漫画『ドラえもん』にて、のび太のママが、画面が乱れる不調気味なテレビを、
ここんとこをやく60度の角度でなぐるのがこつよ。
と言って、チョップで叩いて直すシーンがあります。のび太のママの「伝説のチョップ」です。
(参考)
- てんとう虫コミックス・短編第2巻第9話『タイムふろしき』
- 『ドラえもん深読みガイド』
少し古い2008年頃の調査では、以下のような結果もあります。
不調の家電品、6割が「叩いたことある」
~叩いたのは「ブラウン管テレビ」7割、パソコンも1割半
・・・あくまで不調を軽減するための応急処置か、一時的な気休めでしかないようではあるが、「一時的に直った」がすべての製品で5割以上という結果を見ると、「叩けば直る」という行為は、あながち無駄とは言えないのかもしれない。
https://web.archive.org/web/20130624073427/http://release.center.jp/2008/09/1202.html
この「機械が不調な時、とりあえず叩いてみる」というのは、どうやら日本に限ったことではなく、世界共通の、人類の普遍的なリアクションのようです。
その証拠に、ハリウッド映画の中にも「叩くと故障が直る」シーンが多々みられますが、今回はそんなシーンがある映画を一部、ピックアップしてみました。
電灯『ゴッドファーザー2』1974年
映画『ゴッドファーザー PART II』(The Godfather Part II、1974年)では、ヴィトー・コルレオーネ(ロバート・デ・ニーロ)がDon Fanucci(ドン・ファヌッチ)をリトルイタリーの祭りに紛れて暗殺を試みます。その際、廊下の暗闇に紛れて待機するために、ヴィトー・コルレオーネが予め、廊下の電球を緩めて明かりが点かないように細工をします。
そして、その電灯が点いていないことに気づいたドン・ファヌッチが、ライトをポンポン叩いて点灯させ直すシーンがあります。
昔から「機械の不調への人間の自然な反応」として、「とりあえず叩いてみる」というのが浸透していたことがうかがえます。
ミレニアム・ファルコン号『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』1980年
映画『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(Star Wars: Episode V The Empire Strikes Back、1980年)では、ミレニアム・ファルコン号を離陸させようとスイッチを入れるも、一度点灯したライト類が消滅。ハン・ソロ船長(ハリソン・フォード)が間髪入れずに慣れた手つきで叩いて、再びコックピット内のライト類が点灯する・・・というシーンがあります。
このミレニアム・ファルコン号を叩いて復旧させる、というのは、スター・ウォーズ・ファンの間では、以下のようにネタにされ、もはや伝説化しています。
改造によって非常に気難しい機体になった上に、修理に非常な手間が掛かるようになり、全真空管式またはハイブリッド式の古いテレビのように、不調の時は叩くと復旧するという妙な癖も持ってしまう。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ミレニアム・ファルコン
こうした改造は<ファルコン>に他の船には無い「個性」を与えており、壊れていてもソロが隔壁を叩くことによって調子を取り戻すということも珍しくなかった。→関連記事:「スター・ウォーズ」の中の日本語と日本文化
http://www.starwars.jp/wiki/<ミレニアム・ファルコン>
核ミサイル発射装置『ウォー・ゲーム』1983年
映画『ウォー・ゲーム』(WarGames、1983年)の冒頭の米軍の核ミサイル発射基地の、ミサイル発射装置のコントロールパネルの赤ライトに不調があり、指でライトを叩いてみろ。
という上官の指示に従って部下がライトを叩いたところ、正常に戻る、というシーンがあります。
このシーンでは、若かりし頃のマイケル・マドセン(Michael Madsen)の初々しい演技を見ることができます。
→関連記事:AIが学べた核戦争の無意味さを人間は学べるか【ウォー・ゲーム】40周年
デロリアン『バック・トゥ・ザ・フューチャー』1985年
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(Back to the Future、1985年)では、いよいよ未来へ戻ろうとするクライマックスで、タイムマシーン車であるデロリアンのエンジンがかからなくなります。主人公マーティ(マイケル・J・フォックス)が運転席で、絶望的にデロリアンのハンドルに頭突きをしたところ、デロリアンは目を覚ましエンジンがかかる、というシーンがあります。
ちなみにこのシーンが撮影されたのはロサンゼルスのグリフィス・パークです。
→詳細:タイムトラベル発着の名所グリフィスパーク
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のロケ地のメインのユニバーサル・スタジオの該当地は160mしかなく、スタジオとグリフィス・パークをうまく掛け合わせて、デロリアンの滑走シーンが撮影されていました。
→詳細:グレムリンが暴れたバックトゥザフューチャーの街
水陸両用飛行艇『コマンドー』1985年
映画『コマンドー』(Commando、1985年)では、メイトリックス大佐(アーノルド・シュワルツェネッガー)が、水陸両用飛行艇(Grumman G-21 Goose)にて、ラスボス・アリアスのアジトである孤島に向かおうとします。→関連記事:映画コマンドー孤島の怪(海・浜辺・兵舎・豪邸)
しかし、その水陸両用飛行艇はオンボロすぎてエンジンがかかりません。
しびれを切らしたメイトリックス大佐は、
Come on, piece of shit! >Fly or die!
このやろう、飛ぶか死ね(飛ぶか壊されるか選べ)!
Works every time.
これ(叩く)がいつも効くんだ。
とのセリフにて、水陸両用飛行艇のコックピット・パネルを思いっきり叩き、エンジンがかかるシーンがあります。
「Works every time. (これがいつも効んだ。)」とギャグ混じりに言っているように、機械が故障したら、とりあえず叩くのは広く認知された行為であることがうかがえます。
無線起爆装置『ダークナイト』2008年
バットマン・シリーズの映画『ダークナイト』(The Dark Knight、2008年)では、ジョーカー(ヒース・レジャー)が無線遠隔起爆装置で病院を爆破しようとします。しかし、最後の大爆発が起爆せず、手に持った無線遠隔起爆装置を叩いたり、ガチャガチャいじったりして、ようやく爆弾が起動するシーンがあります。
この「機械の不具合をユーモアとして使う」手法は、次の『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』にも共通しています。
公衆電話『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』2011年
映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(Mission: Impossible – Ghost Protocol、2011年)では、主人公イーサン・ハント(トム・クルーズ)が、IMFからの指令を聞くために、指定された公衆電話を使用します。ミッション伝達のデバイスとなったものは、証拠隠滅のために、名物の、
This Message Will Self-Destruct in 5 Seconds.
なお、このメッセージは5秒後に自動的に消滅する。
というセリフとともに、自己破壊するのが通例なのですが、なぜかこの公衆電話は自己破壊となりません。
そこで一旦、公衆電話から離れたイーサン・ハントが再度、公衆電話に歩み寄り、公衆電話を叩いたところ、自己破壊(証拠隠滅)機能が正常に作動し、公衆電話から煙が上がる・・・というシーンがあります。
この『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』の中では、シリーズの中でも随一、いろいろなスパイグッズが不調なのが特徴です。
→関連記事:壁を登るスパイダーマン手袋の仕組み【ミッション・インポシブル】
ユーモアの一環として不具合描写が挿入されていたわけですが、それとともに、これだけ全編CG(VFX)だらけの映画が増えている昨今、「技術を過信するなかれ、映画は最終的にはヒューマニズムが大切だ。」という、生身のアクションに身を張るトム・クルーズおよび製作陣のメッセージも、この機械不調に込められていたように感じます。
映画は人間の普遍的な営みの記録
機械類が不調・不具合を起こしている時、「とりあえず叩いてみる」というシーンが古くからの映画に記録されていることからも、この行為は、人類が道具とともに歩んできた長い歴史の中での普遍的な営みであることがうかがえます。人間が「不調なものをとりあえず叩いてみる」のは、何も機械や道具に限ったことではありません。例えば意識を失った人のほっぺたを叩いて目を覚まさせようとすることもあり、この人間の所作のルーツは、その辺りにあるのかもしれません。
その時その時の文化や流行だけでなく、人間の普遍的な営みが記録されているのも、映画のおもしろいところです。