これらの指摘は、ちょっと間違っていて、このぶら下がり時計は「ラストの展開を予示」でもなければ、「ドク人形」でもなく、「実はこれがラストシーンの時計台につかまるドクを表している」のでもありません。

このぶら下がり時計は、Axis の Harold Lloyd wall clockです。

これは、ハロルド・ロイドのコメディ・アクション映画『ロイドの要人無用』のワンシーンをモチーフにした壁掛け時計です。

ハロルド・ロイドはコメディアクションの先駆けで「三大喜劇王」とも呼ばれ、スタント無しでビルを登り、大時計からぶら下がったり・・・など、数々のアクションをこなしていました。彼の映画は、コメディ・アクション映画の源とも言われています。

よって、コメディ・アクション映画である『バックトゥザフューチャー』のオープニングのこのシーンは、ラストの暗示でもドク人形でもなく、コメディ・アクションの大御所、ハロルド・ロイドへの敬意と、『バックトゥザフューチャー』全体が、ハロルド・ロイドの映画のオマージュになっていた(=『バックトゥザフューチャー』の元ネタはハロルド・ロイドの映画)、ということなのです。

同じようなハロルド・ロイド映画へのオマージュ作品として、同じく時計台アクションが登場するジャッキー・チェンのコメディ・アクション映画『プロジェクトA』があります。

それだけ、ハロルド・ロイドは偉大だった、ということです。

その時計台にぶらさ下がっていたハロルド・ロイドの豪邸は、映画『ビバリー・ヒルズ・コップ』や『コマンドー』にも登場します。
→詳細:映画コマンドー孤島の怪(海・浜辺・兵舎・豪邸)

2015年のドク・ブラウン

左腕:Citizen 3530 Chronograph Gold

シチズン3530バックトゥザフューチャーの腕時計
2015年のドク・ブラウンが左手に着けていたのは Citizen(シチズン)3530(3530-351223)Chronograph Gold & Silver でした。それまでの年代のドクよりも、少しゴージャス感が増しています。

右腕:Citizen 8946

2015年のドク・ブラウンが左手に着けていたのは CITIZEN 8946-085604 デジアナ ジェットダイバーでした。

2015年のドクは、両腕に Citizen を装着する徹底ぶりで、完全にシチズン大好き、それもクロノグラフ大好き人間に化してしまったようです。

ドクの謎シャツ:漢字

2015年の未来から1985年の現代にやってきたドク・ブラウンは、漢字が印字された赤いシャツを着ていました。「花」「安」「舎」「常」「樹」などの謎の字が行書体の白い文字で書かれています。

黄色のコートの内側には、ゴールドの「竹」(竹林)がデザインされていました。

これらは日本人から見れば中国っぽいのですが、アメリカ人から見れば、これも「日本」をモチーフにしていたのでしょう。

この赤シャツのレプリカは販売されているのですが、そのレプリカは、劇中に登場したのとはちょっと違い、行書体ではなく、ブロック体で漢字が印字されているものです。

ドクの衣装と同様に、2015年の未来でのビフ一味のチンピラの一人、東洋系アジア人が着ていたズボンには漢字があしらわれており、彼のホバーボードは旭日旗をモチーフにしたようなデザインになっていました。

このあたりは映画『ブレードランナー』(Blade Runner、1982年)と同じで、当時のアメリカはバブル時代の日本に押され、未来は日本に牛耳られてしまうのではないか?という強迫観念が映画の節々に反映されています。

しかし、現実世界の日本はというと、この以降・・・1990年代以降から「失われた30年」ですっかり存在感が失われてしまい、一方、ハリウッド映画は、2010年代に入ってからは、中国媚びに走り、中国検閲忖度の骨抜き映画を量産するという情けない状態になってしまいました。
→関連記事:ターミネーター映画大失敗の致命的な原因

まとめ:「占領下の日本製品」から「日本製品の占領下へ」

何はともあれ、『バックトゥザフューチャー』シリーズのドクを、1955年→1985年→2015年と順を追って見ていくと、

Made in Occupied Japan
(占領下の日本製品)
というイメージ


Occupied by Made in Japan
(日本製品の占領下)

への変遷が確認できるのも、『バックトゥザフューチャー』シリーズのおもしろい点です。

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