アーノルド・シュワルツェネッガー主演映画『コマンドー』(Commando、1985年)のクライマックスでは、敵ボス・アリアスの孤島にシュワちゃんが乗り込んで銃撃戦が繰り広げられます。
この島はいったいどこにあるのでしょうか。調べてみると、フィクションとリアル(ロケ地)が入り乱れて映画が作られていることが分かりました。
1.アリアスの孤島(Arius' island)の場所
映画の中では、アリアスの島に関して、以下のようなセリフが交わされています。- These coordinates are somewhere near Santa Barbara. There's something going on at this island north of here.
この座標はサンタバーバラの近くのどこかだ。この島の北側で何か起きているに違いない。 - How long to fly to the island? - About two hours.
この島までどのくらいの飛行時間だ?2時間くらいよ。 - You're flying over the San Miguel gunnery range. This is a highly restricted area.
君たちはサン・ミゲル射撃訓練場の上空を飛んでいる。ここは厳重制限区域だ。
ロサンゼルスの近く
上の情報を総合すると、確かに現実世界のサンタ・バーバラ近くにも島はあり、どうやらこのコマンドーの孤島は、下図の丸で囲んだあたりに存在している、という設定のようです。- 場所:Channel Islands National Park(チャンネル・アイランズ国立公園)
- 座標:33.95167570324581, -120.0933241637766
- San Miguel Island(サン・ミゲル島)
- Santa Rosa Island(サンタ・ローザ島)
- Santa Cruz Island(サンタ・クルーズ島)
- Anacapa Island(アナカパ島)
国立公園なので、いずれも、ほぼ無人島です。一部、灯台などの施設はあるものの、基本、岩だらけで、人間の生活感はない島であることが衛星写真からも確認できます。
この島のどれか?ですが、映画の中の上陸から銃撃戦、豪邸に至る規模からして、その中の比較的大きな島の、上の3つの島のどこか・・・のようです。
尚、映画の中で、島の地図(海図)は登場しますが、その地図は架空の島の形と場所を示していました。
ビル・パクストン vs シュワちゃん(再び)
上のセリフの1つ、「君たちはサン・ミゲル射撃訓練場の飛んでいる。ここは厳重制限区域だ。」というのは、Coast GuardのIntercept Officer(湾岸警備の無線士/管制官)が、メイトリックス(シュワちゃん)が乗る水陸両用飛行艇(Grumman G-21 Goose)に対して警告を発する台詞ですが、この湾岸警備の無線士を演じているのがビル・パクストンです。ビル・パクストンといえば、映画『ターミネーター1』(1984年)にて、グリフィス天文台の展望台で、シュワちゃんT-800に衣服を奪われたパンク・グループの一員として、"Nice night for a walk, eh?"(散歩するのにいい夜だな?)と現代人で最初にターミネーターT-800(シュワちゃん)に話しかけた人物です。
つまり、ビル・パクストンは『ターミネーター』に続いて、『コマンドー』でもシュワちゃんに話し掛けるチョイ役を演じ、不思議なめぐり逢わせをしていたのでした。
→関連記事:ターミネーター出演者の故人を悼む
2.島上陸~装備装着の浜辺
米軍のレーダーをかいくぐって水陸両用飛行艇を島の近くに着水させて、ゴムボートで島にメイトリックスが上陸した場所がこちら。- San Simeon Point(サン・シミオン岬)の先端にある Donnay Pointの浜辺
- 433 Slo San Simeon Rd, San Simeon, CA 93452 U.S.A.
- 座標:35.6348919695374, -121.19442481581866
前述の島があるサンタバーバラ沖合からは、北へ遠く離れた、サン・シミオン岬で『コマンドー』の名シーンの1つ「武器装着シーン」が撮影されました。
ここでは以下のような怪奇現象が発生しています。
(1)デザートイーグルの怪
デザートイーグルは、持っていないはず
この浜辺で、メイトリックスは、本来持っていないはずのシルバーの銃デザートイーグル(Desert Eagle MK I - .357 Magnum)を装着します。なぜ「本来持っていないはず」かというと、メイトリックスは、この何が始まるんです?第三次大戦だ!の場所の銃器店 Surplus City にて、バズーカ砲などは先にシンディにカートで持ち出させましたが、その後、デザートイーグルを持って出ようとして、警察に捕まってしまったからです。
つまり、メイトリックス自身が持ち出そうとした第二弾の武器一式は、その場で没収ないし放棄せざるをえなかったはずなのですが、なぜかこの島まで持ち出すことができている・・・という怪奇現象が発生しています。
デザートイーグルのマガジンプレートが・・・
さらに、このデザートイーグルのマガジンを、メイトリックスが勢いよく押し込める際、なぜかマガジン下部のプレートが取れかかっています。このシーンの撮影中、いったい何がデザートイーグルに起きていたのでしょうか。このままだと、銃撃戦の最中、ちょっとした衝撃で、マガジンから弾がすべて落下してしまう可能性があります。
(2)グニャグニャの銃の怪
武器装着後、メイトリックスが崖を登りますが、その時、背中の銃(ショットガン・Remington 870)が、背中の動きに合わせてグニャっと曲がって揺れているのがハッキリと確認できます。明らかに撮影用のゴム銃であることがわかります。映画の冒頭の、肩にかついでいだ丸太ん棒もそうなのですが、この映画『コマンドー』でシュワちゃんが持ち上げるものは、見た目と違って、実は「撮影用に軽く作られたもの」が多く使われているのです。
「あれは嘘だ」で「放してやった」場所(コマンドー)のシーンも、持ち上げたサリーの左足首を「上から吊り上げているロープ」が映り込んでいます。抱きかかえられた瞬間から、サリーの左足首だけ、体のどの部分よりも、ずっと上に上がり続けているのはそのためです。
(3)双眼鏡の怪
続いて、崖を登ったところで双眼鏡で偵察します・・・が、浜辺の武器装着シーンで胸部にぶら下げていた双眼鏡とはまったく違う双眼鏡に変身している・・・という怪奇現象が確認できます。
最初に装着していた双眼鏡も、前述の背中のショットガン(ゴム銃)同様、ダミーの軽い双眼鏡なのかもしれません。
(4)お腹の迷彩化粧の怪
武器装着シーンで、最後の総仕上げとして、メイトリックスは顔と腕だけを黒く塗って迷彩化粧(カモフラージュメイク)を施します。この時、先にベストを着てしまったので、胸部と腹部には塗っていません。しかし、後の屋敷内での銃撃戦の最中、ベストを脱いだ時、なぜか胸やお腹まで上半身すべてに、しっかりと迷彩化粧がされている・・・という怪奇現象が発生しています。
3.たくさん爆発したが兵舎は2つだけ
アリアス元大統領の豪邸の敷地内に侵入したジョン・メイトリックスは、まず手前の兵舎を爆破させます。当時、撮影用に建てた兵舎の写真は、以下のサイト
Arnold Schwarzenegger blows up San Simeon
https://www.sanluisobispo.com/news/local/news-columns-blogs/photos-from-the-vault/article39478413.html
↓画像部分のみ
https://www.sanluisobispo.com/latest-news/75b7b9/picture38525520/alternates/FREE_1140/XOOWJ.So.76.jpg
で見ることができます。掘っ立て小屋のような建物が2つだけなのが確認できます。ロケ地は前述のサン・シミオン岬から続く以下の場所で、映画のエンディングに登場した桟橋は現在もそこにあります。
- San Simeon Pier
- 座標:
35°38'35.5"N 121°11'18.3"W
35.643203, -121.188415
たくさん建物を爆破させたように見えますが、実は撮影用に建てられた兵舎は2つ(+監視塔)だけで、同じ建物が爆発している映像を、角度を変えて撮影した映像を使いまわしてたくさん爆破したように見せています。
→詳細:映像使いまわしでコスパ最強映画「コマンドー」
その他、このシーン周辺では、
- ダミー人形
兵舎が爆発する際、建物手前で直立している兵士たちが「明らかにダミー人形」で、すぐそばで爆発したのに、何体も直立のまま微動だにしない。直立を支えるための芯棒も背中側にはっきり見えている。 - ジャンプ板
メイトリックスが投げた手りゅう弾の爆発で吹き飛ばされる兵士(スタントマン)の足元に、はっきりとジャンプ板(跳躍板)が映っている。 - 突然、現れる荷物類
メイトリックスが4穴バス―カを撃とうとする際、背後に敵軍の車両がかけつけますが、その車両の手前に、それまでなかった荷物(箱など)が突然現れる(おそらく車両を倒すために車両下に設置したジャンプ板を隠す目的のために設置)・・・
この浜でのエンディングのシーンも、水陸両用艇の背後、海の彼方に突然、大型船が出現して画面に映り込んでいる・・・という怪奇現象も発生しています。
4.アリアスの豪邸
続いてアリアスの屋敷(豪邸)の庭での銃撃戦に移っていきますが、このロケ地は、島や岬から遠く離れたロサンゼルスの中心部の高級住宅街、ビバリーヒルズにある「かなり有名な」お屋敷で撮影されていました。- Harold Lloyd Estate(Greenacres Estate)
- 1740 Green Acres Dr Beverly Hills, CA 90210 U.S.A.
- 座標:34.08829922894649, -118.42711772993367
このビバリーヒルズの豪邸は、サイレント映画時代のコメディ・アクション・スターのハロルド・ロイドによって1920年代後半に建てられ、1971年に亡くなるまで40年以上、ロイドが住んでいた家です。
当時はチャーリー・チャップリンやマリリン・モンローらも、この家を訪れて楽しんでいた様子の画像が、ネット上でも確認できます。
コメディ・アクション映画の源
ハロルド・ロイドはコメディアクションの先駆けで「三大喜劇王」とも呼ばれ、スタント無しでビルを登り、大時計からぶら下がったり・・・など、数々のアクションをこなしていました。撮影中のアクションで指を切断してしまったこともあったそうです。ハロルド・ロイドのコメディ・アクションスタイルは、その後、数々の俳優や映画に影響を与え、例えば、
- 映画『プロジェクトA』でジャッキー・チェンが時計台から落ちるシーン
- 映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で冒頭のドクの家に置いてある「ハロルド・ロイドのぶら下り時計」や、後半クライマックスでドク自身が時計台にぶら下がってしまうシーン
なども、このお屋敷の主だったハロルド・ロイドのコメディ・アクションをルーツとしたオマージュです。
『ビバリーヒルズ・コップ』のお屋敷
この豪邸の主ハロルド・ロイドがが亡くなった後は、このお屋敷はHarold Lloyd Estate(Greenacres Estate)として映画やドラマ、ミュージックビデオなどの撮影用に貸し出されるようになり、『コマンドー』の他にもエディ・マーフィー主演の『ビバリーヒルズ・コップ』(Beverly Hills Cop、1984年)で、クライマックスのラスボスの家として使われたことでも有名です。この屋敷は、『コマンドー』では主に西側の庭のほうから、『ビバリーヒルズ・コップ』では主に東側の表玄関のほうから、撮影に使われていました。
まとめ:『コマンドー』は瞬き禁止
これまでの「アリアスの孤島」のロケ地をまとめると上図のようになります。アリアスが政府転覆をねらった中南米バル・ベルデ共和国の空港も、上図サンペドロのロングピーチ空港で撮影されており、『コマンドー』はすべてカリフォルニア州内・ロサンゼルス近郊の近場でコンパクトに撮影された、コスパの良い低予算映画だったことが、ロケ地を見ればわかります。
また、名セリフ(迷セリフ)のオンパレード以外にも、上述のように映像上も、数秒単位でつっこみどころが登場するジェットコースター・ムービーで、瞬きする暇もない、瞬き厳禁な映画・・・それが『コマンドー』なのでした。
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