CGを効果的に使って大ヒットした映画に「ターミネーター2」があります。今もこの液体金属のターミネーターT-1000を超える衝撃的なターミネーターは登場していません。
その後も、映画におけるCG(VFX)の技術の進歩は著しく、亡くなった俳優の顔や、俳優の若かりし頃の顔まで精密に再現できるようになっています。
例えば、スターウォーズ・シリーズにおける、若かりし頃のレイア姫やルーク・スカイウォーカー、グランド・モフ・ターキンの顔の再現など(但し、まだ限界があり、長時間再現は無理で、部分的であるのが現実です)。
そんな驚くべきCG(VFX)技術ですが、使い方を誤ると、逆にCG(VFX)技術が大失敗(大コケ)をもたらすことがあります。
その典型的な例が、「すごいCGでひどい結果をもたらした」以下のターミネーター2作品です。
1.精巧なCG(VFX)で失敗した映画「ターミネーター・ジェニシス」
「シュワちゃんの30年前の顔を精巧に復元」が仇に
映画『ターミネーター: 新起動/ジェニシス』(Terminator Genisys、2015年)は、アーノルド・シュワルツェネッガーの1984年当時の顔をCGで精巧に復元し、「旧シュワちゃん 対 新シュワちゃん対決」を実現しました。これがこの映画の最大の目玉といっても過言ではありません。このシュワちゃんの30年前の顔を復元したCG(VFX)技術はとてもすばらしいものがありました。
しかしその完成度の高いCG(VFX)技術が逆に落とし穴となり、『ターミネーター: 新起動/ジェニシス』の不評&大失敗につながりました。ジェニシス発の三部作は頓挫し、ジェニシスの続編が作られることはありません。
→詳細:ターミネーター・ジェニシスの続編は絶対ない理由
CG(VFX)は人々から想像力と寛容力を奪う
このジェニシスの大失敗の要因の1つが、1984年当時のシュワちゃんの顔のCGでの精巧な復元でした。シュワちゃんの顔を精巧に復元してしまったばかりに、それ以外のキャラクター(役者)の顔やイメージの違いを際立たせ、違和感を増幅させ、それがストーリーの理解をも妨げてしまったのです。
例えば、なぜか液体金属T-1000はロバート・パトリックを再現しないでイ・ビョンホンが演じてしまったばかりに、この「T-1000がいったい何だったのか?」そして「シュワちゃんT-800は誰が送ったのか?」を見失った(理解しそこねた)観客が大半を占めてしまいました。
→この答えはこちら:【解説】ターミネーター・ジェニシスの時間軸と疑問解決
結果として、ジェニシスの半分も楽しめた人はいなかったことになります。
さらに、シュワちゃんの顔を精巧に再現してしまったばかりに、
- グリフィス天文台にいたチンピラ3人組の顔の違い
- カイル・リース役、ジョン・コナー役の顔やイメージの違い
に相当な違和感を感じてしまった人が続出しました。「なんかオリジナルと全然違う。」という感覚を得てしまったことは、致命的でした。
このことからも、CG(VFX)は人々から想像力と寛容力を奪うことが判明しました。
1つのキャラクターをCGで再現したのなら、他のキャラクターも同様に精巧に再現しないと、ちょっとしたオリジナルとの違いが逆に際立ってしまい逆効果。観客の違和感が倍増し、贋物を見たかのような失望につながる・・・結果として、失敗に至る・・・というのが「ターミネーター・ジェニシス」でした。
CG(VFX)に注力しすぎて「20分間映画」に
先にCG(VFX)による「新旧シュワちゃん対決」が「この映画の最大の目玉」と書きましたが、文字通り、この「ターミネーター・ジェニシス」はほとんどそれだけで終わってしまいました。製作者がCG(VFX)に注力しすぎたのです。
「新旧シュワちゃんが対決すれば、絶対におもしろい、ヒットするだろう!」と、そこに労力とお金の大部分が注がれ、映画が前のめりになってしまいました。
結果、それ以降のストーリー、演出等々がおざなりになってしまいました。
そのため、この「ターミネーター・ジェニシス」は"20 Minutes Movie."(20分間映画)と揶揄されています。「最初の20分間しか見所がない映画」という意味です。
後半になるほど、ダラダラ感や矛盾が噴出し、また、一般レベルのファンの方は、時空の迷宮に入り込んで、ストーリーが途中でわけわからなくなってしまった人が続出してしまいました。その証拠に、ジェニシスに関しては、「シュワちゃんT-800ポップスは誰が送ったのか?」というこの映画をまったく理解できていないことを証明する質問がやたらネット上に氾濫することになりました。
→関連記事:【解説】ターミネーター・ジェニシスの時間軸と疑問解決
2.たった10秒のCG(VFX)が映画全体を破壊した「ターミネーター・ニューフェイト」
CG(VFX)の火遊びで大火傷を負ったニューフェイト
映画『ターミネーター: ニュー・フェイト』(Terminator: Dark Fate、2019年)の大コケ爆死(大赤字)の大失敗は、CG(VFX)の火遊びが決定づけたと言っても過言ではありません。CG(VFX)の火遊びとは、もちろん、この映画の冒頭のジョン・コナーのシーンです。
CG(VFX)技術が無ければ、このようなひどいシーンはまず撮らなかったであろう、ということが悔やまれます。
そして「現代のCG(VFX)技術の限界」も、この大失敗シーンを作りだしてしまったと言えます。
「現代のCG(VFX)技術の限界」とは、この「ニューフェイト」のメイキングでもCGクリエイター(VFX担当者)が解説していますが、人の顔・・・特に特定の俳優の若い頃の顔を精巧に再現するのは、観客も実在するその俳優の生身の表情を比較対象として知っているため、かなり再現が厳しいとのこと。
特に現在の技術であっても、CGの顔にしゃべらせると必ず不自然な感じのボロが出てしまうので、現在のCG(VFX)技術ではまだ長いセリフを話させる(=口を自然な形で動かし続ける)のは無理である、とのことです。
そのため、
- ニューフェイトにおいてもジョン・コナーは一言もしゃべりません。
- ジェニシスで再現された若いシュワちゃんT-800も、一言二言程度を、無表情で発しただけです。
- 『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(Rogue One: A Star Wars Story)でも復元されたレイア姫は「Hope.(ホープ/希望)」の一言しか発しません。
それほど周知の生身の人間の顔をCG(VFX)で復元させて、長時間出して長いセリフを吐かせる、というのは、現在のCG(VFX)技術でも相当困難、とのことです。
そのため、『ターミネーター: ニュー・フェイト』でも、あのような たった数秒のシーンで片づけられてしまったのです。
もっとCG(VFX)技術が発達していたら、また違うジョン・コナーが存在していたはずなのですが、拙速でした。
重要キャラクターを、軽く扱ってしまうと、それ以外のすべてのキャラクターも、軽くどうでもいい存在になってしまう、という副作用を生みます。
CG復元キャラはマイナスに使うと大失敗につながる
技術面だけでなく、「ニューフェイト」はその使い方も間違っていました。CG(VFX)での役者の昔の顔の復元、というのは、「懐古」ファンの需要の掘り起こし効果もねらっていますが、その昔懐かしいキャラクターを殺すような、キャラクターをマイナスに扱う用途に使ってしまうと、「懐古」者の嫌悪感と猛反発をくらうことになります。
ターミネーター・シリーズは、サラ・コナーという基軸が、未来でのジョン・コナーと作用しながら両輪となって成り立っている作品なので、その軸の1つを短絡的にぶっ壊して、「はい、次はこの人でーす!」と唐突に代替品を提供されても、観客は興冷めするだけです。ターミネーター作品の主要キャラクターの消滅は、「ターミネーターでなければならない理由」の消滅をも意味しているからです。
「ニューフェイト」に「温かみ」がまったく感じられないのは、こうしたCG(VFX)の間違った使い方でキャラクターをぞんざいに扱ってしまったことも影響しています。
「ニューフェイト」は経験が浅い新米監督によるCG(VFX)の火遊びで大火傷を負って、それが致命傷になって爆死してしまった映画、と言えます。
→詳細:作る前から失敗していた「ターミネーター・ニューフェイト」
たった10秒程度のCG(VFX)シーンによって、映画全体が破壊され、大失敗に終わってしまうこともある という悲惨な失敗事例として、「ターミネーター・ニューフェイト」は後世に語り継がれていくことでしょう。
→関連記事:ターミネーター:ニュー・フェイト続編中止の理由
以上、CGという技術は、使い方次第では、大ヒットにも大コケ爆死にもつながる「諸刃の剣」であるということが、ターミネーター・シリーズからも学ぶことができます。