最近、『ターミネーター: ニュー・フェイト』(Terminator: Dark Fate、2019年)やターミネーター・シリーズに関する、ジェームズ・キャメロンのインタビューが2つほど報道されていました。
それに関して、映画サイトなどは当たり障りのないことしか報じないので、そのインタビューから分かること、予測できることを解説します。
まず、インタビューの内容は以下の通りです。(ターミネーターに関する部分を一部のみ抜粋)
ジェームズ・キャメロン談2件
1.『ニューフェイト』は老人映画になり失敗
I think what happened is I think the movie could have survived having Linda in it, I think it could have survived having Arnold in it, but when you put Linda and Arnold in it and then, you know, she’s 60 something, he’s 70 something, all of a sudden it wasn’t your Terminator movie, it wasn’t even your dad’s Terminator movie, it was your granddad’s Terminator movie.・・・So, it was just our own myopia. We kind of got a little high on our own supply, and I think that’s the lesson there.
https://deadline.com/2022/12/james-cameron-avatar-the-way-of-water-terminator-remorse-sigourney-weaver-kate-winslet-7-minute-breath-holding-swim-1235197918/
日本の各エンタメ系サイトに和訳はあるので、全文の抜粋や全文訳はしませんが、簡単に説明すると、『ターミネーター・ニューフェイト』について、
- ティム・ミラー監督はリンダ・ハミルトンの出演を要望した。
- ジェームズ・キャメロンはアーノルド・シュワルツェネッガーの出演を要望した。
- (どちらか一方の出演だけだったら『ニューフェイト』は生き残ったかもしれないけど)結果、(キャメロンがシュワルツェネッガー出演を推し)両者出演したことで、お爺ちゃん・お婆ちゃん映画になってしまい失敗した。
ということを語っています。
2.ターミネーター・シリーズは「リブート」(「ニューフェイト」消滅)
Well, the Avatar films are about the environment; I’m not dealing with AI. If I were to do another Terminator film and maybe try and to launch that franchise again, which is in discussion, but nothing has been decided, I would make it much more about the AI side of it than bad robots gone crazy."
(Smartless podcast via ThePlaylist )
https://theplaylist.net/terminator-james-cameron-says-hes-had-discussions-about-relaunching-the-franchise-directing-it-20221219/
こちらも日本の各エンタメ系サイトに和訳はあるので全文抜粋&訳は割愛しますが、ポイントは、
- アバター・シリーズではAIが描けないので、
- まったく何も決まってはいないけれど、もしまたターミネーター映画を撮るならば、
- イカれたロボットの暴走ではなく(←スカイネットやリージョンのこと)、もっとAIの側面を描いてみたい。
ということを語っています。
このインタビューから分かること
1.老化ターミネーター(お爺ちゃんT-800)は失敗
このインタビューに関して、『ターミネーター:ニュー・フェイト』(2019)でのアーノルド・シュワルツェネッガー復帰は、間違った選択だったことをDeadlineで認めた。とあるように、シュワちゃんを復帰させてしまったことが失敗である、とジェームズ・キャメロンは述べています。
https://www.cinematoday.jp/news/N0134196
この『ターミネーター:ニュー・フェイト』は、「いかに高齢のシュワちゃんを復帰させるか(いかに老化ターミネーターを存在させるか)?」から逆算してストーリーが組まれてしまったため、あのようなひどい内容になってしまいました。
シュワちゃん復帰=ターミネーター役を演じる=老化ターミネーター
にならざるを得ず、つまり、老化ターミネーター(お爺ちゃんターミネーター)は失敗だった、ということになります。
シュワちゃん出演が失敗、ということは、結局、すでに黒歴史化してしまった『ターミネーター: 新起動/ジェニシス』(Terminator Genisys、2015年)も失敗だった、ということも示唆しています。
しかし、(ジェニシスの時点ですでに不評でしたが)世間では「老化ターミネーターは無理がある(論外)。」というレビューも多く、このキャメロンの発言は「何を今さら」感は否めません。
ニューフェイトを簡単に例えると、「高齢ドライバーが免許返納せず、自動車事故を起こし、未来ある若者が亡くなり、社会の少子高齢化をさらに進めてしまい、結果、自分で自分の首も絞めたような映画」です。
脚本段階でひどさが見えていなかったという点で、今後もキャメロンが関わったとしても、ターミネーター作品には暗雲が立ち込めています。
2.ニューフェイトの続編はなし(消滅・黒歴史化決定)
- the movie could have survived(生き残っていたであろうに・・・つまり生き残れなかった・・・消滅した)
- launch that franchise again(シリーズを再び起動させる・・・リブート)
という表現からも、『ターミネーター:ニュー・フェイト』と続編は完全消滅したことが分かります。
(続編ではない)ターミネーターの新作を何か作るにしても、それは「リブート」なので、『ターミネーター:ニュー・フェイト』(Dark Fate)は失敗作として無かったこと(=黒歴史化決定)になります。
3.J.キャメロンは結局、ニューフェイトにも不満
上記インタビューでは、他にも、ジェームズ・キャメロンは、"I think, I’m actually reasonably happy with the film. "(ニューフェイトにはある程度、満足していると思う。)とは言っているものの、本当に満足しているのなら「ニューフェイトの続編」を作るはずですが、「リブート」と言っています。つまり、ジェームズ・キャメロンの本音では、ニューフェイトの内容には満足していないことが分かります。
「満足」という発言は、ニューフェイトを手掛けたティム・ミラー監督や出演者への配慮、もしくはニューフェイトが大失敗したことへのキャメロン自身の強がり、と見られます。
4.ターミネーター新作は白紙(そうとう先の話)
ターミネーターのリブートについても、具体的に何か決まっているわけではなく、白紙の状態。ニューフェイト製作当時から、ジェームズ・キャメロンは「A.I.を描きたい」と言っていましたが、その「なんとなくの構想」があるだけです。アバター・シリーズが、アバター3(2024)、 アバター4(2026)、 アバター5(2028)・・・と予定されており、『アバター4』以降は監督を譲る可能性もあるそうですが、製作総指揮などとして携わる可能性はあるので、そうなると、ターミネーターの新作に取り掛かるにしても、そうとう先の話になることがわかります。
「ターミネーターの商標権利」も移管されたので、ニューフェイトのように中国企業にせかされて無理にターミネーター映画を作る必要もないのが現状です。
詳細
早くても2030年前後になるのかもしれませんが、その時に(すでに現時点で今さら感がある)A.I.ネタが世間に受けるのかは疑問が残ります。
どうやらJ.キャメロンは「スカイネットのような暴挙的なA.I.ではなく、人間に歩み寄るA.I.を描きたい」ようですが、すでにターミネーター作品においては、そのようなA.I.ネタはすでに作品化されているので、
→詳細:ジョン・ヘンリーとは(A.I.とシンギュラリティ2.0)
そのあたりをいかにジェームズ・キャメロンが「勉強」しているかが鍵になります。
しかし、どうも他のターミネーター作品の焼き直しのような「ニューフェイト」やこれらインタビューを見る限り、キャメロンは勉強してなさそうなので、未来のターミネーター・リブート作品も、あまり期待できないでしょう。
ジェームズ・キャメロン自身が「斬新だ!」と思っていることも、世間では「新鮮味がまったくない、既視感あふれること」であったりする・・・というギャップが、ターミネーター作品では生じており、それもジェニシスやニューフェイトがコケた原因の1つです。
4.根本的な失敗原因がわかっておらず、重症
確かに、老化ターミネーターは、ジェニシスやニューフェイトが失敗した要因の「1つ」ではありますが、これだけ大失敗に終わるというのは、原因は多々あるということを示唆しています。実際、さらに致命的な要因は他にもあり、そのことをJ.キャメロンが認識していない(もしくは触れようとはしない)ことは、重症です。
深刻な失敗原因その1「ジョン・コナー」
『ターミネーター:ニュー・フェイト』の大失敗の原因の中でも大きな部分を占めるのが、やはりジョン・コナーの扱い方の失策です。これはティム・ミラー監督にも重大な責任があります。ジョン・コナーを生かすにしても消すにしても、もう少し大切に扱うべきでした。1つの重要なキャラクターをぞんざいに扱ってしまうと、ターミネーター作品に登場する全キャラクターが軽くなってしまうのです。
あとはいかに「ジョンのために」など、「お涙頂戴のセリフ」を乱発して感動を誘おうとしても、全キャラクターが薄っぺらい存在になり、映画全体の雰囲気も殺伐で冷たく、観客の心に響かないのです。人間が軽くなると、さらにはその対照である機械側も薄っぺらくなり、ターミネーター映画全体の構成が崩壊しました。
『ターミネーター:ニュー・フェイト』の大失策によって、ターミネーター・フランチャイズは、そのオリジナリティとアイデンティティを失ってしまったと言えるでしょう。
ターミネーター全作品を鑑みるに、結局、『ターミネーター2』(T2)がなぜあれほどヒットし、名作となり得たのか?というと、
- ジョン・コナーという存在
- そのジョン・コナーをエドワード・ファーロングが演じたこと
の2つの要素が、ジェームズ・キャメロンが認識しているよりも遥かに大きく、この要素がT2ヒットの40%以上を占めていたであろうことが、ターミネーター7作品が出そろった今、はっきりと見えてきました。
→詳細:ターミネーターでT2限定のヒット要素とは
これを挽回するには、そのジョン・コナーの部分をどう補正するか、いかにうまく『ターミネーター:ニュー・フェイト』が無かったことにするか、が求められるのですが、『ニュー・フェイト』がやらかしてしまった傷があまりに深刻で致命的すぎるため、ジェームズ・キャメロンであっても、もう修復はほぼ不可能でしょう。
歴代のジェームズ・キャメロンのインタビューを確認しても、J.キャメロンはジョン・コナー(エドワード・ファーロング)のことにあまり触れようとはしません。どうもジョン・コナーというキャラクターの存在が、自分が想定していたよりも巨大化し過ぎて、嫉妬ないしトラウマのような感情を持っているようにさえ見受けられます。
深刻な失敗原因その2「中国市場主義」
もう1つ、『ターミネーター:ニュー・フェイト』の大失敗の原因の中で、かなり大きな部分を占めるのが、中国市場主義です。中国(CHINA)で映画を公開してもらうには、中国の検閲に則した作品にする必要があります。中国の検閲は、民主主義国家のものとはまったく異なり、中国共産党本意の、かなり特殊なものです。
中国の検閲に沿ってしまうと、本来、クリエイターが表現したかった、自由で民主的で前衛的な内容は許されず、丸く削られた、面白みも刺激もない、どれも似たような内容になってしまいます。
これは中国でも公開された『アバター2:ウェイ・オブ・ウォーター』(中国題『阿凡達:水之道』)にも言えることですが、結局、アバター2も、内容がまったくありません。映像のみです。ほとんどのレビューが、他に褒めるところがないのか、「映像がすごい」だけの感想で終わってしまっています。
なぜ内容がないのか?というと、それは「中国で公開してもらう」ために、中国の検閲に沿うように作られているからです。
中国市場を第一目的で作られた、『ターミネーター・ジェニシス』も『ターミネーター:ニュー・フェイト』の内容が、既視感あふれ、いまいち期待に応えるものではなかった原因の1つがここにあります。
→詳細:ターミネーター映画大失敗の致命的な原因
逆に言うと、「中国で公開される映画はおもしろくない」可能性が高いので、「中国公開の可否」は、おもしろい映画を事前に見定めるポイントの1つとして有効です。
このインタビューから予測できること(まとめ)
以上のことから、予測できることは以下の2点です。- 老化ターミネーター(お爺ちゃんターミネーター)はもう登場することはない
- ターミネーターと名の付く新作は、遠い将来、作られる可能性はあるが、それも失敗する(コケる)可能性が高い。
さらに、以下の2つの要素が加わると、その失敗は、さらに確定的になります。
- ジェームズ・キャメロンが「監督」と「脚本」の両方を担当することなく、また「製作総指揮」程度にしか関わらない。
- 中国市場目的(中国で公開してもらうこと)を予定している。
なかったことにはならない
ジェームズ・キャメロンは、『ターミネーター・ジェニシス』の宣伝でも、「ジェニシスこそターミネーター3だ」と発言し、失敗していました。人々(観客)の記憶や心は、そう簡単には「無かったこと」にはできないものです。
結局、『ターミネーター・ジェニシス』の失敗は『ターミネーター:ニュー・フェイト』の失敗にも影響を与えており、さらに『ターミネーター:ニュー・フェイト』の深刻な失敗は、次の新作にも大きな影響を与えることになります。ジェームズ・キャメロンが思っているほど人々の心は、そう簡単にはコントロールできないでしょう。
ジェームズ・キャメロン映画といえば、以前からポリコレではありましたが、ただ以前は、例えば反戦映画であってもそう感じさせない、好戦派も楽しめる絶妙なバランスで作られていたところに、神がかり的なジェームズ・キャメロン映画の真骨頂がありました。
→詳細:接近戦にはこれが一番だ【エイリアン2】の意味
しかし最近は、『ターミネーター:ニュー・フェイト』しかり、『アバター2:ウェイ・オブ・ウォーター』しかり、妙に説教がましく、趣向のバランスが崩れ、ジェームズ・キャメロンもピークアウトしてしまった印象を受けます。アバター・シリーズも果たして5まで作る必要があるのか、5まで持つのか?・・・4から監督を譲るというのは、4以降はコケると認識しているから?とも推察できます。
ターミネーター・シリーズについては、「作らない」という美学、「作らない」という選択肢を選ぶのも一手かもしれません。