ターミネーターなのにレーザーサイトを使った理由

ターミネーター 洋画

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ターミネーターとレーザーサイト
映画「ターミネーター(T1)」(1984年)では、レーザーサイトを装着した銃(AMT ハードボーラー)が登場します。

ターミネーター(T-800)はサイボーグなので、本来、銃の照準を合わせる際にレーザーサイトによる目視は必要ありません。実際、「ターミネーター2」にてT-800は、Pescadero State Hospital(ペスカデロ警察病院)でゲートの守衛を、サイバーダイン社ではSWAT部隊を、照準を使わず腰の位置から正確に射撃しています(しかも「人を殺さない」という約束を守るために、致命傷にならないよう動脈を避けてピンポイントの射撃ができています)。

では なぜT1ではレーザーサイトを使ったのでしょうか。

映画の中の描写から以下のような3つの理由が推察できます。

1.「ねらっている」という心理的効果

ターミネーターが2人のサラ・コナーをねらう以下の2つシーン両方で、サラ・コナーの額にわざわざ赤いドット(レーザーサイト)を当てるシーンが挿入されています。


つまり、標的(サラコナー)を確かに「ねらっている」「ねらわれている」という心理的効果を生み出す映像演出のために、ジェームズ・キャメロン監督はレーザーサイトを用いたようにみえます。

観客は、サラコナーの額のレーザーサイトの赤い点とサラコナーの顔の両方をワンショットで観ることができるので、「ねらっている」「ねらわれている」の両方を一度に、より強く感じることができます。

このことがわかりやすい例として、映画「レオン(LEON)」(1994年)があります。

「レオン」の終盤で、アパート内にいるレオンを、外から狙撃手がねらうシーンで、レーザーサイトの雨が降り注ぎます。
映画レオンのレーザーサイト場面
狙撃手はスコープを付けているのでレーザーサイト照射はまったく必要なく、また本来、狙撃手は気付かれないように撃つのが任務のはずですが、わざわざレーザーの光線を見せることで、観客に「ねらわれている」という心理的インパクトを与えることができます。

1984年の「ターミネーター1」以降、いろいろなハリウッド映画で、このレーザーサイトと同じ演出技法が見られるようになります。

1980年代はレーザーサイト・ブーム

1980年代は、レーザーサイトを付けた銃を振り回すことが「ナウい」時代となりました。

「ターミネーター1」(1984年)のすぐ後に作られた、「ターミネーター1」とポスターの構成がそっくりなシルベスター・スタローン主演の映画「コブラ」(1986年)でも大きなレーザーサイトを付けた銃が登場します。ポスターでもレーザーを前面出ししています。
→詳細:スタローンとシュワちゃん競合時代の面影

また、これまたスタローンとカート・ラッセルが主演した1989年の刑事映画『デッドフォール』(Tango & Cash)でも、かなり大きなレーザーサイトを取り付けた銃(レボルバー)が登場します。こちらもポスターでレーザーを前面出ししています。 レーザーサイトを取り付ける実用性がまったくないような、ともすれば銃(Ruger GP100)本体よりも巨大なレーザーサイトのほうが目立ってしまっており爆笑ものですが、それが ある意味、見所な映画です。

1990年の映画『プレデター2』(Predator 2)でも主演のダニー・グローバーを筆頭に、笑ってしまうくらい登場する刑事がことごとくレーザーサイトを付けた銃を所持しており、レーザーサイトがこの時代のカッコよさの象徴みたいになっていました。

T2でもレーザーサイトの同じ演出

ちなみにT1の続編T2(ターミネーター2)にもレーザーサイトが登場し、同じような演出がなされていました。

サラ・コナーがマイルズ・ダイソン邸にて、マイルズ・ダイソンを狙撃するシーンです。

サラ・コナーがアサルトライフル(Colt "Commando" CAR-15)にて、マイルズ・ダイソンを狙っている際、マイルズ・ダイソンの背中から首、後頭部に向かって、レーザーポイントの赤いドットが動いていくシーンが挿入されています。

「サラコナーがどこを狙っているのか?」観客に分かりやすいように、レーザーサイトを使っての「ねらってる感」の演出がなされていました。

ターミネーターT2-3D:Battle Across Timeでも同じ演出

ユニバーサル・スタジオで公開された『ターミネーターT2-3D: Battle Across Time』でもまったく同じようなレーザーサイトの演出がされていました。

未来の戦場で、ジョン・コナー(エドワード・ファーロング)の顔にT-800がレーザーサイトを照射し、プラズマライフルを今まさに撃とうとするシーンがあります。
→詳細:ターミネーターT2-3DとTENET(テネット)の戦場廃墟

ジョン・ウー監督が「白い鳩」演出が大好きだったように、ジェームズ・キャメロンは「レーザーサイト」演出がかなりお好きだったようです。

2.未来感の演出

レーザーサイトが使われたもう1つの理由に、「未来感の演出」というのもあります。

映画「ターミネーター」が公開された1980年代は、きらびやかな未来へ「イケイケGO!GO!GO!」という感じで、いろいろなことがバブル、未来といえば「きらきらレーザー」みたいなところがありました。サラコナーをねらってターミネーターが銃乱射したディスコ「Tech noir(テクノワール)」も、レーザー光線で店内が満ち溢れていました。

また、ターミネーターがいた未来では、「プラズマ・ライフル」という光線銃が使われており、ここでも「未来=光線」というイメージが使われていました。

さらに、ターミネーターがアラモ鉄砲店で銃を奪う際の、鉄砲店店主との会話にも光線銃やらレーザー系の会話が次々と登場します。

ターミネーターT-800:
The .45 Long Slide, with laser sighting.
「レーザーサイト付の45口径のロングスライドの銃(AMTハードボーラー)を。」
鉄砲店店主:
These are brand new; we just got them in. That's a good gun. Just touch the trigger, the beam comes on and you put the red dot where you want the bullet to go. You can't miss. Anything else?
「こいつは入荷したばかりの新しいヤツだ。いい銃だよ。引き金に触るだけでレーザーが少佐され、標的に赤いドットが照射される。撃ち損じることはないよ。何か他には?」
ターミネーターT-800:
Phased-plasma rifle in the forty watt range.
「射程400可変式プラズマライフルを。」
鉄砲店店主:Hey, just what you see, pal.
「ここにあるのが在庫のすべてだよ。」

前述のクラブ(ディスコ)「Tech noir(テクノワール)」という名称にも、ジェームズ・キャメロンの「未来感」が込められていると言えます。

「Tech noir(テクノワール)」というのは、この映画「ターミネーター」だけのフィクションの店名ですが、「Tech noir(テクノワール)」という単語は、cyber noir(サイバー・ノワール)、 future noir(フーチャー・ノワール)、science fiction noir(SFノワール)を掛け合わせたジャンルの造語だ、との説明があります。
Tech-noir (also known as cyber noir, future noir and science fiction noir) is a hybrid genre of fiction, particularly film, combining film noir and science fiction, epitomized by Ridley Scott's Blade Runner (1982) and James Cameron's The Terminator (1984). The tech-noir presents "technology as a destructive and dystopian force that threatens every aspect of our reality."
https://en.wikipedia.org/wiki/Tech_noir

以上から、未来のテクノロジー(未来感)を表現するために、レーザーサイトを用いたことがうかがえます。

3.新しいモノ好き・重火器オタのJ.キャメロン

これは上述2の理由と重なってくる部分がありますが、ジェームズ・キャメロン監督は、新しい技術を採り入れるのが大好き&重火器オタクという特徴があります。

例えば1989年に監督した映画「アビス(The Abyss)」では、液体がグニョグニョ動くCG技術を採り入れ、この技術が「使える!」と確信して、さらにその技術を発展させて「ターミネーター2」での液体金属T-1000のキャラクター造成につなげました。

1980年代当時、「レーザーでの銃の照準」という珍しい話を聞いた新しいモノ好き&重火器オタクのJ.キャメロンは、早速、自分の映画にそれを取り入れたわけです。

但し、今でこそ、ハンドガンのグリップの中にさえ内包できるほど小型化したレーザーサイトですが、当時1980年代はかなり大きく、大きなバッテリーも必要な機構でした。そのため、このAMTハードボーラー(映画で使われたプロップ)のように、大仕掛けな小道具が映画に使われることになりました。

In 1984, laser sights were rare, and required a high level of power. This helium-neon laser needed 10,000 volts to turn on, and a further 1,000 volts to maintain its brightness. The cables were run up Arnold's arm to a battery that was in his M65 field jacket. The laser was activated by his other hand.

1984年時、レーザーサイトはまだ希少で、ハイパワーを必要とした。このヘリウムネオン・レーザーは、点灯させるのに1万ボルトを必要とし、照射を維持するのに1000ボルトを必要とした。そのため、バッテリーとスイッチにつなげるケーブルをアーノルド・シュワルツェネッガーのM65フィールドジャケットの袖の中から通し、反対側の手でレーザーの点灯を行った。
http://www.imfdb.org/wiki/The_Terminator


なので、「引き金に触ればレーザーが自動点灯する」というのは鉄砲店店主のセリフは完全にフィクションではありますが、逆に言えば、わざわざそこまで大掛かりな仕掛けを構築してまで、レーザーサイト銃を採り入れたかった、ということであり、「ターミネーターがレーザーサイト付の銃を使った」というのは、演出上、結構重要な意味を持っていたことがわかります。

こうした1つひとつの細かい演出の積み重ねが、観客が「ターミネーター」という映画から受けるインパクトを増幅させた要因の1つになっていると言えるのではないでしょうか。

ところが、「ターミネーター2」の「正統な続編」という触れ込みで公開された「ターミネーター・ニューフェイト(Dark Fate)」では、このような細かい演出が一切なく、あまりに単調な映画に仕上がっており、ジェームズ・キャメロン色はゼロでした。「ターミネーター・ニューフェイト」の監督はティム・ミラーであり、製作総指揮のジェームズ・キャメロンは、現場には一切、足を運ばなかったそうで、観客が期待したようなジェームズ・キャメロン作品とは、かなりかけ離れた出来でした。それが「ターミネーター・ニューフェイト」が大コケし、大失敗に終わった理由の1つと言えるでしょう。

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