映画『ターミネーター4』(Terminator Salvation、T4、2009年)にはいろいろなエンディングが考えられていたようです。
T4のマックG監督自身がブルーレイの特典映像にて解説しているので「知る人ぞ知る」お話ですが、主に3つのエンディングを紹介します。
1.劇場公開版
これは劇場で公開され、DVD/BDに収録されている版なので、世間一般でT4のエンディングとして認識されているものです。- マーカス(サム・ワーシントン)はジョン・コナー(クリスチャン・ベール)に心臓を譲るために、麻酔で眠りにつき、画面はマーカスの顔がぼやけていきます。
- そしてぼやけた画面はジョン・コナー(クリスチャン・ベール)の顔に切り替わります。ジョン・コナーはヘリコプターで運ばれています。
- そして以下のようなジョン・コナーのナレーションが入って終わるバージョンです。
There is a storm on the horizon. A time of hardship and pain. This battle has been won, but the war against the machines races on. Skynet's global network remains strong, but we will not quit, until all of it is destroyed. This is John Connor. There is no fate, but what we make.
地平線には嵐がある。(嵐とは)苦難と苦痛を伴う時だ。今回の戦いでは勝ったが、マシーンとの戦いはまだまだ続く。スカイネットのグローバル・ネットワークは強固だ。しかし我々はそのすべてを破壊するまであきらめない。こちらはジョン・コナー。運命は定まっていない、自ら切り開くものだ。
「嵐」「No Fate」オマージュてんこ盛り
ちなみに"There is a storm on the horizon. "とは、「ターミネーター1」でのエンディングの名言 "There's a storm coming."(嵐がやってくる)へのオマージュです。また、" There is no fate, but what we make."も「ターミネーター1」と「ターミネーター2」で登場した名言(カイル・リースがジョンコナーからの伝言としてサラ・コナーへ伝えたセリフ)へのオマージュで、まった同じセリフとなっています。
2.あの人登場版
次に、上記1の劇場公開版に追加映像があり、あの人が登場するバージョンも存在していました。- マーカス(サム・ワーシントン)はジョン・コナー(クリスチャン・ベール)に心臓を譲るために、麻酔で眠りにつき、画面はマーカスの顔がぼやけていきます。
- 次に画面はマーカスの遺体をスコップで地中に埋めているカイル・リースの映像に切り替わります。
- 遺体埋葬に疲れたカイル・リースはふと腕を止め、(ジョン・コナーから譲り受けた)ジャケットの右ポケットに手を入れ、何かが入っていることに気づきます。
- そのポケットから取り出したものは、サラ・コナー(リンダ・ハミルトン)の写真でした。
- その後、画面はヘリコプターで運ばれていくジョン・コナーに切り替わり、上述の劇場公開版と同じ"There is a storm・・・No Fate・・・"のナレーションが入って映画は終わります。
このシーンは正式に撮影され映像は実在するものの、劇場公開版ではカットされました。
サラ・コナー(リンダ・ハミルトン)の写真がカットされた理由
カットされた理由は、おそらく「マーカスの顔」→「ジョン・コナーの顔」に直接画面が切り替わることで、マーカスの魂(心臓)がしっかりとジョン・コナー(人類)に引き継がれたことを製作者は強調したかったのでしょう。T4のテーマ「人間の心」
この心臓移植直前のシーンに、このT4の主題である「ハート」(人間の心・・・人間が機械と違う点)に関わる重要なセリフがあります。Everybody deserves a second chance., this is mine.
What is it that makes us human? It's not something you can program. You can't put it into a chip. It's the strength of the human heart. The difference between us and machines.
誰にも2度目のチャンスはある(2度目のチャンスを…俺にもくれ)。
人間を人間たらしめるものは何だ?それはプログラムできるものではない。チップに入れることはできない。それは人間の心の強さだ。それが人間とマシーンとの違いだ。
だからマーカスは「心臓」のまま
Human Heart - VULNERABILITY
(人間の心臓 - 脆弱性)
(人間の心臓 - 脆弱性)
マーカス・ライトの動力源が、わざわざ人間の心臓のままという設定になっているのは、このT4のテーマ「人間のハート」の伏線(前フリ)となっています。
マシーン(T-800)は"Human Heart - VULNERABILITY"(人間の心臓は脆弱だ)とスキャンしますが、「人間の心には機械にはスキャンできない魂があり、それは脈々と引き継がれていく人類の強さであり、マシーンには壊せないものである」というのがT4のテーマです。
サラ・コナーの写真のシーンがここに割り込んでしまうと、この「ハート」の部分がブレてしまうのでカットしたものと思われます。
3.ダーク・フェイト(暗黒)版
上記の2つの版とはまったくかけ離れた、ダーク(暗黒)バージョンのエンディングも当初は考えられていました。しかしこれはあまりに酷く、支離滅裂で絵コンテ段階でボツ案となり、撮影されることはありませんでした。この案のひどさは、大失敗に終わった「ターミネーター・ダークフェイト(ニューフェイト)」や「ターミネーター・ジェニシス」に通じるものがあります。
このボツ・エンディングの流れは以下の通りです。
- 心臓に致命傷を負ったジョン・コナーは死亡します。
- 人類のカリスマ的リーダーを失ってしまっては(ヒューマンレジスタンス統率上)ヤバい。
- だからマーカスの顔にジョン・コナーの顔を移植し影武者を立てようとした(映画「フェイス・オフ」の顔面移植と同じようなイメージ)
- 手術成功後、起き上がった「ジョン・コナー顔のマーカス」は突然、銃を乱射し、ケイトやカイル・リース他、人類抵抗軍の主要メンバーをすべてターミネートしてしまう
- 最後、ジョン・コナー顔のマーカスの目が赤く光って(ターミネーター・アイで)終わり・・・
つまり、それまでのマーカスの行為はすべてスカイネットにプログラムされたもので、ジョン・コナー他、人類抵抗軍の主要メンバーをすべて消すために潜入し、任務を遂行した、という意味のエンディング
・・・と、何ともノイローゼ気味な、作品として何を成し遂げたいのか?意図不明なエンディングも、初期の段階では検討されていた模様です。
T4は回避したが「ニューフェイト」が犯した過ち
しかしこの暗黒エンディングは早々に却下されて成功でした。この路線でいっていたら、T4はさらなる大コケ、大不評に終わっていたでしょう。現状、ロッテントマトでのターミネーター作品の最低評価はジェニシスですが(→参照:ロッテントマト評価順【ターミネーター全作品】)、間違いなくそのジェニシスをはるかに下回る成績に終わっていたはずです。こうしたダークなネタは、実力のない脚本家がネタ切れの時に安易に思いつく短絡的なアイデアで、お騒がせYoutuberがアクセスを集めるために必死に迷惑行為をおこなってしまうのと同じようなものです。
これと同じ系統のダークサイドに陥って大失敗してしまったのが「ターミネーター・ニューフェイト」(原題:Dark Fate)です。ニューフェイトは寄せ集めの脚本家らと経験が浅い新米監督が、株主中国企業の利益のために、無理に創り出してしまった蛇足品でした。尚、ニューフェイトはジェームズ・キャメロンは脚本も監督も担当していません。現場にもいっっさい足を運んでいません。「これは君の作品だ。」とティム・ミラー監督に丸投げしています。
→詳細:ターミネーター映画大失敗の致命的な原因
T4のベストなエンディングは?
あくまで結果論になってしまいますが、T4の持ち合わせの材料で作れるベストなエンディングは、上記1と2のミックスバージョンだったと考えられます。例えばこんな感じです。
- 一旦、上記1のバージョン(劇場公開版)の通り、ジョン・コナーのナレーションで本編は終わり、エンドロールが流れる。
(これにより、しっかりとマーカスの「ハート(魂・心臓)」はジョン・コナー翻って人類に引き継がれたことを強調できる。)
-------ここまで劇業公開版の通り------- - エンドロールが流れた後、2のシーンが流される。
(マーカスを埋葬しているカイル・リースがジョンコナーからもらったジャケットの中から、サラ・コナーの写真を発見する)
エンドロールが終わってから重要なシーンが流れる手法は、スピルバーグ製作総指揮の映画『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』(Young Sherlock Holmes /1985年)などでも見られます。
サラ・コナーの「顔」の効果
T4にはサラコナー(リンダ・ハミルトン)の写真は、絶対に出すべきでした。理由1:「お墨付き」による正統感
なぜなら、「ターミネーター・ニューフェイト」のレビューを見ると、結局、評価は「リンダ・ハミルトンが出ていた」の1点しかほぼないからです。ニューフェイト評価者は、単にリンダ・ハミルトンが出ているという「お墨付き」だけで評価している短絡的な人が結構いるためです。
T4にはリンダ・ハミルトンは正式に出演しており、劇場公開版でもサラコナーの音声テープを聴くシーンで、T4用に録り直されたリンダ・ハミルトン自身の「肉声」は登場しています。しかし、聴覚による認識だけだと観客への訴求効果が薄いので、リンダ・ハミルトンの「顔」もしっかりと観客に見せて、視覚でもアピールするべきでした。
これによって、T4の「T1、T2からの正統性」も感じさせることができるからです。
理由2:「つながり」の演出
さらに、T4が失敗した原因の1つに「時空を超えたつながり感」や「親子間のつながり感」がなかったこと・・・が挙げられます。T4は唯一、ターミネーター名物のタイムトラベルシーンがないターミネーター作品で、「過去(現代)でどうすれば未来はどうなる」「未来を変えるために過去に送られた使者」などターミネーター作品の特徴がT4には見られず、観客は「単品の映画としてはおもしろいけど、これはターミネーターではない。」との感想を漏らす人が多々見られました。
サラ・コナーの写真を登場させることで、T4に欠けていたその過去・現在・未来との時空の「つながり」、ヒューマニズムの「つながり」部分を少し改善させることができます。
T4は当初、
- 2009年:T4(ターミネーター・サルベーション)
- 2011年:T5(サルベーションの続編)
- 2013年:T6(サルベーションの続々編)
と2年毎の計三部作で予定されていたため、二作目以降に持ちこそうと、悠長に構え過ぎていた様子がうかがえます。T4サルベーションの続編では、T2のロバート・パトリックが出演し、「なぜ液体金属T-1000がロバート・パトリック顔になったのか?」が明かされる構想になっていました。また、「ジョン・コナーが2011年の現代(東京・渋谷の交差点)にタイムトラベルで出現する、とマックG監督が明かしていました。
→詳細:ターミネーター4の審判の日は2011年(T3と矛盾)
ジェニシスも三部作構想で失敗しました。ニューフェイトも三部作構想で失敗しました。
最初の1作にすべて詰め込むぐらいの気合とネタ量で作りこまなければ、ターミネーター作品は成功しないようです。
T4は中国媚びの今となっては作れない貴重な作品
とはいうものの、T4は、ターミネーター・シリーズが2010年代に入って「中国媚び」の腰抜け映画になってしまう以前に作られた、ターミネーター作品として「骨」と「魂」が入った、今となっては見ることができない貴重な作品です。ジェニシスやニューフェイトでは、それが完全に失われてしまいました。
→詳細:ターミネーター映画大失敗の致命的な原因
特にT4で頻出の、ジョン・コナーが人民蜂起を呼びかけるシーンは、中国では完全にご法度です。
T4は、ターミネーター映画がターミネーターたらしめる、「体制への反発」「歴史の改変(No Fate)」「スカイネットという名称の使用」「ハードな描写(グロ)」など・・・「どこかの国の検閲に忖度することなく、作り手が作りたいものを自由に表現する」という当たり前のことが当たり前に見れる、「心(魂)」が入った、最後のターミネーター作品となりました。