作る前から失敗していた「ターミネーター・ニューフェイト」

ターミネーター

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ターミネーター:ニュー・フェイトの失敗

ひどい内容で大コケし大失敗に終わった『ターミネーター:ニュー・フェイト』(Terminator: Dark Fate)は、単にターミネーター作品史上最大の失敗に終わっただけでなく、むしろファンからの怒りも買ったリコール相当の作品でした。

少々の酷い内容ならこれだけ大コケはしませんが、これだけ大コケしたということは、それなりの深刻な理由が複数ある、ということになります。

その原因の1つが以下のターミネーター映画大失敗の致命的な原因です。↓

「ハリウッドの失われた10年」を象徴するような醜い点の集大成映画と言えます。

しかし この『ターミネーター:ニュー・フェイト』、内容以前に、作る前から失敗していたことが製作過程を遡っていくとわかります。

「ニューフェイト」の失敗はここから始まった

ターミネーター・ニューフェイトがどのような経過で作り始められたかが分かる記事があります。

エリソンは、ミラーに、「『ターミネーター』をまた作りたいのだが、興味はあるか」と聞いてきたのである。
「デビッドは、(シリーズ5作目)『ターミネーター:新起動/ジェニシス』は、自分の作りたかったような映画にならなかったと言った。だから、また挑戦したいのだと。その段階で、ジム(ジェームズ・キャメロン)がかかわる話は出ていなかったが、僕はファンの立場から、どんな映画ならば興奮を覚えるだろうかと考え、『ジムに戻ってきてもらうのはどうだろう』と提案したんだよ。彼がやるならば、また『ターミネーター』を作る確固とした理由ができるしね。」
https://news.yahoo.co.jp/byline/saruwatariyuki/20191127-00152578/

ちなみに上記、
  • エリソンというのは、ターミネーター商標権利を持っているアンナプルナ社/スカイダンス社の人物
  • ミラーとは「ニューフェイト」「デッドプール」のティム・ミラー監督
のことです。

とにかく「ジェームズ・キャメロン」さえ関われば

上の記事を見てもわかるように、作りたいストーリー案(物語として必然性)などまるで無し。とにかく、

  • 「ジェームズ・キャメロン」さえ関われば、
  • 「ジェームズ・キャメロン」の名前さえ加われば、

という短絡的な発想で、ニューフェイトの企画がスタートしていったことがうかがえます。

実際、「ターミネーター・ジェニシス」も、

  • とにかくアーノルド・シュワルツェネッガーさえ復帰すれば、
  • とにかく「ジェームズ・キャメロンからのお墨付きさえあれば」

という感じで作られたことが見え見えで、特に「ジェームズ・キャメロンの発言(インタビュー)」を前面押しして、ジェニシスの宣伝をおこなっていたのは大ヒンシュクを買いました。
→詳細:「ジェニシスこそがターミネーター3だ」ジェームス・キャメロン語録

「ジェニシスこそがターミネーターの3作品目だ」と言ったのに、今度は「ニューフェイト」が「正統な続編」とする完全矛盾と調子よすぎる宣伝は、普通の感覚を持った人間からすれば「なんじゃそりゃ!?」とならざるをえず、「ニューフェイト」の位置づけからしてもグダグダでした。

ティム・ミラー監督という人選ミス

ティム・ミラーに監督を依頼するという痛恨の人選ミスも初期の段階で発生していたことがわかります。ティム・ミラーは経験が浅く、まだ「デッドプール」しか監督したことがありません。以下のような、

ティム・ミラー監督作品の特徴

  • 全体的にアメコミ調で稚拙
  • ジャンプして空中で回転しながら銃を撃つ
  • それらアクションをスローモーションで見せ「どやっ、かっこええやろ!」の押しつけ
  • つまらない不要な会話が多い
  • 屈折したキャラクター描写(ヒューマニズムを描くのが下手くそ)
が、ニューフェイトのあちこちに現れていました。

要は1999年の映画「マトリックス」時代から成長していないようなアクション描写と、「ポテトチップス」がどーたらこーたら、とか「オレの全身が武器だ。」とか「その娘をよこせ。」とか、不必要で滑った会話のオンパレードで、観ている途中でイライラしてきます。

もし「ターミネーター2」の液体金属T-1000が、このようなセリフをベラベラ吐いていたら「ターミネーター2」もコケていたでしょう。

ティム・ミラーという監督のこの趣向が、ターミネーターという作品にはまったく合っていないので、「ニューフェイト」がターミネーター史上最大の赤字率の大失敗に終わったのは至極当然の結果です。もちろんティムミラーはターミネーター作品を二度と監督することはありません。無責任な作品の作り逃げ状態です。

「ターミネーター・ニューフェイト」には、どこにもジェームズキャメロンらしさは感じられず、まったく「ジェームズキャメロン作品」ではありませんでした。

ジェームズ・キャメロンはノータッチ

実際、以下の記事引用の通り、ジェームズ・キャメロンはニューフェイトの撮影現場にはまったく関わっていません。監督はもちろん、脚本も担当していません。

始動するにあたり、キャメロンは、監督であるミラーに、「撮影するのは君。これは、君の映画だ」と言ったという。
キャメロンは、撮影現場に来ることもなければ、編集作業中に顔を出すこともしなかった。
実際のところ、プロデューサーとしてキャメロンは『ニュー・フェイト』の撮影現場を一度も訪れていなかったとのこと。
『ターミネーター:ニュー・フェイト』の撮影期間中、『アバター』続編のモーションキャプチャー作業にあたっていたキャメロンは、プロデューサーでありながら、本作の撮影現場を一度も訪れていない。
→詳細:正統な続編の根拠は薄い【ターミネーター・ニューフェイト】

なぜこんなに焦っていたのか?

なぜターミネーター権利保持者は「ターミネーター・ジェニシス」で失敗したにもかかわらず、こんなにも別のターミネーター映画作りを急いでいたのかというと、こちらのターミネーター【2019年問題】(脚本家の35年ルール)があったからです。

  1. 「ターミネーター4サルベーション」のあと、ターミネーター権利が放出され、
  2. エリソン兄弟のアンナプルナ社(スカイダンス社)がターミネーター権利を高額購入し、
  3. 高額で買った元を取るために、2015年から2019年までの間にターミネーター作品を2年毎の計3作(ジェニシス発の3部作)を作り儲ける予定だった
  4. しかし、ジェニシスが失敗し、ジェニシス発の三部作が頓挫
  5. 2018年にスカイダンス社が中国企業「腾讯影业」(テンセント・ピクチャーズ)に買われてしまい
  6. 期限が迫る2019年までに、何でもいいから一本でもターミネーター映画を作って金儲けしたい(買った権利の元を取りたい)、

ということで、中国企業が無理やり作らせたのが『ターミネーター:ニュー・フェイト』(Terminator: Dark Fate)です。

株主が中国企業である『ニューフェイト』は実質、"A US Company with a Chinese Heart"(アメリカの顔をした中国企業)が作ったアメリカ映画の顔をした中国映画だった、ということです。そのため、Rev-9も中華仕様となっています。
→詳細:Rev-9はなぜ弱いのか【ターミネーター:ニュー・フェイト】

その結果、「質より量」で、ターミネーター1と2を台無しにするような内容の映画ができてしまい、正統な続編どころか、むしろ「作らなかったほうがよかったのでは?」「なかったことにしたほうがいいのでは?」とささやかれるような、ターミネーター・フランチャイズはヒドイ状態になってしまいました。

ちなみに、『ニューフェイト』の大失敗の後、前述のターミネーター【2019年問題】(脚本家の35年ルール)が行使され、ようやくターミネーター権利は『ジェニシス』『ニューフェイト』の悪しき失敗作品を作り出した権利者の元から解放されました。
→関連記事:ターミネーター新作の鍵を握るゲイル・アン・ハード

ターミネーター映画がヒットするには?

「ニューフェイト」のような作品を世に出してしまった以上、今後はターミネーター作品でヒット作を出すことは無理でしょう。リコールで「ニューフェイト」の配信中止、すべてのDVDやBlu-rayの回収もしたほうがいいのでは?とも感じさせるレベルです。

万が一、「ニューフェイト」の続編を作ったら、さらなる赤字の深堀りは必須です。何か作るにしても大幅な軌道修正が必要で、実質、リブートとならざるをえないでしょう。
→関連記事:ターミネーター:ニュー・フェイト続編中止の理由

もうターミネーターでヒット作は無理ですが、今後、ターミネーター映画で多少なりとも「まともな」な続編ができる可能性があるとしたら、
(権利会社や製作会社ベースで作り始めるのではなく、)

  • ジェームズ・キャメロン自身が心の底から「これだ!」と直感&確信した企画を自身で持ち込み、
  • ジェームズ・キャメロン自身が脚本と監督を担当する
  • 中国市場第一主義・中国検閲からの脱却(前衛的な「表現の自由」の遵守)
  • 「ニューフェイト」や「ジェニシス」を少しでも「良い」と感じた人は製作に携わらないこと(そのようなセンスなき人物が製作に携われば、また駄作が作られること必須です)

という要素がすべて重なった時です。

ファンが期待しているジェームズ・キャメロン・クオリティーというのは、ジェームズ・キャメロンが脚本を書き現場でカメラをまわして、ジェームズ・キャメロン自身が監督として現場で役者に細かい指示を出して初めて成立します。製作総指揮ではジェームズ・キャメロン色は全く出ません。その証拠に、ジェームズ・キャメロンが「製作総指揮」した映画にヒット作はありません。「監督」することで初めてジェームズ・キャメロンの特色が出てきます。

しかし、当のジェームズ・キャメロン自身が、かねてから何度も「ターミネーターは2で完結した。全部 RUN した(やりきった)。」と公言していることから(→T2で完結,スープに小便【ジェームズ・キャメロン語録】)、また、今回も監督はせず、製作総指揮にまわった消極性から、やはり「ターミネーターは2で完結した」というのがキャメロンの本音であり、また事実上も、それが正しいのでしょう。
→詳細:ターミネーターがT2で完結した理由

結果として、「ターミネーター・ニューフェイト」は「蛇足」であり、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」で、「ニューフェイト」を作ってしまったことで、その最後のチャンスも失っただけでなく、T1とT2にも泥を塗り、ターミネーター・フランチャイズを台無しにしてしまいました。一言でいうと、ターミネーター映画は「オワコン」です。

今後も「ニューフェイト(Dark Fate)」の続編ではない「ターミネーター・●●●(なんちゃら)」というタイトルの作品が、数年後忘れた頃に、何食わぬ顔で作られる可能性はありますが、それらがヒットすることはありません。

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