電話帳とターミネーター

サラコナークロニクルズ ターミネーター

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電話帳と電話ボックスとターミネーター

映画『ターミネーター』(The Terminator、T1、1984年)と言えば電話帳。

紙の電話帳は、全世界でほぼ絶滅危惧種ではありますが、これだけ電話帳が主人公の運命を左右した映画もない、といえるほど、ターミネーターでは電話帳が重要なアイテムとなっています。

そんな電話帳ですが、ターミネーター・シリーズにおいて、電話帳が登場したのは、以下の2作品のみです。

1.「ターミネーター1」(T1)

カイル・リースが到着早々、電話帳をチェック

T1では、カイル・リースが未来から到着して路地裏から警察を巻いて、道路に出て早々、電話ボックスに駆け込み、電話帳でサラ・コナーの住所を探します。

カイル・リースは、電話帳確認後、電話帳に載っている3人の「サラ・コナー」のうち、すぐにジョン・コナーの母親のサラ・コナーの尾行(警備)についたことから、未来でジョン・コナーから、だいたいのサラ・コナーの住所は聞かされていたと考えられます。(もちろん、写真で顔も知っていたので、本人確認はT-800よりも簡単だったようです。)

T-800シュワちゃんも電話帳をチェック

T-800シュワちゃんも、日が昇ってから、公衆電話の電話帳を確認します。

細かい演出1:T-800の恐怖を煽る

このシーンでは、カイル・リースと違って「ただ電話帳を見る」のではなく、その前に電話中のガタイのいい男性を力づくでどかすというワンシーンを挿入することで、「その男、凶暴につき」と観客に印象付け、観客を引き込む演出がなされていました。

後続のシーンでも、「人違いサラ・コナー」宅に到着する際、「ただ車を停車させる」ではなく、道路上に置かれたオモチャのアートルのトラック(ERTL International TRANSTAR Automatic DUMP TRUCK Heavy Guage Steel 3419)を引いてから停車する、という同じようなT-800シュワちゃんの恐怖感を心理的に増幅させる演出がなされていました。
ちょっとしたワンシーンに、ジェームズ・キャメロンならではの細かい味付けがなされており、シーンとシーンの間が単調にならないよう、演出の工夫が至る所に散りばめられています。

こうした細かい演出の積み重ねが、「ターミネーター」というサイボーグの圧倒的存在感を確立させ、ひいてはT1を成功に導いたのでしょう。

細かい演出2:観客へのわかりやすさ

さらにこのT-800シュワちゃんの電話帳のシーンでは、3つ掲載されているサラ・コナーの名前を指でなぞる、という細かい演出がなされています。

本来なら、ターミネーターなので、わざわざ指でなぞらなくても、一度の目視だけで認識(撮影)できるはずです。

しかし、わざわざ指でなぞる、という仕草を取り入れて、「Sarah Connor という名前のところを見ている」ということを強調し、観客が「この男は今、どこを見ているのか?」というのがわかりやすいようになっています。

これと同じ「親切な演出」は、T1、T2におけるレーザーサイトの活用が挙げられます。T1,T2でもレーザーサイトで標的を照射することで、「今、撃ち手がどこを狙っているか?」が観客に分かりやすいように演出されていました。
→詳細:ターミネーターなのにレーザーサイトを使った理由

ちなみにこのシーン、シュワちゃんT-800の右手はConnor Sarah(サラ・コナー)を指差しでなぞっていますが、左手はジョン・コナーのところを指さしています。但し、指差しているのは Conner Johnであり、ターミネーターのJohn Connorとは、スペルが違いますので、ただの偶然で撮影上の隠された意図や意味はありません。

尚、T1におけるT-800シュワちゃんは、「サラ・コナー」という名前の人物を、電話帳の掲載順に上から消していったことから、"The Phone Book Killer"(フォンブック・キラー/電話帳殺人魔)と呼ばれていました。

サラ・コナーも電話帳をチェック

これはT1の非公開シーンですが、小さなトンネル(おそらく道路下に設けられた野生動物の道路横断用のトンネル)でカイル・リースとサラ・コナーが一夜を過ごした後、Falls Cafeに向かいます。
→詳細:ターミネーター2発祥の地T1【フォールズ・カフェ】

このフォールズ・カフェの公衆電話で、サラ・コナーは「サイバーダイン社爆破計画」を思いつき、電話帳のサイバーダイン社が掲載されたページを引きちぎってカイルリースに見せます。

つまり、スカイネット派遣のT-800シュワちゃんは、電話帳を見てサラ・コナーを消そうとしますが、サラ・コナーは電話帳を見て、T-800の大元であるサイバーダイン社(スカイネット)を消そうとした・・・と、両者が電話帳を介してやり合う「電話帳バトル」の構図がおもしろいところです。

尚、このT1でのサイバーダイン社爆破計画は頓挫(封印)され、T2の主要テーマとして蘇ることになりました。その思いは、「ターミネーター2」のサラ・コナーの服装にもよく表れています。
→関連記事:T2サラも愛用のカイル・リースのコートの怪

尚、電話帳のページを引きちぎるのは、ハリウッド映画の「あるある」で、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でも、マーティ(マイケル・J・フォックス)が、カフェの公衆電話にて、電話帳のドクの住所(と「サイエンティスト」と職業まで記載されている)が載ったページを引きちぎっていました。タイムトラベルものに、電話帳はかかせないアイテムになっています。

2.ターミネーター・サラ・コナー・クロニクルズ(TSCC)

ターミネーター・シリーズで、T1以外に電話帳が登場した唯一の作品が、『ターミネーター:サラ・コナー クロニクルズ』(Terminator: The Sarah Connor Chronicles、TSCC、2008-2009年)でした。

TSCCの時代は、すでに携帯電話の時代になっており、電話帳は消え始めたタイミングではありますが、それでもT1のオマージュ仕立てで、電話帳が登場します。

T1のオマージュ「標的を守る」お話

シーズン2第5話「永久に別れを / Goodbye to All That 」では、「マーティン・ベデル」という名前の人物が、ターミネーターに次々と狙われる・・・というT1のオマージュ仕立てのストーリーになっています。

そのため、このエピソードでやってきたターミネーターT-888は、T1のシュワちゃんにそっくりな恰好をしており、持っている銃もT1と同じ、レーザーサイト付AMTハードボーラーとなっています。
→詳細:T1・AMTハードボーラーへのオマージュの家

「マーティン・ベデル」という人物が一人消されたというニュースを聞いたデレク・リースからの話で、ジョン・コナーが「マーティン・ベデル」という人物が残り何人いるか?を確認するために、このサラ・コナーの家(シーズン2)のキッチンの引出しから電話帳を持ち出して、「マーティン・ベデル」名を確認します。

その後、サラ・コナーとキャメロンは2人目の「マーティン・ベデル」の保護へ、デレク・リースとジョン・コナーは、本命の3人目の「マーティン・ベデル」の保護へ向かいます。
→詳細:Presidio Alto Military Academy【軍士官学校】

銃試射の標的に

さらにシーズン2第11話「ピコ・タワー / Self Made Man」でも電話帳が登場します。

このエピソードでは、ターミネーターが間違った時代(1920年)にタイムトラベルしてしまったらどうなるのか?という面白い考察がなされていました。その調査の過程で、キャメロンは夜な夜な図書館に通って調べものをするのですが、図書館の夜勤の青年エリックが、キャメロンが持っている銃(グロック17)に興味を持ったため、キャメロンはエリックに銃を撃たせてあげます。

その際に、銃の標的にしたのが電話帳(ロサンゼルスの電話帳Yellow Page/イエローページ)でした。
→関連記事:キャメロンが夜ドーナツ持参で通った図書館
ターミネーター・キャメロンとグロック17
"A 17 Round Glock 9mm Semi-Automatic"シーン

電話帳(Yellow Pages Los Angeles)に食い込んだグロックの9x19mm弾の弾頭を抜き取って、キャメロンはエリックに渡してあげます。

本来の電話帳としての機能ではなく、銃の標的に使われるという雑な扱いが、電話帳の変遷(衰退)を象徴しているようでもありました。

このエピソードもおもしろく、キャメロンがカリフォルニア州知事(当時の実際の州知事はアーノルド・シュワルツェネッガー)を暗殺から救ったようなオチになっています。
→詳細:シュワ州知事を救った?ピコ・タワー

公衆電話

ちなみにターミネーター・シリーズにて公衆電話が登場するのは、T1とT2のみです。

T1では前述3つのシーン以外にも、
  • クラブ・テクノワールにてサラ・コナーが警察やシェアメイトに連絡する際にも公衆電話が使われましたが、シェアメイトへの留守電メッセージがT-800に聞かれたことで、クラブ・テクノワールでの銃撃戦へとつながります。
  • また、TIKIモーテルから、サラ・コナーが母親(に成りすましたT-800)に電話をかけてしまったことで居場所がバレ、カイル・リースの命を縮めることにつながってしまいます。
シリーズ全般を通じて、サラ・コナーにとって、電話というものは不幸を呼ぶ以外の何物でもなかったようです。

T2では、T-800シュワちゃんが公衆電話を破壊して小銭を取り出しますが、この場面、ジョン・コナーが液体金属T-1000と直接会話を交わした唯一のシーンとなっています。
T3からは時代に合わせて携帯電話(ガラケー)へ推移していき、公衆電話は消えていきます。

米ニューヨーク市で最後の公衆電話が撤去、かつては街の象徴
https://www.youtube.com/watch?v=oMMmHb7q-AM

米NY最後の公衆電話を撤去 「スーパーマン」も使用(2022年5月)
https://www.youtube.com/watch?v=hCFBwCE4uaU

【電話帳】涙の廃刊!ハローページとタウンページはどうなった?【ゆっくり解説】
https://www.youtube.com/watch?v=d5yZ1iHWSLI

個人情報満載 過ぎて、今となっては不思議な電話帳という存在ですが、昔は一人暮らしを始めれば、まず電話の権利を買うこと(固定電話の電話番号を持つこと)、そして電話帳に名前が載ることが1つの常識かつ社会的ステータスでもあった時代があります。

ターミネーターは、そんな時代の側面を切り撮ったおもしろい作品であるとともに、個人情報取り扱いの危険性を問うた映画としても、先駆的でした。

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